産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 「尿酸値高め」黄信号

 痛風のバロメーターとされてきた「高尿酸血症」が、実はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の重要なマーカーとなることが明らかになってきた。「尿酸値が少し高め」でも要注意。高血圧や高脂血症、糖尿病などと同様、内臓脂肪の蓄積を反映して相互に影響し合い、心筋梗塞(こうそく)などのリスクとなり得るという。高尿酸血症を生活習慣病としてとらえ直すことが肝心で、まずはライフスタイルを改善し、内臓脂肪肥満を解消することが動脈硬化や痛風発作の予防につながる。高尿酸血症の新たな取り組みを報告する。(大串英明)

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 □大阪府立成人病センター臨床検査科 中島弘部長に聞く

 ■高尿酸血症 動脈硬化の身近なマーカー

 −−最近、なぜ高尿酸血症がリスクといわれるようになったのでしょうか

 高尿酸血症というと、今まで痛風、あるいは最終的に進んだとしても腎機能障害の上流としてとらえられてきたわけですが、診療していますと、実際、痛風外来の患者さんが、ある日突然心筋梗塞になるという確率が非常に高くなってきているのです。痛風発作が起きるといけないからと、尿酸を下げる薬を出しているだけでは済まない。尿酸値が上昇するような体の状態そのものがリスク。そうしたメタボリックシンドロームを治療して初めて動脈硬化を予防できる。

 −−高尿酸血症も随分変わってきましたね。生活習慣病といわれるゆえんは

 高尿酸血症は痛風の原因には違いないが、これまで痛風発作や痛風腎の前段階との認識が主だった。痛風予備軍という考え方だったのですね。痛風発作を起こすまでは、無症状なので、放置する医師も多かった。痛風発作は、尿酸値の高い状態が長く経過して起こる症状のひとつに過ぎません。

 遺伝や体質で痛風になる人は、いつの時代でも一定の人数いて、そうした古典的な痛風患者は、昭和・平成を通じて増えもせず、減ってもいないのです。ところが、今問題なのは、なる必要もない人たちが、どんどん痛風になっている。もともと、高尿酸血症の10%ほどが痛風になるといわれている。現在痛風患者は六十万人ほどで、高尿酸血症の患者は六百万人に及ぶとされているが、昭和四十年代から急激に増加し、今や高尿酸血症は、当時の倍以上に増えている。ジャンクフード、ファストフードの流入と高度成長の車社会の時期と一致しているのですね。

 −−つまりは、過栄養、運動不足の時代を反映している

 近年、圧倒的に増えたのは、生活習慣病型の高尿酸血症といえる。生活習慣に問題がなければ、尿酸値も上がらなかったはず。生活習慣を改善したら、薬もなしに尿酸値が正常化したケースがたくさんある。生活習慣で上昇した尿酸は、生活習慣の是正で低下させようというわけだ。尿酸値が下がらなければ、薬物治療が必要だが、治療をしながら生活習慣を改善すれば、薬効も上昇してくる。生活習慣病型の三分の二は正常化する可能性があるし、内臓脂肪が減ってくれば糖尿病に関係するインスリン抵抗性(インスリンが過剰に分泌しているのに、効き目が悪くなる状態)や血圧、中性脂肪も改善する。

 −−高尿酸血症とインスリン抵抗性、中性脂肪、肥満などとは、どう関係しているのか

 インスリン抵抗性と高尿酸血症が合併しやすいことは二十年前ぐらいから言われていた。一般の住民検診でブドウ糖負荷試験をすると、インスリンの感受性が悪い人ほど尿酸値が高い結果が出ている。腎臓を経由したナトリウムや塩分の排泄(はいせつ)が悪いと血圧が上昇するが、それと尿酸が排泄されにくいという現象とは密接な関係があって、高血圧患者にインスリン抵抗性と高尿酸血症が合併しやすい理由になっている。

 一方、わが国の検診データでも、男性はBMI(肥満度指数)二五で区切ってみると、七ミリグラム/デシリットルを超える高尿酸血症の人は約二割になり、肥満とも非常に関係している。悪玉のLDLコレステロールとは相関しないが、メタボリックシンドロームの診断基準項目である善玉のHDLコレステロール(数値が高いほど良い)とは逆相関し、中性脂肪とは相関する。高尿酸血症は、高血糖や高血圧、高脂血症と相互に影響しあっていることの証明でもある。

 −−内臓脂肪とも深い関係にある

 CT(コンピューター断層撮影法)で測定した内臓脂肪面積と尿酸値はいずれも有意な相関があり、内臓脂肪がたまるほど尿酸値も高くなる。大阪府立成人病センターでの調査でも、心筋梗塞の再発率と尿酸値に関係があり、動脈硬化のリスクファクターのひとつといえる。全身の脂肪から、体の中の消防隊の役割を果たすような生理活性物質のアディポネクチンが分泌されているが、内臓脂肪がたまり過ぎるとアディポネクチンも減って、尿酸値が高くなってくる。つまり尿酸は、アディポネクチンとは裏表の関係にあって、メタボリックシンドロームの存在を示すバイオマーカーといえる。

