大学特集

国際レベルの人材づくり

司会 「国際レベルの学士力」とは、どうとらえればいいのでしょうか。
義本 「社会人基礎力」あるいは「学力」という言い方をしようが、それを絵に描けばいいという話ではなくて、大学あるいは行政に求められているのは、それをどう実質化していくかという問題だと思います。例えば「課題発見力」といっても、それを教科レベルに落としたとき、具体的にどういうことに関連するのかをもっと深く議論するとか、異文化体験とか、さまざまな国からの留学生と交わるなかで切磋琢磨する機会を設けるとか、つまり実際のカリキュラムにどう落としていくのかを考えていく必要があります。
文科省としては、カリキュラム改革や教育方法の改善に積極的に取り組む大学を財政的に支援するため、いわゆるGP事業を進めています。国際的な観点からは、さまざまな国内外の学生や教員が集う大学を創出し、多様な価値観や文化に触れる場をつくっていくことが大事だと思います。
「グローバル30」は最たるものですが、大学間の交流をより活発にしていくようなスキーム作りも、もう一つの課題として取り組んでいるところです。
ただ、全国には世界で競い合う総合大学もあれば、教養教育を一生懸命にやる大学、地方で高等教育の機会をしっかりと支えている大学などさまざまな大学があり、大学での多様な学びを希望する人にその機会を保証するという観点からは、それぞれが大事な一翼を担っているわけですね。
山中 ある一定の基準に照らして100点を取れる大学を100校作るというのはしょせん無理な話です。ですから、例えばコミュニティーカレッジならコミュニティーカレッジの中で生き残れるスケール、あるいは組織作りをすることが重要で、入る学生もそれを期待し、卒業生もそういう大学を出たという実績をもって社会に出て行くというふうになっていく必要がある。
一方、国際競争の中で十分活躍できる人材をつくる大学は、日本国内での比較が問題でなく、世界を対象に国際競争に打ち勝つ大学になる必要がある。当然、それ以外の選択肢も多々存在する。大学がとるべき戦略、戦術、実行動計画、経営プロセス、人材管理などはすべてそれらの選択の下で変わってくるわけで、そういう多様化した対応を文科省にはお願いします。
それはともかく、国際的な会議などでよく感じるのは、日本人は何か問題提起をしても食いついてこないということです。手も挙げない。意見も言わない。ところがテーマを出して論文を書かせると、それなりの内容を書いてくるんです。だから知識が不足しているわけではなくて、大勢の中でたくましく自分の意見を述べて、自分を高めていく能力が足りないのかなと。
日本の学生たちを見ていると、正しい答えは一つだけだと思い込んでしまっているようですね。私自身、反省しなくてはいけないのですが、正しい答えは一つだと思うと、急に迫力がなくなるんですよ。
納谷 なぜ、日本人がそうなったのか。私には何でも均質化し、無駄を省くことをモットーにやってきた高度経済成長期の社会風潮が基盤になっているという気がします。ある枠からはみ出すと異端扱いされるから、無駄なことはしないという心理ですね。
私は高校生と話す機会があると、「若いときは失敗したって取り戻せるのだから、『こんなこと無駄だ』と思うようなことでも、どんどんやってみるといい」と言っております。しかし、社会全体が変わっていかないと、なかなかそういうことを許容する風潮にはならないのかな。
明治大学にくる学生を見ても、昔に比べて学力レベルは上がっています。しかし、自分のやりたいことを外に出していく勇気が足りない。出していく場がないと言った方がいいのかもしれませんが。
義本 「友達」という横の関係の中だけで生活し、縦あるいは斜めの関係の中で自分をきちんと主張する機会をもたない今の若者にとって、高校もそうだけれど、特に大学はそれができるとても大きな場だと思いますね。
英語力や情報処理力という点では、多分いまの若者は20年前の若者よりはるかに身につけていますから、大学が学生にさまざまな体験をさせることができる場になれば、山中さんがご指摘のようなことを解決していくことも含めて、彼らの可能性を大きく開くことができるのではないでしょうか。
納谷 それが全入時代に大学が生き残るコツだと思いますね。
戸谷 山中さんのご指摘はとても大切なことだと思います。日本の勉強の概念では、すぐに「答えは一つ」というところに行き着くんですね。でも、人生に答えが一つなんてことはあり得ないわけです。私たちがこれまで行ってきた教育で、自分で物事を考える過程を大切にするということをおろそかにしてきたツケというべきかもしれません。
高校の授業で「あなたの意見は?」と聞いても、なかなか自分の考えを言わない。「正解は何ですか」が先にきてしまう。自分の考えをまとめた上で、いろんな人とディスカッションする中で、自分自身を高めていくという思考過程に慣れていないから、大学に行ってもそうなってしまう危惧はあります。
問題解決に向け、しっかりと思考できる力は、自らのキャリア形成をこれからどう構築していくかとも大いに関係してきます。高校も力を入れて指導していかないといけないと考えています。

