東京・丸の内の帝国劇場で上演中の『エリザベート』の人気がすごい。昨年上演された時も話題になったが、こんどの再演では発売まもなくチケットは売り切れ、追加公演も完売。劇場周辺には毎日、ダフ屋がうろつき、エリザベート・フリークの女性群も登場した。彼女たちは、平成8年に日本初演された宝塚版『エリザベート』でトリコになり当時、オリジナル舞台が上演されていたオーストリアやハンガリーにも行ってきた。先日、帝国劇場で出会ったフリークの一人は現在、ドイツで開幕した『エリザベート』を来週、見に行くそうだ。

19世紀末に暗殺された美ぼうのオーストリア皇后、エリザベートの生涯のなぞを、死の帝王との禁断の恋が背景にあったからとの大胆な推理で解き明かす舞台。ひかれる原因は、登場人物の魅力と歌。ファンは、宝塚の初演以来、なんども上演されてきた舞台のヒーロー、ヒロインを歌舞伎的関心事で眺める。エリザベートと死の帝王をだれがどう演じ、歌うか。たしかに全編、名曲ぞろいのナンバーで、その心地よさと決めシーンとの合体には気分が躍る。

そう考えてくると、日本版の人気の秘密は、エリザベートを演じている女優、一路真輝の運命的な魅力によるのではないかと、わたしは考える。『エリザベート』は、宝塚のトップスターだった一路の退団公演用に準備された作品だった。男役だから、一路はもちろん、死の帝王役。が、演出の小池修一郎が宝塚用に書き換えた。オリジナル作曲家が一路の死の帝王のために新曲も書き加えた。結果は大成功で、一路退団後、現在の本舞台が組まれたわけだが、男役の死の帝王から文字通りのヒロイン、エリザベートへの変身もまったく違和感を覚えさせない。ことに再演の今回が、素晴らしい出来である。少女時代の輝きと美の極みを見せるハンガリーの場、そして晩年のたそがれ時。情感を変えた歌唱の美しさが胸に迫ってくる。

一路に不朽の名作が生まれたといえる。今年はこの後、名古屋、大阪、博多へと回る。宝塚時代からスター街道を歩んできた一路だが、本作品こそ、客席が全員一致で歓呼という洗礼名を、一路に与えたのだ。その名は、「一路エリザベート真輝」である。 (演劇コラムニスト石井啓夫)

平成13年04月17日東京夕刊


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