オペラを原作にした新たなミュージカル作りがひとつの頂点を極めた。どんなものでも取り込んでしまう宝塚歌劇の懐の深さはすごい。星組公演「王家に捧ぐ歌−オペラ『アイーダ』より」(木村信司脚本・演出、甲斐正人作曲・編曲)を観て、そんな思いを強く持った。
舞台全部が、壁画が描かれた階段状の石壁(装置・大田創)。その浮かし彫りからエチオピア王家の長兄ウバルド(汐美真帆)らが甦り、3500年前のエジプトとの無意味な戦いを語り始める。いきなりドラマが始まるプロローグが新鮮で不気味だ。
黄金に輝くエジプト。王ファラオ(箙かおる)はエチオピアとの新たな戦いの将軍に、若きラダメス(湖月わたる)の名を告げる。心ときめかせる王の娘アムネリス(檀れい)。しかしラダメスは、先の戦いで捕虜にしたエチオピア王女アイーダ(安蘭けい)を愛していた。その嫉妬からアムネリスと女官らがアイーダをいびるシーンは、“人の心の戦い”の象徴でもある。
「戦いは新たな戦いを生むだけ」と嘆くアイーダ。繰り返されるこのセリフが作品を貫くテーマだ。「戦いは平和を得るため」と信じるラダメスは、勝利して凱旋。エチオピアの解放を願い出て、アイーダと一緒に生きることを決意する。ところが、ファラオが祈りを捧げる時間にアイーダと待ち合わせした約束が、復讐を狙っていたウバルドらに知れて、ファラオは暗殺されてしまう。秘密を漏らしたラダメスは地下牢で処刑されるが…。
ヴェルディのオペラと大きく異なるのが、ウバルドらによるテロと自決の結末。これにより現代に通じる共通項が加わり、ドラマ性も強まった。平和に浮かれ饗宴を繰り返すエジプトの人々の姿も、妙に今の時代と符合する。全編歌で綴るスタイルも、セリフと音楽がマッチして違和感はなく、かえって心地よい。マイヤ・プリセツカヤ振付の凱旋シーンは兵士たちのフォーメーションが見どころだ。
新トップ・コンビの湖月、檀のお披露目公演だが、二番手男役の安蘭が女役に徹して、珍しい三角関係に。骨太な大きさが映える湖月、輝く美しさの檀、新境地を開いた安蘭と、いずれも持ち味を生かして好演。箙、一樹千尋(エチオピア王)の2人も専科の実力の見せ場がたっぷり。
18日まで。
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