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くつろぎ 梅雨の合間の昼下がり、雑誌を手にベンチでくつろぐ白羽ゆりさん。あたたかな日だまりが彼女を包む=兵庫県宝塚市 |
宝塚歌劇の歴史はトップスターとともに刻まれてきた。大正3年の宝塚少女歌劇、第1回公演『ドンブラコ』から現在まで、数多くのスターたちが現れては去り、大劇場の舞台に夢をつむぎ続けてきた。今回の雪組公演でもまた1人トップが去っていく。
スターの交代という大きな話題の影で、明日の宝塚を担う若きすみれたちが少しずつ成長していく。華々しい歌劇団の系譜は、常に優れた生徒を生み出せる教育環境があるからにほかならない。
白羽ゆり(しらはね・ゆり)さん、雪組研究科5年。現在上演中の『追憶のバルセロナ』と『ON THE 5th』に出演している。『追憶のバルセロナ』では退団の決まった雪組トップ、絵麻緒ゆうさんの婚約者セシリア役を演じている。
福島県出身の白羽さんは透けるような肌をもつ色白の美人。3人姉妹の末っ子で、宝塚ファンの姉の影響を受けて歌劇の世界を目指した。
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アジサイが満開の「花のみちプラザ」。大劇場への道のりに色をそえる |
しょせん「夢の世界」なのだからと反対する両親を押し切り、月1回は東京にレッスンに通った。音楽学校に合格した白羽さんは持ち前の芯(しん)の強さから、高度な授業も厳しい上下関係も苦にならなかったという。
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『ON THE 5th』のフィナーレで、華やかな衣装を身にまとって踊る白羽さん=宝塚大劇場 |
そんな白羽さんが一番苦労したのが方言の問題。せりふのすべてがきれいな標準語にならない。自分ではきちんと話しているつもりでもOKが出ない。困り果てた白羽さんは、標準語の発音法を記したテキストを手に入れ、一から勉強を始めた。平成10年『シトラスの風』で初舞台を踏むころには美しいソプラノが客席に響いた。
映画を見るのが趣味という白羽さん、月に30本を超えることもあるという。しかしスクリーンの奥に見えてくるのはより高い演技を求める自分の姿。「心の中に、演技の引き出しを作りたい」と休日も芝居のことを考え続ける。
『追憶のバルセロナ』ではトップと専科、ベテラン男役2人の間で揺れる女心を演じる。優れた先輩からの指導を受けて成長していく彼女に、宝塚の伝統の重みを感じた。