小児にも内臓肥満の兆候
少年は学校の健康診断で「肥満により生活習慣病になるかもしれない」と言われ、浜松医科大小児科学講座の大関武彦教授のもとを訪れた。小学四年(9つ)で身長一三七・六センチ、体重四四・五キロ。標準体重を33%も上回っていた。
血液検査をすると、中性脂肪の含量が一デシリットルあたり一三九ミリグラムと成人の標準よりやや多く、動脈硬化になる恐れがある。痛風につながる尿酸値は、高尿酸血症が疑われるほど高かった。高脂血症など複数の症状が動脈硬化につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の兆候を示していた。
少年は脂肪が多い肉や糖分を含むジュースといった高カロリー食が大好きだった。大関教授が、食事の量を減らし、低カロリーの食生活をするとともに、毎夕三十分間、散歩かランニングをするように指導したところ、数カ月で改善したという。
大関教授は「肥満の子供たちの血管のようすを超音波で調べると、血管が硬くなり、弾性がなくなってきている。本当の動脈硬化ではないが、その兆しが小中学生にすでに表れているわけで、これが成人につながっていくとそのまま進行すると考えられます」と指摘する。
動脈硬化の兆候があっても、小中学生の時期に心筋梗塞(こうそく)になるわけではない。体がだるいなどの症状もなく、見た目は元気だ。
ただ、この時期に動脈硬化が始まっていると、心筋梗塞などの発症時期を早めたり、糖尿病や痛風など肥満にともなう合併症を起こしたりする可能性もある。「肥満児」は「非肥満児」より、脂肪組織から分泌されて動脈硬化などを抑えるアディポネクチンというホルモンの量が少ない。そんなデータも次第に集まってきた。
成長の過程にある小中学生は、体格の個人差が大きい。このため、成人のようなメタボリックシンドロームの診断基準を設けている国はなかった。しかし、早期発見が急務であることから、厚生労働省の研究班長を務める大関教授らは三月、小中学生用の診断基準をまとめた。
必須条件はウエストが男女とも八〇センチを超えるか、ウエストを身長で割った値が〇・五以上になること。診療データから、このような体格の子供に中性脂肪や血糖の値が高いなど生活習慣病とみられる症状が表れることを突き止めていた。
小中学生の肥満は昭和四十年代に2−3%だったが、現在では8−10%に増えている。肥満の子供の七割は成人後も肥満が続くという。心筋梗塞になった中年女性には、十八歳のときに過体重の人の割合が高いという調査もある。
現在、体重が標準体重の20%以上増の小中学生を肥満とし、教育現場などで食事制限や運動量の増加などの指導が行われているが、目前の病気ではないので、それほど深刻には考えられていない。
大関教授は「肥満の問題に気付いてもらうためにも、メタボリックシンドロームはいい尺度」と評価する。小児の人格形成期にメタボリックシンドロームの予防に向けた健康生活を習慣づけることで、今後の生活習慣病対策は大きく前進するに違いない。(飽食社会取材班)
(2006/04/15)