月組トップ、紫吹淳(関連記事:インタビュー)のさよなら公演「薔薇の封印−ヴァンパイア・レクイエム−」(小池修一郎作・演出)(関連記事:制作発表)は、時空を超えた4話のオムニバス形式で描く1本立て大作。ダンス力がある紫吹のために、6人もの振付家がさまざまなパターンのダンスシーンを担当して、“踊るヴァンパイア”の魅力をふんだんに見せている。
プロローグは現代のバルカン半島。ヴァンパイア伝説が残る薔薇の僧院を再建して、世界遺産に認定しようといろんな人が集まっていると、時は一気にさかのぼり1話の1314年へ。傷ついたテンプル騎士団のフランシス(紫吹)は薔薇の谷に迷い込み、領主の娘リディア(映美くらら)に不思議な力で助けられ、恋に落ちる。彼女はヴァンパイアだった。すべてを受け入れたフランシスは婚約の儀式を行い、永遠の命を持つヴァンパイア一族の後継者となる。
ところが、リディアを愛する修道僧ミハイル(彩輝直)は嫉妬のあまり、ヴァンパイアたちの荒ぶる魂を封印していた五輪の薔薇の絡む十字架を引き抜き、自ら悪しきヴァンパイアと化す。フランシスをかばって斬られたリディアは息絶え、フランシスはミハイルと対決し続ける数奇な運命をたどることになる。
2話は1666年のパリ。バレエを愛した太陽王ルイ14世の宮廷に、フランシスはダンス教師として現れる。3話は1934年のナチスが台頭してきたベルリンのタンゴ・クラブ。亡命ロシア貴族のフランシスは、ナチス親衛隊のミハイルから、ユダヤ系歌手のポーラ(映美)たちを助ける。そして4話で現代の僧院へ戻る展開だ。
舞台の奥に玉簾状のLEDの大映像(4.8メートル×9メートル)を配し、幻想的なムードや時代の飛躍を表現する斬新な試みが、異次元をかもしだして効果的。次々にコスチュームをかえて踊る紫吹の美しさ、かっこよさは記憶に残り、フィナーレの構成は早くも惜別感がいっぱい。
ただ、4話がそれぞれに途切れる印象で、五輪の薔薇の意味付けもわかりにくい。ヴァンパイアをファンタジーと位置づける小池演出は、笑いを誘う遊びの要素が多いこともあって、神秘的な妖しさ、永遠に生きる哀しさがなどが薄くなった。
複数の役柄をこなす出演者のなかで、次期トップに決まっている彩輝(関連記事:次期トップに)の一貫した悪役はもうけ役。病から復帰した霧矢大夢、芝居巧者の嘉月絵里が目立っている。
26日まで、宝塚大劇場。
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