宝塚歌劇の魅力のひとつに生のオーケストラがある。その、ベテラン専属指揮者。東京芸大在学中、ファゴット要員でオーケストラのアルバイトに行ったのが入団のきっかけだった。
「子供のころから歌舞伎や文楽を見て芝居好きだったせいか、宝塚の舞台を見ながら驚くと同時に魅力を感じてね。いつの間にかせりふもきっかけも覚えていた。ある時、指揮者が本番に遅れて急遽(きゅうきょ)、指揮することになったのが最初でした」
指揮者デビューはピンチヒッターだったのだ。その後、当時の東宝の重役だった菊田一夫に「指揮をしっかりやるように」と言われ、29歳で本格的に指揮者デビューした。
指揮者生活は40年近いが、「作曲の先生の書いたものを壊さないように、お芝居との兼ね合いを考える。何回やってもピシッと完璧(かんぺき)ということのない仕事です」と謙虚に話す。
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雪組「Romance de Paris」 |
現在は雪組「Romance de Paris」(関連記事:東京公演)を担当。
「作・演出の正塚晴彦先生はきめ細かに書いていらっしゃるので、邪魔しないように、しかし微妙なタイミングで芝居がうまく流れるようにと心がけます。お芝居のBGMは、せりふがすべてお客さまに届いて雰囲気を助けるよう、歌や踊りになるとメリハリをつけて。ショーはテンポも大事ですね」
今回は音と芝居がかけ合う遊び心のあるシーンや、音楽とせりふが絡み合って時が流れていくような後半の場面など見せ場も多い。客席から、その情熱的な指揮ぶりがうかがえる。
「雰囲気を盛り上げるためにもアクションで示さないと。音が充実しないと芝居も生きないですし、物語と一緒にこちらも自然と気持ちが高まっていきますね。そして、舞台上の芝居と音楽がぴたりと合って観客の中に溶け込んでいったときは、本当に最高の気分です」
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