「愛と青春の宝塚」を読む

 01/12/30 産経新聞東京朝刊
 Text By Ishii,KEIFU/石井啓夫@演劇コラムニスト

平成14年正月に、フジテレビ系新春スペシャルドラマとして放送される同名番組の脚本をノベライズしたもの。

原作の大石静は、8年に話題を呼んだNHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」の作者であり、演劇ファンには、永井愛と二兎社を旗揚げ、数かずの秀作芝居を発表してきた演劇人でもある。現在は二兎社を離れているが、ドラマ運びの突拍子もない面白さには定評がある。

本書も、映像で、また舞台で、生の俳優たちが演じて、一層の膨らみを増すよう計算されているが、大石流のドラマチックな人間模様は、登場人物の戯画化的設定の中に、よく表れている。来年創立88周年を迎える宝塚歌劇を題材に、歴史上もっとも苦難な時代ゆえに、逆に華やかで哀しい永遠の美学を残した戦中のタカラジェンヌの物語。

現代の東京宝塚劇場の客席。舞台を眺めるひとりの老婦人の回想から始まる。その婦人こそ、戦雲迫り来る不穏な時代に宝塚歌劇団に入団、戦後に男役トップスターとなった橘伊吹だった。伊吹は当時、人気絶頂のトップスター、嶺野白雪の華美な舞台姿を見て、客席からドロ靴を投げつけた少女だった。伊吹は元伯爵令嬢で、没落したみじめな生活から逃避するための発作的行動だった。追われて逃げ込んだ先が宝塚音楽学校の入学試験場。受験生と間違われ、即興でバレエを踊った伊吹は、運命的な宝塚人生を歩むことになる。

さまざまなドラマを秘めた少女たちが、嶺野の周辺に集い、美男の演出家、劇場前で似顔絵を書いている貧乏画家、そして時代を象徴する海軍士官らと恋の駆け引きを展開する。華麗な舞台とモンペ姿の生活の対比が巧み。

あっという間に読み終わるのが、脚本の軽やかさを窺わせるが、活字上ではもう少し、宝塚歌劇への認識に配慮が欲しい。

しかし、戦中、戦後を生きたタカラジェンヌたちの青春群像を描く大石観には、妙なリアリティーがある。
フジテレビ出版発行
扶桑社発売・1429円

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