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フィンランドのヘビーメタルバンド
ヘビーメタルはうるさい。それは否定しないが、しかし、このフィンランドの5人組、ナイトウィッシュの音楽は、ヘビーでメタルなだけではない、北欧の音楽ならではのメランコリックな要素もたっぷりで、その哀感はまさに日本人の精神性に訴えるものがある。さらに「オペラ座の怪人」「エリザベート」などのミュージカル音楽に通じる荘厳さも魅力だ。公演のために来日したバンドのうち音楽的な中心人物であるキーボード奏者、ツォーマスとベース奏者、マルコに話を聞いた。
text & photo by ENAK編集長


黄泉の帝王がエンヤを真似ると…
個人的にはハードロックは大好きだが、ヘビーメタルになると苦手。両者の差を説明するのはこの際、省略するが、ともかく正直にいえばあまりインタビューには乗り気ではなかった。もうギリギリまで放り出しておいて、直前に慌ててiPodで最近作「ワンス」を聴いて、おや?と思った。

幕開け曲「ダーク・チェスト・オブ・ワンダーズ」。ギターのひずませ方は、いかにもヘビメタ。グリーグの「ペールギュント」ふうのリフは、リッチー・ブラックモアっぽい。このあたりはこのての音楽の定石といえると思うが、ターヤの朗々とした歌い方と荘厳なバックコーラスが独特でいいではないか。真っ先に考えたのはミュージカル「エリザベート」の「トート<死>」がエンヤを真似た音楽を奏でたらこうなるのではないか、ということ。実に、きわめて妙な言い回しだが。

ナイトウィッシュ。右からマルコ(b)、ツォーマス(key)、ターヤ(vo)、エンプ(g)、ユッカ(ds)
ナイトウィッシュ。右からマルコ(b)、ツォーマス(key)、ターヤ(vo)、エンプ(g)、ユッカ(ds)


がぜん興味をもって取材場所である東京都内のホテルの一室へと向かった。

取材に応じたのは作曲を手がけかつバンドの創設者でもあるキーボード奏者のツォーマス。そして、一番最後にバンドに参加し、ベースといささか野蛮なサイドボーカルを担当するマルコ。

21nwish02.jpgツォーマスは化粧をしていた。マルコは長い、あまりにも長すぎるひげが印象的だった。以前ひげに白髪が交じっているとからかわれ、それなら真っ白なひげをどこまでものばしてやると啖呵をきったのがきっかけで、ここまで伸ばしたのだとか。どこまで本当の話であるかは定かでない。本来はこの日は仕事をしないはずだったそうだが、いやがるそぶりもない。すでに来日して5日が過ぎているので時差ボケも解消した。ただし、マルコは前夜、明け方まで読書をしてしまったといって目をこすった。

「ツォーマスは日本にくるのはこれが初めてだ。僕は以前、ほかのバンドの一員として日本にきたことがある。日本は大勢の人が激しく行き交っているのに、実に整然としている。たとえばこのホテルがそうだね。巨大なのに機能的。それが日本だね」とマルコは、目をこすりながらも日本をほめた。

北欧人の気質
バンドの結成は1996年だというから10年近いキャリアがある。実は最初はヘビメタをやるつもりではなかった、とツォーマスは説明する。

「当初は、ターヤの独特の歌声を生かすためにアコースティック楽器だけで編成したバンドだったんだ」

ギタリスト、リッチー・ブラックモアが恋人を歌手に仕立ててアコースティックギター中心の演奏を聴かせるブラックモアズ・ナイトのようなものだったのかもしれない。ツォーマスは続ける。

来日公演のステージから
来日公演のステージから


「ところが、3カ月ぐらいであきてしまってね。何しろ画一的な音楽しかできない。それなら幅を広げるためにもヘビメタに転身しようかということになったんだ」

なるほど、とうなずいている場面ではない。なぜ、そこで一足飛びにヘビメタまでいってしまうのか。

「ギター奏者のエンプがヘビメタ好きだった」

マルコが捕捉する。「フィンランドにはヘビメタ支持者が多いんだよ」

不勉強でフィンランドのロック事情にはうとい。フィンランドの音楽といえば真っ先に思い浮かぶのはシベリウスだ。軽音楽なら…レニングラード・カウボーイズか。最近、日本で氣志團というグループが派手なリーゼントヘアで出てきたけど、あれをさらに誇大にした髪型が印象に残っている奇妙なグループだった。レニングラードの名前を出したら、マルコが苦笑いした。

