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激流の中の宝塚

 02/04/29 産経新聞東京朝刊
 



「トップになった時点で、(退団は)劇団の方針で決まっていました」

今月19日、大阪市内で会見した雪組のトップスター、絵麻緒ゆうのひと言が波紋を広げている。

絵麻緒はその前週、トップ披露公演の制作発表を行ったばかりだったし、花組トップの匠ひびきに続き、就任1作だけでの退団は衝撃的なニュースだったからだ。急速な世代交代に、ファンの間では不安と期待の声が交錯している。

一連の動きを検証すると何が見えるか−。


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今春入団した第88期生のラインダンス。宝塚歌劇の若さの象徴だ=兵庫県宝塚市・宝塚大劇場の星組公演


■■■さよならで…

興行界では「宝塚歌劇はさよなら公演で稼ぐ」といわれているが、東京宝塚劇場が新築開場した昨年来の動きは、そんな言葉を裏付ける。

トップスターの真琴つばさ(月組)、稔幸(星組)、愛華みれ(花組)の3人が退団し、今年2月には轟悠(雪組)が専科入り。5組あるうち宙組を除く4組のトップが交代し、さよなら公演で宝塚はおおいに盛り上がった。

今年は、月組の紫吹淳を皮切りに、新トップのお披露目公演が続く、はずだった。

ところが、花組の匠ひびきが昨年12月、早々と1公演だけで6月に退団すると発表。宝塚大劇場では3月に公演が行われたが、なるほど新トップのお披露目公演だが、同時にさよなら公演になってしまった。

さらに4月に入って、こんどは絵麻緒の1作退団の発表となった。絵麻緒もまた匠と同様、新トップのお披露目公演が同時にさよなら公演になるというのである。

絵麻緒のさよなら公演は5月24日の宝塚大劇場から始まる(7月8日まで)。絵麻緒のみならず、娘役トップの紺野まひる、専科の成瀬こうきも、この東京公演(8月16日−9月23日)を最後に退団する。

つまり昨年来の“さよなら熱”は、今年も秋までは下がらないわけだ。

トップ披露公演の制作発表を行ったばかりで、電撃退団を思わせたが、「トップになった時点で、(退団は)劇団の方針で決まっていました」という絵麻緒の発言は、退団は当初からの既定路線であり、昨年に続き「宝塚歌劇はさよなら公演で稼ぐ」つもりであることをうかがわせる。

■■■世代のはざまで

トップ2人が相次いで1公演だけで退団する前代未聞の事態はしかし、「さよならで稼ぐ」ためだけのことではない。

話はさかのぼって平成10年5月。歌劇団は東京での通年公演を視野に宙組を新設したが、これによりトップ就任枠は広がったが、トップ就任時期が遅れる現象が起きた。

宝塚のトップスターは、おおむね入団後10余年かかるが、これがさらに遅くなれば“高学年化”が著しくなる。

そこで12年6月に新専科制度を作り、当時の2、3番手スター10人をそこに異動させ、高学年化やマンネリ化の打破をはかるなどしている。

歌劇団はいわば構造改革のさなかにある。

歌劇団の植田紳爾理事長は「(退団が)早いかどうかは、劇団も生徒たちも、その時々の事情があるので、なんともいえない。できるだけいい形で最後の花道を飾ってやりたいと思っています」と話すが、匠、絵麻緒の次のトップに内定している花組の春野寿美礼、雪組の朝海ひかるは、ともに平成3年の入団で、昭和61年の紫吹と星組の香寿たつき、62年の匠、絵麻緒、63年の宙組の和央ようかと比べれば世代交代を急いでいることは明らかであり、今回の相次ぐ“1作退団”は一連の改革の過渡期における異例の措置だといえるのである。

■■■新陳代謝

トップが花の盛りに退団するのはただでさえ惜しまれることなのに、今回のお披露目即退団公演という措置はファンにとってあまりにもつらい現実だ。が、常に新鮮な魅力を保ち続けて今年で創立88周年の宝塚の歴史を支えるのは、宝塚音楽学校を卒業した約50人が毎年、入団し、スターの新陳代謝が絶えないことにほかならないのも事実だ。

今回の異例の人事のみならず、7月にCSデジタル放送で宝塚歌劇の専門チャンネル「TAKARAZUKA SKY STAGE」が開局する一方で本拠地の宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)のある宝塚ファミリーランドが来年4月で閉園するなど、“スミレの園”は大きくうねりながら前進を続けようとしている。今年で創立88周年の歴史を見直しながらニュービジネスにチャレンジし、自立した劇団へ飛躍するための激動は、当分続きそうだ。


この記事は4月29日付東京朝刊を再構成したものです


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