産経新聞社

メタボリックシンドローム

【元気で長生きするための食生活】腹囲の大きい人は要注意

心筋梗塞などの危険率上昇

 前回、「少し肥満ぐらいの方が死亡率が低い」と述べました。一方で最近、「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)という言葉が知られるようになり、特に腹囲が大きい人は生活習慣病である心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞、糖尿病になる確率が高いと言われ、人々は腹囲を気にするようになっています。

 まずメタボリックシンドロームの診断基準ですが、男性では腹囲が85センチ以上、女性では90センチ以上で、高脂血症、高血糖、高血圧の三つのうちの二つがあれば、メタボリックシンドロームと診断されます。

 なぜ、腹囲が強調されるかというと、脂肪のうちでも内臓にたまる内臓脂肪が糖尿病、動脈硬化を起こすとされるからです。特に脂肪が多くなると、糖尿病を防ぐ「アディポネクチン」というホルモンが減り、TNFα(腫瘍壊死(しゅようえし)因子)などが増えるからだとされます。

 では、やや太っている人の方が病気になりにくく、寿命が長いということと、腹囲はどのように関係づけられるでしょうか。例えば、BMI(Body Mass Index、体格指数)が25以下の人でも運動をあまりしない人は、BMIが30以上で運動をよくする人よりも糖尿病になりやすいことが知られています。また一週間に二時間半くらい歩く人は、一時間以下の歩行の人に比べ、糖尿病になる率が三分の一くらいに減るということも知られているのです。つまり、肥満であっても、運動をよくしていれば生活習慣病になりにくいのです。

 前回述べたように米国(欧州でも)ではBMIが35以上の人が人口の35%くらいになっているのに、平均寿命は延びているし、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧は減り、糖尿病で亡くなる人もあまり増えていません。

 最近、五十二カ国の共同研究で、腹囲とヒップ(腰回り)の比と、心筋梗塞などの危険率との関係が調べられ、発表されました。男女を腹囲と腰回りの比(waist/hip ratio、WH比)で五段階に分け、どの比率の人が最も心筋梗塞などになりやすいかを調べたのです。

 その結果、体重のいかんにかかわらず、腰回りに比べて腹囲の「大」の人は心筋梗塞になりやすいという結果が出ました。わかりやすく、腹囲と腰回りの心筋梗塞との関係をグラフに示します。すると、腹囲の大の人は心筋梗塞などになりやすいのですが、これはやせていても、太っていてもそうなのです。またBMIが30以上という極端に肥満な人でも、腹囲にくらべて腰回りが大きければ、心筋梗塞などにあまりならないということもわかりました。

 いったい腰回りとは何を意味するのでしょうか。これは運動の程度、つまり腰を動かし、ここに筋肉がついているかどうかを示すのです。腰回りは脂肪とは関係ないのです。したがって腰回りの大きい人は運動をしているということになるのです。

 つまりおなかが出ているというだけでは、危険はそれほどないのです。もし、あなたが運動を十分にしているのなら、腹囲をあまり気にする必要はありません。例えば、米国のメジャーリーガーの多くは腹囲だけ見れば、メタボリックシンドロームの候補者です。しかし、彼らの腰回り大きさは大変なものです。腹囲のみを基準にやせようとすると、危険であることは知っておいた方がいいでしょう。

 (浜松医科大学名誉教授 高田明和)

(2006/05/14)