 −−内臓脂肪がたまると尿酸値が上がる。そのメカニズムとは

 肝臓の中では、脂質や糖、尿酸の代謝が入り交じって行われているが、内臓脂肪がたまると、門脈という一番太い血管に遊離脂肪酸が大量に流れ込む。すると脂質代謝や糖代謝が非常に活発化して悪影響を及ぼし、中性脂肪や悪玉の生理活性物質が増えると同時にインスリン抵抗性も起こってくる。尿酸代謝もこの過程で活発化し、お互い代謝上もリンクし合っているので血糖なども上昇する。高尿酸血症が高脂血症や糖尿病とよく合併するのも故あってのことなのだ。高尿酸血症には、その成因によって「尿酸産生過剰型」と「尿酸排泄低下型」「混合型」の三タイプがあり、薬物治療の場合は、タイプに応じて使い分ける必要がある。内臓脂肪蓄積がまさっていて、体の中の尿酸生成が活発になっている生活習慣病型の場合は、尿酸生成抑制薬(アロプリノール)が妥当な選択だろう。

 −−結局、内臓脂肪が減らない限りは、簡単に尿酸値は改善しない

 内臓脂肪蓄積を改善しないまま薬物療法をしても、心筋梗塞などのリスクは減らないことになる。逆に、内臓脂肪のリスク要因が良くなったことを確認するにも尿酸値が使えるのではないか。メタボリックシンドロームの診断基準には入っていないが、尿酸値が高ければ慎重に観察を続けていく必要があるし、尿酸値が薬物治療を必要としない程度の上昇の間にも、マーカーとしてみていくことによって、きちんとした生活指導の成果が確認できる。

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【プロフィル】中島弘

 なかじま・ひろむ 大阪大学医学部卒業後、同学部講師、大阪府立成人病センター臨床検査科医長を経て、現職。専門は内分泌・代謝内科学で、日本臨床分子医学会、日本医師会2001年記念論文など受賞多数。

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【用語解説】尿酸

 細胞が生まれ変わる過程で生成される老廃物で、主に尿とともに排泄される。エネルギー源のATPやDNAの核酸が分解される際に体内で作られるプリン体と、うまみ物質で知られる食品中のプリン体が肝臓で尿酸に変わる。高尿酸血症とは、この尿酸の生成と排泄のバランスが崩れて、血液中の尿酸の濃度が正常値を超えて高くなる状態をいう。

 「高尿酸血症・痛風のガイドライン」(2002年発行)によると、正常値は7ミリグラム/デシリットル。尿酸値9ミリグラム/デシリットルからか、または8ミリグラム/デシリットル超で合併症があれば、薬物治療を考慮。6ミリグラム/デシリットルを治療の目標値としている。

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 ■運動…町中を「速歩」/食事…プリン体の摂取避ける/アルコール…日々上限を決める

 今や代表的な生活習慣病とされる高尿酸血症。重症に陥らないためには、どうしたらいいのか。同センターの中島部長からアドバイスをいただいた。

≪適度な運動≫

 内臓脂肪を減らすには、運動が一番手っ取り早い。それも有酸素運動。全力疾走やアスレチックなどの激しい無酸素運動は逆に、尿酸を増やすもとになるので要注意。三カ月運動を続けると、急激に内臓脂肪が減ってくるというデータもある。

 忙しくて運動する時間もない。そういう人たちに一番のお勧めが速歩。「それも意図的に。町中を歩いていたら追い抜く人の目標を定めて必ず追い抜くとか、楽しみながら」(中島部長)

≪肥満の解消≫

 肥満度(BMI)が高いほど高尿酸血症になりやすく、逆に高尿酸血症の人に肥満が多いのは図でも明らか。しかしBMIが二四、五でも内臓脂肪面積が“危険水域(一〇〇平方センチ)”を超え一五〇だったりすると尿酸値も跳ね上がる。まずは、「ベルトの穴一個分(体重約二キログラム減)ぐらいを目安に」(中島部長)。肥満の解消は、結局、ため込んだ脂肪エネルギーを減らすことに尽きる。

≪食事療法≫

 デスクワークの仕事だと、大体一キログラム当たり二五カロリーで標準体重を掛け算した数値が適正カロリー。これ以上摂取すると、肥満度が進む。自分なりにカロリー計算してみる。プリン体の摂取量が増えると、尿酸値が上がる。コクのある地ビール、動物の内臓、魚の干物類、イクラ、カズノコ、ダシの出る食べ物など概しておいしいものは高プリン食。白いご飯でも三食食べれば二〇〇ミリグラムとなる。大豆や納豆は高プリンだが、水にさらした豆腐は低プリンといった具合にさまざま。調理法も選んだ方がいい。「ただ、プリン食を減らしたとしても尿酸値にして一ミリグラム/デシリットル程度。いろいろな原材料の多彩な食品を取って、プリン体に偏らなくてすむようにしたい」(中島部長)

 さらに「内臓脂肪蓄積などで体内で合成される尿酸の量は、外因性(食事など)によるプリン体の二倍もあるので、過度な低プリン・ダイエットは賢明でない」としている。

≪アルコールの制限≫

 その代わりに挙げられるのが、アルコール(飲酒)の摂取を減らすこと。プリン体の上に、アルコール自体の作用で血液中の尿酸値が上がるし、高エネルギーなので肥満も助長する。ビールの中でも、とくに地ビールに多く含まれている。「焼酎ならお湯割り一杯とか、日々上限を決めておくこと」(中島部長)。さらに、高プリン食は尿の酸性度を高めるのでアルカリ化する食品を取る一方、尿酸の濃度を低下させるために水分も十分に。

(2006/03/18)