尿酸は生体ナビゲーター
足の指などに激しい痛みの衝撃が走る「痛風」の患者は、食生活が豊かになった昭和四十年代から急速に増え始め、現在六十万人とされている。原因物質である尿酸が血液中に高濃度で含まれ、痛風予備軍といわれる「高尿酸血症」の人は約六百万人にも上っている。
自営業の四十歳代の男性、Aさんは身長一七一センチ、体重七二キロ、胴囲八八センチとやや太り気味だったが、学生時代にラグビーの選手だったこともあり、健康には自信があった。ところが突然、右足の親指の付け根が赤く膨らみ、耐え難い激痛が走った。痛風の発作である。すぐに大阪府立成人病センターに駆け込んだ。
痛風は高尿酸血症がひそかに進行した結果で、抗炎症薬の投与など治療により痛みはとれた。だが精密検査でもうひとつの症状が見つかった。
内臓に脂肪が蓄積しているうえ、軽い高血圧、高脂血症、糖尿病を併発し、飲酒による脂肪肝も見られた。心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病を起こす動脈硬化につながる典型的なメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状態だったのだ。
同センターの中島弘臨床検査科主任部長は「痛風などで来院した患者に、併せてメタボリックシンドロームの見つかるケースが増えています」と説明する。
痛風の原因は尿酸で、動物の内臓や魚の卵などの細胞の核内に多く含まれるプリン体という物質から肝臓内で老廃物として作られる。この尿酸は直接に動脈硬化を起こすわけではない。しかし、内臓に脂肪が蓄積していれば、脂肪組織から出た脂肪酸が肝臓に入り、中性脂肪が作られるのに連携して尿酸の合成が盛んになる。つまり、内臓肥満があれば、メタボリックシンドロームにより動脈硬化が進む際のいろいろな変化と同時進行で、血液中の尿酸値が上昇することになる。
発症直前まで健康を過信していたAさんは、一転して積極的に生活改善に取り組んだ。血液中の尿酸を減らす治療に加えて、飲酒や食事の制限、運動量の増加を心がけ、血圧、血糖値などが正常化するかどうかを慎重に見極めた結果、快方に向かった。
「尿酸値はメタボリックシンドロームの存在を示すバイオマーカー(生体指標)になり得ます。高尿酸血症の場合、体内で尿酸が過剰に合成されるケースと、できた尿酸が排泄(はいせつ)されにくいケースがありますが、内臓肥満なら前者が主体なので、薬による治療方針も立てやすい」と中島部長は強調する。
生活改善優先の予防治療で、尿酸値の増減を目印にしてメタボリックシンドロームの進行の度合いを測り、一石二鳥の効果が上げられる。
中島部長は、心筋梗塞など心臓病の患者が五年以内に再び発症する危険因子が、高血圧と高尿酸血症であることも明らかにしている。尿酸は、内臓肥満が起こす心臓病など動脈硬化の有力なマーカーといえるのだ。
一方で、尿酸は重症になりやすい肝臓の病気のマーカーとしても注目されている。肝臓の細胞が線維化して機能が衰える肝硬変や、肝臓がんにつながるとされる非アルコール性肝炎(NASH)だ。
これまで肝炎はB型、C型などウイルスが原因か、多量の飲酒などアルコールにより引き起こされるかどちらか、と考えられていた。ところが最近になって、どちらの原因でもなく、フォアグラのように肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪肝から、細胞が炎症を起こしてNASHに移行し、さらに比較的高率で肝硬変につながりやすい例が増えていることがわかってきた。
この病気も内臓肥満が主要な原因とみられ、高尿酸血症を合併することなどからみて、尿酸値の上昇は危険信号になる可能性が高い。
「健康診断で簡便に測定できる尿酸値を内臓肥満関連の病気のマーカーとしてもっと活用すべき時期に来ています」(中島部長)
メタボリックシンドローム関連の病気と不即不離の尿酸は、効率的な予防、治療のナビゲーターとして医療費削減にも大いに貢献するに違いない。(飽食社会取材班)
(2006/04/13)