トップスターになると「責任感」という言葉をよく使うようになる。歌劇団の“顔”となって一身に背負う重責は、計り知れないほどの重さなのだろう。彼女もまた宝塚大劇場でのお披露目公演「エリザベート−愛と死の輪舞(ロンド)−」を前にして、盛んに連発した。
「とにかく目の前の一つ一つをこなすのがやっと。体はハードになるし時間的な余裕もないんですが、責任感が出てきたというか。自分が今やらなきゃないけないことをちゃんとやることで、責任が果たせているという感じですね」
そして、常に舞台の真ん中に立ってスポットをあびるトップの立場を、次のように説明する。
「トップは舞台の空気を自由に動かせる割合が一番大きい。組子たちはみんなこっちを向いているから、そのエネルギーを受け止めて返すというコミュニケーションを楽しめれば、すごく幸せだと思いますね。以前、匠(ひびき)さんが『みんなとのアイコンタクトでわたしはやっていける』っておっしゃっていたのが、今はよくわかります。まだ、そんなゆとりはないんだけれど、仲間たちと舞台上で心のコミュニケーションみたいな絆(きずな)があるとわかるだけで、自分に自信がついてしまうんです」
自然に培われるトップの自覚。それも88年の歴史を支えてきた宝塚の伝統かもしれない。
「エリザベート」は4日が初日。19世紀末のヨーロッパを舞台に、美貎(びぼう)の皇后エリザベート(大鳥れい)と死の神トート(春野)の、時空を超えた愛と死を描くウィーン発の大ヒット・ミュージカルで、宝塚では4年ぶり4度目の再演になる。
「これまでの4組のトートの残像が強くて、なかなか役をつかめないもどかしさがあります。どれだけ内面を自由にして自分のトートを出せるか。死の世界を甘美なものとしてとらえているトートの魅力を描けるか、が課題ですね」
春野トートは独自の役作りのために意欲的に取り組んだ。ブルー系の髪や光沢のあるシャドーを使ったメークなどで、ビジュアル的に「血の通っていない妖(あや)しい美しさ」を工夫。いち早くウィーンを訪れて歴史に浸り、作曲家のシルヴェスター・リーバイ氏にも会った。歌唱力のある春野にとって、今回が初披露となるエリザベートとのデュエット曲「私が踊る時」は聴かせどころである。
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「エリザベート」の神秘的なトートの春野寿美礼(右)とエリザベートの大鳥れい |
「ウィーンのお城って、死神は絶対いるって雰囲気だったし、きらびやかさと裏腹なエリザベートの孤独感もよくわかりました。デュエット曲は淡々として地味だけれど、この歌が加わることで、二人の主張がすごくよくわかる。エリザベートを愛するがゆえに追い続ける、トートの気持ちを忘れずに演じたいと思っています」
花組一筋。「ずーっと花組にいてトップになったことが、すごくうれしいし誇りです。花組の伝統を生かしつつ、新しくコレって色を出して、自分のかもし出す雰囲気で(客席を)酔わせる男役になりたいですね」
早くも次回作は、日本の歴史もの「胡蝶の夢」とショー「レヴュー誕生」が決まっている。
はるの・すみれ 東京・狛江市出身。平成3年初舞台で、翌年花組に配属。端正な容姿とバツグンの歌唱力で早くから注目され、「失われた楽園」などの新人公演に主演。11年には「冬物語」で宝塚バウホールに初主演して存在感を発揮する。今年5、6月には前トップの匠ひびきが病気休演した「琥珀色の雨にぬれて」の東京公演で代役を見事につとめた。8月の福岡・博多座公演「あかねさす紫の花」「Cocktail」から、匠のあとをうけてトップに就任。宝塚大劇場のトップ披露となる「エリザベート」(11月18日まで)は、相手役の娘役トップ、大鳥れいの退団公演でもある。