大学特集

今年春の4年制大学への進学率が50%を超え、望めば誰でも大学での「学び」の機会が得られる日本。一方で「大学」の概念の希薄化や国際レベルに照らした学生の学力低下が懸念されている。中央教育審議会が昨年末に出した答申「学士課程教育の構築に向けて」は、学生の“質”を保証するものとして「学士力」を世に問うている。国際的に通用する「学士力」とは? 大学、高校、文部科学省と経済界の立場から4氏に話し合っていただいた。
出席者
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学生の“質”を保証するもの

司会 今年春、4年制大学への進学率が初めて50%を超えました。事実上の「全入時代」ともいえる大学の現状をどのようにとらえていますか。
義本 昨年12月の中教審の答申「学士課程教育の構築に向けて」は、大学教育の内容について初めて本格的に議論した、大学教育改革の“処方箋”ともいうべきものですが、その最大のポイントは「何を教えるか」よりも、学生が「何を学んだか」、あるいは「何を身につけたか」に主眼がおかれていることです。
「全入」に近い状態になるにつれて、かなりの大学で入学試験の選抜機能が十分に働かなくなっており、大学で学ぼうという意欲や基礎的な学力が十分でない学生が入ってくる。大学教育の水準保証の問題としてどう考えていくか―というわが国の大学が直面する問題があります。
もう一つは、「ラーニング・アウトカム」すなわち学部卒業者の学修成果が世界的に問われる時代だということ。言い換えれば「大学で何を身につけたか」を社会的に明らかにしていくことが、大学が競争に生き残るためにも必要で、それが世界的な潮流になっているということです。
納谷 今、短大も含めて全国に773の大学があります。なかには定員割れに陥っているところもありますが、個々の大学が自身の置かれたポジションを再認識した上で、社会に受け入れられるためのさまざまな挑戦をすれば、自ずと特色も出てくる。そういう意味で、むしろこれから本格的な大学間競争の時代が到来すると、私自身は基本的に考えています。
「学士力」について言いますと、例えばEU(欧州連合)が域内の労働力の移動を自由にしていくためには、加盟各国がある程度等質な学力をもった人たちが必要になってくるということは、論理的にはその通りです。
日本の大学も国際力を高めていくためには当然、そういうことを視野に入れて考えなければいけないと思いますが、問題は「学士力」を客観的に見える形でどのように評価し、社会に明らかにしていくか。その基準づくりが非常にむずかしい。
日本の社会全体が学士、あるいはそれを出す学部に何を期待するのか。そこを具体的にすることが前提としてあるのではないか。これは私の問題提起です。
山中 「全入時代」は基本的には大変いいことだと思いますが、一方で国際競争力を含めて日本の世界での存在感がどんどん下がってきています。この状況に大学がどう対応すべきかという視点から「学士」に何を望むかを考えたとき、私は三つあると思います。
一つ目は「問題解決型個性」。これまでのような金太郎飴型の人間、つまり与えられた問題を教えられたように模範解答する人間ではなく、自身が問題意識をもって、自分で解決策を探し、それを実行・発信できる人材ですね。
二つ目は「自分」という存在を社会や国、世界と関連づけて、自分がそれらといかにかかわり、自分自身が最も活躍すべき場とは何なのかを考え、どんどん広げていくことのできる「相対的な距離感覚」を備えた人材。
三つ目はインターネット社会にあって、既存の知識そのものの価値はあまり意味をなさなくなってきています。今後必須となるのは自分自身で既存の知識を組み合わせ、あるいは新しい知識を結びつけて、さらに高度な価値をもつ新たな知識に昇華させることのできる「知識融合・創造型」の人材です。
そして、この三つが今後“世界競争に耐える創造的な知力”の根源をなし、個人、企業、国の発展を保障する決定打になります。そんな力を「学士力」と定義したいと思います。
戸谷 グローバルな世界では、世界での通用性と競争力を備えていることが「学士力」の大きな要件となることは、ご指摘の通りだと思います。その中で「高大接続」も重要なテーマになっていると考えています。理想を言えば、これからの“学びの接続”を通して、学力や教育の質を上げていくことが必要不可欠であり、その結果を世界基準の「学士力」にどう結びつけるかが重要です。
しかし、高校進学率が98%、4年制大学への進学率も50%を超え、大学も機能分化している実態を踏まえると、大学教育は高校教育の上に積み上げられるものという「縦の接続」だけが現実的といえるのかどうか。
生徒や学生のさまざまな学力や個性に対応して、高校での教育を引き継ぐ形の「横の接続」と組み合わせた、いわば“モザイク型の接続”も現実的な側面として考えておかなければならないのではないか、という思いを持っています。
中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」にある「高大接続テスト」も、そのような視点で研究してみることが必要です。また、「学士力」を考える場合も、こうした現実面も念頭に置く必要があると思います。
4年制進学率が50%を突破
18歳人口および大学・短期大学への進学率の推移
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文部科学省の平成21年度学校基本調査(速報)によれば、今年4月、4年制大学への進学率が50.2%に達し、初めて18歳人口(121万人)の半数を超えた。実際の入学者数は60万8700人(国立10万1800人、公立2万8400人、私立47万8500人)。

4年制大学の進学率は昭和44年には15.4%だったが、20年後の平成元年には24.7%、同11年には38.2%と伸び、昨年は49.1%だった。一方、今年4月の短期大学への進学率は6.0%で前年より0.3ポイント低下。短大人気の低下には依然歯止めがかからない。

グラフに見るように、18歳人口が減り続ける一方で、生き残りを懸けた4年制大学の定員増加は続いており、今春の志願者に対する入学者の割合(収容率)は91%に達している。

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