兄が歌舞伎の花形、片岡孝太郎、妹が女優の片岡京子。姉妹ふたり寄って、「男に生まれてもよかったネ」と交わす冗談話。

「片岡3兄弟なんて呼ばれるかしら?」「そうしたら絶対、『勧進帳』をやりたい。お兄ちゃんが義経、京子が弁慶、わたしはやっぱり、富樫だネ」。硬軟自在、ことに胆(はら)芸を要求される役柄を選ぶところにタカラジェンヌ・汐風幸の芸質がのぞく。

父・孝夫が15代目仁左衛門を襲名した今年、入団時をしのぐほどに、“松島屋の娘”としての取材が殺到した。「はい、どうぞ」。応答も、あるがまま。羨望(せんぼう)のつぶてを背に受けつつ、自らの資質で存在感をアピールしてきた自信か。

 「あこがれた夢の世界にいる幸せを感じているわたしに気づいてまた、驚くわたしを発見、いいなァと思う日々…」。今、充足のとき。ふと、物思う顔の美しさ。

昭和63年、初舞台。雪組の男役3番手。平成10年6月6日から21日まで、宝塚バウホールで「心中・恋の大和路」に主演。亀屋忠兵衛を演じる。父・仁左衛門も4月松竹座で同役を演じ、はからずも父娘競演となった。

(演劇コラムニスト石井啓夫)

平成10年05月19日東京夕刊


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