産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】(6)メタボリックシンドロームの告げるもの

過栄養、運動不足の改善

 生活習慣病はもはや国民病となった。厚生労働省が行った国民生活基礎調査(平成十三年)のうち、傷病別に見た人口千人あたりの通院者率は、糖尿病二四・七人▽血液中の中性脂肪含量が多い高脂血症二六・九人▽高血圧症七一・七人になる。だれもがかかる虫歯は三七・六人だから、生活習慣病の蔓延(まんえん)ぶりは一目瞭然(りょうぜん)である。だが特効薬はなく、「生活習慣の改善以外にない」と医師らは口をそろえる。

 「過栄養の食生活などの習慣を改めるため、どんなメッセージを国民に投げかけたらよいのか」。昨年三月、厚生労働省健康フロンティア戦略推進室の室長だった藤井紀男さん(現老人保健課企画官)はキーワードを一つ見つけた思いで、大阪市の住友病院に向かっていた。

 藤井さんにはこれまでの生活習慣病対策への反省があった。平成十二年から十年計画で到達すべき数値目標を掲げた国民健康づくり運動「健康日本21」は座礁寸前だ。たとえば、成人男性の肥満は24・3%から15%へ減らすはずなのに、反対に29・5%に増えてしまった。「目標はあっても、達成するための手だてがなかった」という。

 また、健康改善への保健指導はこれまで高脂血、高血圧、高血糖と症状ごとに縦割りで行われていた。しかし中身は、脂質を少なくするなど食事の改善と運動不足の解消−など共通点が多い。

 「二つの異常が重なったらダブルで指導を受けることになるのか。もっと国民に分かりやすいほうがいい」

 大阪で面会したのは、松澤佑次・同病院長だった。日本肥満学会理事長で、この時まだ非公表だったメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の日本独自の診断基準を作った中心人物である。

 しばらくして藤井さんの悩みは氷解した。

 メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積が、高脂血などのリスクを高め、動脈硬化を起こす考え方だ。脂肪細胞から分泌され、動脈硬化を修復する生理活性物質「アディポネクチン」にも着目する。この物質は内臓脂肪の増加に反比例してその血中濃度は下がる性質がある。だから、内臓脂肪を減らすことを重視する。

 「メタボリックシンドロームで説明すれば、生活習慣病予防は内臓脂肪型肥満の解消が先決ということになる。そのために食事を改善し運動をしましょうと分かりやすいメッセージでアピールできる」

 霞が関に戻った藤井さんがそう提案してから半年後、厚労省の厚生科学審議会がまとめた生活習慣病対策の中でメタボリックシンドロームの導入が打ち出された。

 対策の柱の一つは健康診断の改革だ。メタボリックシンドローム基準に照らし、肥満▽血圧▽脂質▽血糖値−の四項目を診断してハイリスク群を特定。このグループが詳細検査を受ける二段階方式に改める。さらに四十歳以上を対象に保健指導の標準プログラムを作り、全国普及を目指す。「メタボリックシンドロームを軸にした予防を国民運動にしていく」(中島誠参事官)

 昨年末、政府・与党がまとめた医療制度改革大綱。伸び続ける医療費の抑制を狙う改革法案の原型だが、この中にメタボリックシンドロームに照準を合わせた生活習慣病予防対策推進が加えられた。

 厚労省試算によると、現行制度のままでは、公的医療保険の保険給付費総額は平成十八年度の二十八兆三千億円から二十年後には五十六兆円に膨れる。社会保障制度を維持するには医療費の抑制が必要だが、生活習慣病予防対策が意図して盛り込まれたのはなぜか。

 メタボリックシンドロームの該当者約二千万人は糖尿病などの生活習慣病予備軍。「生活習慣病は国民医療費の三割を占める。予防によって二十年後にこの数が半分に減れば二兆円以上の医療費減につながる」と厚労省はそろばんをはじく。

 国が進めようとする生活習慣病予防対策。国民の健康維持のためには国の支援は欠かせない。だが、健康を守る主体は国民自身である。女子栄養大学の香川靖雄副学長は「将来に備え貯金する人は多いが、発想を変え、健康を貯金するほうが確実では」と呼びかけている。

 (飽食社会取材班)

(2006/01/23)