さらなる国際化へ

司会 外国の大学生に比べて、日本の大学生は勉強しないという話をよく聞きます。「中国の大学生の勉強ぶりはすごい」とか。
納谷 確かに中国や韓国では、いわば国策として高等教育や先端的研究にヒト・モノ・カネを投入して国際的競争力を強めています。勉強量にかなりの格差はあるが、だからといって日本の学生が勉強していないわけではないんですよ。知識をきちんと整理して、自分が使いやすいようにするという意味では、相当に勉強していると思います。
それと関連して言いたいのは、「大学の本来の役割は教育である」ということです。昔の大学教員の大部分は「研究こそが大学の使命だ」と思っていたけれど、今の学生には、そういう論理は通用しません。大学の原点は「人材」をつくることであり、研究はもちろん大切だが、教育の場にその成果を生かす努力をしてもらわなければいけない。
教育の質を高めるためにFD(ファカルティー・ディベロップメント)をはじめ教育環境を整え、資金の裏付けなどさまざまな施策を講じましょうというのが今の大学改革なんです。
実際、今の学生は休講したら抗議にくるし、授業の中身がなおざりなら文句を言ってきます。
戸谷 私の都立文京高校では、目指す学校像の三つの柱の一つとして「進学対策重視」を掲げて、国公立大学や私立上位校への進学実績を上げるため、進学指導の充実に努めています。
特に国公立クラスを設置していますが、そのねらいは1、2年生でリベラルアーツの基礎をきちんと学ばせようということです。高校多様化の中で必履修単位や卒業単位が減ったことで、経済学部に行った生徒が統計処理ができないとか、理系の学部に行った生徒がプレゼンテーション能力が弱く、自分の研究についてうまくプレゼンができないといった指摘を受けることがあります。
多様化で選択幅は拡大しましたが、基本的には文系・理系を問わず、幅広く教養科目を学ばせることが大切です。こうしたことを実現するための牽引車として国公立クラスを設け、真の学力の向上を図りながら、生徒たちの進路実現につながっていくことを期待しています。
ところで、今の高校生たちには「国際化の中の自分」といった視点は乏しいですね。諸外国の高校生がどんなふうに勉強し、「学び」といかに向かい合っているかといったことをほとんど知らない。そんな彼らに高校段階で、大学に行って直面する「国際レベルでの学士力」に目を開かせておくことは、これからの課題となるでしょう。
山中 生徒たちに「国際化」への目を開かせることは、大学へ行く前に非常に重要だと私も思います
経済同友会は「学校と企業・経営者の交流活動」というのをやっています。10年間にわたり2千人ほどの経営者が中学校や高校へ出かけて行き、そもそもなぜ勉強するのか、どんな職業があるのか、どんな職業に就くのかなどを含め、いま世の中はどうなっているか、グローバルな世界とはどんな世界なのか、そこではどんな人が活躍できるかなど、経営者が自分の肌で感じた広がりゆく世界観を語りかけています。
学校からは「子供たちが自分の将来への希望や目的をもつきっかけになる」と評価していただいています。ぜひ、そんな活動も利用してください。
ところで、私は大学の役割は大きく二つに分けられると考えています。一つは社会の上層部をいかにより高い水準にもっていくか、結果として日本を世界の最先端に引っ張っていくことを担当する大学、もう一つは社会全体をボトムアップするコミュニティーカレッジのような大学で、これらがその役割を十全に発揮することで、国民の文化レベル全体が押し上げられるのだと思います。
その中で若者たちが、自分の意見を持ち、果敢にディベートに挑み、安易に譲らない「ごつごつとした個性」を育むことが、日本人全体、ひいては日本の一層の国際化につながる。大学全入時代は基本的に良いことだと思いますから、大学自身がそれぞれの味を最大限に生かす基本戦略決定の後、果敢に自己改革していってほしいと思いますね。
義本 日本の大学進学率はOECD(経済協力開発機構)加盟各国の中では中位にあり、世界的に見て高いという水準ではありません。ただ、これからの大学は18歳人口を受け入れるだけでなく、留学生はもちろん、社会人など幅広い年齢層が学べる「生涯学習」の場としてとらえていく必要があるのではないか。
もう一つは、ヨーロッパ最古のイタリアのボローニャ大学の時代から、大学とはユニバーサルな場であったわけで、あらゆる所から優秀な人材が集うことこそが、グローバル化の中で大学の質を高めることにつながる、ということを再確認したいと思います。
そうした大学づくりに大学自身や行政だけでなく、社会が総がかりで参画し、推進することを目指していけたらと思います。
納谷 高等教育の基本的な役割は国力の基礎づくりだと、私は考えています。日本という国がさらに国際化していくためにも、大学で教育を受けた人材が必要で、「これ以上、大学生を増やさなくていい」というものではありません。社会全体がもう一度、大学のあり方を考え直して、実を伴った改革を共通認識の下で進められたらと考えます。
司会 ありがとうございました。
4年制の46%が定員割れ

日本私立学校振興・共済事業団が行った平成21年度の「私立大学・短期大学等入学志願動向」調査によると、集計対象となった4年制大学は570校で前年度より5校増加。入学定員も約45万人で同1500人増加した。

21年度に定員割れした4年制私立大学は265校で、調査対象570校の46.5%に達している=グラフ(左)。短期大学の経営状況はもっと厳しく、調査対象356校のうち246校、実に69.1%が定員割れとなっている=グラフ(右)。

定員割れ私立大学数の推移 定員割れ私立短大数の推移
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