産経新聞社

メタボリックシンドローム

生活習慣病の引き金「内臓脂肪」 メタボリックシンドローム 予防を(2−1)

 心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病の引き金になる動脈硬化。そのリスクを高めるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の考え方をもとに病気を予防する対策が全国に広がってきた。内臓の周囲に脂肪が過剰に蓄積していれば、血圧、血糖などの値が少し高めでも要注意という分かりやすい診断基準も策定されている。メタボリックシンドローム撲滅にむけての取り組みを報告する。

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 □日本肥満学会理事長・松澤佑次氏

 ■内臓肥満 発症の源流 診断基準、日本から発信

 メタボリックシンドロームが動脈硬化の予防対策の要として大きくクローズアップされてきた。こんご活用される診断基準策定の経緯と意義について、日本肥満学会理事長で大阪大学名誉教授の松澤佑次・住友病院長に聞いた。

 −−メタボリックシンドロームの根本の原因が内臓に脂肪が蓄積する肥満(内臓肥満)であることを日本が世界に先駆けて突き止められたきっかけは何でしょうか

 日本で肥満研究が進んだもっとも大きな理由は、欧米のように体重二百キロほどの高度な肥満がどんどん増える状況ではなかったことです。日本の場合、標準の体重を少し超えた程度の人が大勢を占め、そのような体形の人に生活習慣病が増えていた。このため、脂肪細胞の蓄積を量としてとらえるのではなく、体内での脂肪の付き方や脂肪細胞そのものの機能という質的な面をきめ細かく研究していたことがよかったのでしょう。

 −−具体的にどのようなデータから判明したのですか

 一九八三年から、X線で人体を輪切り画像にして見られるCT(コンピューター断層撮影法)で分析したところ、これまで肥満は皮下脂肪の蓄積と考えられていたが、糖尿病などの症状が出る人は、むしろ皮下脂肪層が薄く、内臓の周囲にたっぷり脂肪細胞がたまっている人が多かった。このような「内臓肥満」の人は、糖尿病、血液中の中性脂肪含量が多い高脂血症、高血圧になりやすく、脳卒中、心筋梗塞(こうそく)につながる動脈硬化を引き起こすリスクが非常に高まることが臨床医学や疫学研究などでわかりました。

 −−こうした研究成果がメタボリックシンドロームという考え方につながっていくのですが、国際的にはどのように認められていきましたか

 世界的な流れとして死因の中で最も多い心臓病につながる動脈硬化の予防が重視され、その実績を検討した結果、八〇年代末ごろから原因は一つではなく、一人の患者が糖尿病、高脂血症など複数のリスクを持つ集積症候群の場合に発症しやすくなる、という実感が国際的にも広まっていきました。こうした症状が四つ重なると危険であると「死の四重奏」という言葉で提唱した米国の学者もいました。その中で、日本のCTによる研究などが評価され、症状がいくつか重なると発症するという考え方に加えて、内臓肥満が根本の原因として欠かせない要因であるというコンセンサスができました。

 −−昨年四月に策定された日本独自の診断基準は、どのような意味合いがあるのですか

 国内の内科系の八学会が一年かけて議論し、まとめました。内臓肥満が、発症の源流にあるという考え方は世界共通ですが、欧米と日本では、体格や太り方、症状の表れ方など体質が異なっているので、基準になる数値は各国で異なっており、わが国の基準値は日本人のエビデンスに基づいています。必須項目とした胴囲については、男性八五センチ以上、女性九〇センチ以上となっているのは、CTのデータから算出して内臓に蓄積した脂肪が断面積で百平方センチ以上あるのに相当します。女性の基準値が大きいのは、内臓脂肪が同じだと女性の方が皮下脂肪が多いためです。しかし、がんの診断と違って、メタボリックシンドロームを診断する目的は動脈硬化の危険群を選び出すことなので、基準値はあくまで目安を示したと考えてもらっていいでしょう。今後、さらにデータを蓄積し、検討していく予定です。また、内臓脂肪が直接に測れる機器も開発されつつあり、そのようなハード面の発達もデータの精査に役立っていくことでしょう。

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 □厚生労働省健康局長・中島正治氏

 ■国民的取り組み期待 栄養過剰の“先進国病”

