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安寿ミラ インタビュー
女優、安寿ミラがミュージカル「星の王子さま」(8月7−23日、東京・新国立劇場中劇場)で花(バラ)の役で出演する。元宝塚花組トップスター。振付師ANJUとしての顔ももち、8日に初日を迎える宝塚星組東京公演の振付も担当。また、ダンサーとしても同日から自身のダンスコンサートも始まる。多面体の活躍を続ける安寿に話を聞いた。
text & photo by ENAK編集長


多忙、でも余裕かな
「星の王子さま」の製作発表が終わったばかりの東京・新国立劇場リハーサル室。壁面いっぱいの鏡を背に座りながら、「実は昨夜、やっと台本を読む時間ができたんですよ」と、申し訳なさそうに笑う。

「ふだんは、子供には分からない芝居が多いですが、今回は子供のいる同期生に電話して、一緒に観にきたらと誘っています」
「ふだんは、子供には分からない芝居が多いですが、今回は子供のいる同期生に電話して、一緒に観にきたらと誘っています」
振付師ANJUとしての仕事は“ふるさと”宝塚だけでを数えても6月24日に幕を開けた雪組「ワンダーランド」、8日から始まる星組東京公演「長崎しぐれ坂〜榎本滋民作『江戸無宿』より〜」、さらに9月には花組トップスター春野寿美礼のコンサートも控えている。

そのうえ8日からは8回目を数える自身のダンスコンサート「FEMALE」が待っている。「FEMALE」は宝塚退団後、男役を極めた安寿が女性を追究するために始めた。「女性のあらゆる部分をダンスで表現する」ものだという。

「(スケジュールが立て込んでいて)くたばってます」と、男役だった人らしい言葉で肩をすぼめる。「星の王子さま」の稽古には今月中旬から合流予定。短い稽古期間になりそうだが、「もっと稽古期間の短い舞台をたくさん経験していますから、(それだけの期間があれば)余裕かな。出ずっぱりでもないし。宝塚では稽古は1カ月。それでショーとお芝居をやって、下級生のときなら新人公演の役や休演の人の代役の分など3つか4つの役を覚えていましたから。あれに比べれば!」と、さすがは元タカラジェンヌ。

華やかにそして毒も…
王子はバラの花を丹誠込めて育てる。ほかのバラを見たことがない王子にとって、なによりも美しい。しかし、バラは愛されたいがゆえに王子に対する文句が増え、ある日ついにバラの花とのいさかいから王子は愛や友情を確認するためほかの星へと旅立つ。やがて王子はたくさんのバラの花を目にする。自分が育てたバラだけがバラではなかったと知る。しかし…。

「忙しくて、旅行にもいけず、ちょっとストレスがたまっています」
「忙しくて、旅行にもいけず、ちょっとストレスがたまっています」
サンテグジュペリの原作に触れたのは宝塚時代の「ディーン 〜ジェームズ・ディーンの生涯より」(4年)だったという。

「ディーンが(悲恋の相手で女優の)ピア・アンジェリに『星の王子さまって知っている?』と尋ねるせりふがあったんです。『大切なものは目に見えないものなんだ』って。そのときに初めて読みました。ちょっと斜め読みでしたけどね」

バラの花は、原作者、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリの妻、コンスエロの姿が投影されているともいわれる。そのコンスエロが書いた「バラの回想−夫サン=テグジュペリとの14年」も読んでいたという。

「バラと王子はサヨナラを交わしているのにサンテグジュペリとコンスエロはサヨナラもいえずに離ればなれになったんですよ」

そうしたことを下地に、しかし具体的な役作りは稽古に入り、周りの役者との芝居に入りながら作るのだというが、「ある意味で難しい役かもしれません。女でしょ。女性の象徴のような存在。男を演じるうえでの研究はしつくしていますが、周りの女性たちをいろいろ研究しないと」と、いささか思案げ。

「花のトゲを見せようと思っています。毒の部分を出せたら、あるいはにおわせられたらいいのかな。もちろん、華やかな世界(宝塚)に15年いましたから、舞台に出てきただけで華やかさを伝えられたらいい。そこにプラスして裏。人間の裏の部分も出したい。花は美しいだけじゃない。怖いところもあるんだぞ。コンスエロは気性の激しい方だったみたいで、サンテグジュペリは、そのあたりを花に投影しているのではないかな。女性の本音の部分といいますかね」

永遠の男役
「華やかな世界に15年いましたから」という言葉に、宝塚のトップスターだった自負がのぞく。が、「さすがに退団して10年。女優であることのほうが普通になりましたから、宝塚で男役の振付をするのは照れくさいんですよ」と打ち明ける。が、振付師ANJUとしては照れているわけにはいかない。

「振付師がカッコよくできなければ、カッコよくない振りになっちゃう。逆に思い切りカッコよくできれば、宝塚の生徒たちは、それをつかみ取ろうとしてくれる。宝塚の男役には、男役ならではの“くささ”、“キザさ”というものがある。そういう部分を教えるために私は招かれているのではないかと考えるんです。それができれば私なりの宝塚に対する恩返しになります」

ヤンさん 女優のほうがふつうになったというが、男役についての持論を語る口調はやはり熱を帯びる。下級生だったころは上級生を見つめ続け、“盗める”ものはすべて盗んだものだという。今は若い人全般にカッコつけることはカッコ悪いという風潮があるようだと分析する。

「だから、見本をみせなくてはなりません。今さら、ほんとうは恥ずかしいんですよ。でも、恥ずかしがっていたら生徒も恥ずかしがってしまう。もっとも、ムラ(宝塚の本拠地のこと)に行くと自然とできてしまったりするんですけどね」

現役トップスターにまだ負けないぞと密かに思っているのではないか、と意地悪な質問をしたら「私は背が低くて声は高い。実は男役は難しいことばかりでした。すごく無理してやっていました。今の男役はすっとして、モデルみたいに大きくてカッコいい人ばかり」と、さすがに指導する側の立場に徹する。

「でも…男役についての研究度だったから勝つかもしれない。私は映画を観るなどしてともかく、男を演じることについては研究しつくしましたから」

ヤンさん(安寿の愛称)、気概は永遠の男役だ。

「でも、男役を研究し、こんどは女役を追究する。いきつくところは男も女もない人間だ、ということです。ひとりの人間。ひとつの役。こんどのバラの花もひとつの役として取り組むということになるでしょう」

どんな花を咲かせ、どんな“美しい毒”を見せてくれるのか。
information
星の王子さま
星の王子さま
8月7日(日)〜23日(火)
東京・新国立劇場中劇場
製作発表会見記事はこちら


FEMALE

FEMALE Vol.8
7月8日(金)〜10日(日)
東京・サンシャイン劇場

7月12日(火)〜13日(水)
神戸・新神戸オリエンタル劇場

profile
長崎県出身。
55年、宝塚歌劇団入団。星組公演「恋の冒険者たち/フェスタ・フェスタ」で初舞台。4年、花組トップスターに。7年退団。以後、「検察側の証人」「ダイヤルMを廻せ!」「ロマンス・ロマンス」などミュージカルやストレートプレイに主演。
自らが構成、演出するダンスコンサート「FEMALE」シリーズも毎年取り組んでいる。

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