ひげのマルコは、「9歳からブラック・サバスを聴いていた」。
ひげのマルコは、「9歳からブラック・サバスを聴いていた」。
「フィンランドには1970年代からいいバンドがたくさんいたんだよ。レニングラード・カウボーイズのことは横に置いておくとして」

音楽状況のことはよく分からないが、いずれにしても彼らの音楽にはフィンランドの風土がなんらかの形で反映されているのではないか。ツォーマスがうなずく。

「寒い国の人は憂愁の色が濃いといわれることがあるが、それは本当のことだと思っている。ユーモアのセンスだってドライで…ダークだ。そういう血は、僕らの音楽にも大きな影響を及ぼしているだろう。ダークでヘビーなものだ。ヒップホップとかゴスペルとか、ああいう明るい音楽の似合わない風土。だから、僕らが米国で成功するのは至難の業だろうね」

マルコがこれを受けて続ける。

「米国ではやっている音楽は人工的だしね。どれもこれもがブリトニー・スピアーズに聞こえる。マクドナルドに聞こえる。その点では日本人のほうが僕らには寛容だろ? 実際以前来日したとき、日本人もメランコリックだと教わったよ。公演をしても客席とのしっかりとしたつながりを感じる」

ただ感じてほしい
クラシックっぽい要素もあるが、クラシックをきちんと学んだのはボーカルのターヤだけだという。ツォーマスはどのようにして曲を書いているのか。

作曲も担当するツォーマスはクラシックとともにディープ・パープル、レインボーを愛する
作曲も担当するツォーマスはクラシックとともにディープ・パープル、レインボーを愛する
「部屋の明かりを消して…なんてことはしないよ。楽想ってのは1日のうちのいつ降りてくるか分からないものだ。たぶん、感情が高まったときだと思う。前向きの気持ち。暗い気持ち。幸福感や怒り。感情が高まったときにわき出る旋律を書き留めておく」

では、自分たちの音楽をどのように聴いてほしいか。ツォーマスが続けて話す。

「なんでもいいからともかく感情を呼び覚ましてもらえたらと思う。つまりフィールしてほしい。僕らの歌はなにか説教めいたメッセージがあるわけではない。政治的な主張なんかない。環境保護を声高にさけんだりしているわけではない。さっきもいったように僕の心に芽生えた感情を音楽に変換しているわけだから、素直にその感情を感じ取ってもらえたらいい」

写真を撮ろうと立ち上がるとふたりとも背が高い。なんだかバイキングにさらわれた気分になる。だが、物腰は柔らかだ。そんなツォーマスが最新作「ワンス」については自信たっぷりに語る。

「これまで自分の作品に100%満足できたことなどなかったのに、このアルバムだけは安心して聴いていられる。これは満足しているってことだろう。実際、商業的にも成功して、僕らを一躍表舞台に立たせてくれた」

その「ワンス」を気に入ったからこそ、僕もインタビューにきたわけである。
information
21nwish_cd.jpg
ワンス
ユニバーサル ミュージック
UICO-1067
¥2,548(税込)
1.ダーク・チェスト・オブ・ワンダーズ
2.ウィッシュ・アイ・ハド・アン・エンジェル
3.ニモ
4.プラネット・ヘル
5.クリーク・メリーズ・ブラッド
6.ザ・サイレン
7.デッド・ガーデンズ
8.ロマンティサイド
9.ゴースト・ラヴ・スコア
10.クオレマ・テキー・タイテイヤン (デス・メイクス・アン・アーティスト)
11.ハイアー・ザン・ホープ
12.ホワイト・ナイト・ファンタジー (bonus track)
13.リヴ・トゥ・テル・ザ・テイル (bonus track)
profile
1996年7月結成。97年11月にフィンランドでのデビューアルバム「ANGELS FALL FIRST」を発売。98年、2作目「OCEANBORN」がフィンランドのチャートで5位に入るヒット。同作からのシングル「Sacrament Of Wilderness」堂々首位に。
2000年の3作目「WISHMASTER」でアルバムチャートでも首位を獲得。この作品はドイツ、フランスでも好評を得る。また、南米でのツアーも成功。
02年の「CENTURY CHILD」はフィンランドで最も売れたアルバムになる。04年「ワンス」発売。

公式サイト

http://www.nightwish.com/
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