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した生活習慣病対策に、厚生労働省が取り組む。これまでの対策とは何が異なり、どんな戦略を立てるのか。同省健康局の中島正治局長に聞いた。

 −−厚労省が打ち出した新たな生活習慣病対策の特徴は何でしょうか

 今回、あえて生活習慣病対策をクローズアップしたのは、医療制度改革の論議が進められていた矢先に、日本肥満学会などがメタボリックシンドロームという概念をとりまとめたためです。内臓肥満をベースに高血圧、高血糖、高脂血症などを一群のものとしてとらえ、その対策を行っていくという考え方です。

 −−その考え方はよく水面に少しだけ顔を出す氷山に例えられますが

 高血圧の人にその症状だけの治療をすれば確かに降圧できるかもしれませんが、また別の症状が出てくる。氷山の一角が削られただけだからです。根っこ(水面下の氷山)には内臓に蓄積された過剰な脂肪があり、肥満を解消することが必要だと分かってきた。このため取るべき生活習慣病対策も肥満解消が先決だと、分かりやすい。

 −−軽度のメタボリックシンドロームの状態を放置しているとやがて生活習慣病に発展します。もっとも問題になる病気は何でしょうか

 患者と予備軍を入れて千六百万人もいる糖尿病です。糖尿病が高血圧、動脈硬化、心臓病につながっていく。糖尿病の段階できちんと対処すれば他の病気も防げる可能性が高くなるのです。

 −−メタボリックシンドロームは病気なのでしょうか

 健診でウエスト八五センチ以上(男性の場合)、血圧が高め−などの診断基準に照らして決めます。糖尿病などの生活習慣病と診断されなくても、ぎりぎりそれに近い、生活習慣病のハイリスク群を指します。標準値よりも高い数値が複数あるだけだからといって安心してはいけない。いずれ病気が出てくる。だから、この段階で積極的に対策を取る、つまり予防が大事になります。

 −−数値目標を掲げた「健康日本21」でも生活習慣病対策は盛り込まれていましたが

 今回は重点的にメタボリックシンドロームへの対策を進めていきます。(健康日本21の目標達成は難しく)危機感を持たないといけないが、これまではどう取り組んだらよいのか明確ではありませんでした。診断基準は、ウエスト周囲径の測定と血液検査の結果でみるといったシンプルさがある。国民の皆さんが(対策を取る行動へ)入っていきやすいのではないか。少なくとも自分に危険があるのかどうか分かりやすくなると思います。

 −−具体的な方策はどのようなものでしょう

 ハイリスク群へのアプローチと全体へのアプローチへの二つがあります。前者は平成二十年度から行われる健康診断の階層化です。一段階目は診断基準に照らしてハイリスク群を抽出し、二段階目は、より詳しい健診と高度な保健指導を行います。後者は、メタボリックシンドロームに該当しない人へも積極的に情報提供するものです。

 −−どんな保健指導になりそうですか

 食事の改善と運動不足の解消の組み合わせになるでしょう。どんな人にどのようなやり方が適当なのか、専門家による検討会を発足します。

 −−医療費の抑制の観点からみた生活習慣病対策は

 メタボリックシンドロームから脱却できる人が増えることで、結果として生活習慣病にならずにその分の医療費の削減効果があるでしょう。ウエスト径が八五センチ以上(男性の場合)にならないようにしようという人も出てくれば、さらに効果が出ます。

 −−ところで生活習慣病が蔓延(まんえん)する原因は何でしょうか

 世界的にみて文明国にある傾向です。おなかいっぱい、おいしいものを食べるため栄養過剰になります。その上、交通機関の発達で運動不足に容易に陥る。この二つだけで十分に肥満になり、メタボリックシンドロームの最低条件を満たすことになるのです。

 −−国民運動としての生活習慣病対策は進みますか

 今日から生活習慣そのものを百八十度変えるということは無理です。しかし、ウオーキングの広まりなど健康への関心は年々高まっています。長い目で見て、着実にメタボリックシンドロームのメカニズムを理解してもらう。そうして価値観を切り替えて、自分で生活を変えていく人が増えてくればよいのではないかと思います。

(2006/01/27)