産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康ライフ】STOP! メタボリックシンドローム(2−1)

“異常のレベル”早期発見 
複合リスク、危ない40代

 「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の診断基準ができてから、1年余り。一般には、まだまだ認知度が低いといえそうだが、医療の世界では大きな変化の兆しも見える。普段なら見落とされがちな生活習慣病や動脈硬化症に陥りそうな“異常のレベル”をより早く見つけることが可能となってきたからだ。臨床現場では、メタボリックシンドローム対策の生活指導を軸に「生活習慣病予防外来」を設けるなど、新たな取り組みが始まっている。(大串 英明)

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 ■東山武田病院・舛田出(いずる)副院長に聞く

 −−臨床現場の実情はどうか

 今まで、診療に当たる人たちは、糖尿病が悪い、コレステロールが悪いなどと、それぞれ個別に診療してきたので、早期のリスクが集積して、それが動脈硬化につながるということが理解されていない点が問題でした。メタボリックシンドロームは、次の日起きるわけではなく十年、二十年後を見越した上で治療をしているのだと説明しているが皆、理解していないことが多い。特に早期の糖尿病患者の場合は、糖尿病の専門医の数も少ないため非専門の医師が診て、食事だけ注意されて放置されていることも多いのです。これでは、患者も危うさの実感が持てない。

 −−診断基準については

 糖尿病についても、「空腹時血糖110mg/dl以上」とする診断基準で妥当と思う。早期に糖尿病を発見して動脈硬化を防ごうというメタボリックシンドロームの趣旨には賛成です。しかし糖尿病専門医からすれば、悩ましいこともある。例えば、空腹時血糖が110以上でも、境界型か糖尿病型か、ブドウ糖負荷試験の二時間値を測らないとわからない。空腹時血糖にとらわれすぎると、糖尿病を見逃してしまう恐れがあるのですね。

 −−“隠れ糖尿病”という言い方がある

 空腹時血糖がそれほど高くないので、ほっておいたらしく、ある日突然、心臓病で病院に運ばれてくる。調べてみたら糖尿病なのです。心臓病の患者にブドウ糖負荷試験をすると、約六割の人から糖尿病が見つかる。リスクがない人でも、その試験をすると、全体の一七・八人に一人見つかる。ところが肥満・高血圧・高脂血症、それに高齢が重なると、六人に一人という高率になる。糖尿病の気配を抱えつつメタボリックシンドロームが複合すると、糖尿病ばかりか、動脈硬化も格段に進行が早まる証拠です。なので、糖尿病の気配のある人は、早期に心臓病のスクリーニングもやってほしいと医師の方々にもお願いしています。

 −−そうした危ない実感を医療側も患者側も十分に持ちえていない。メタボリックシンドロームに対する浸透度の低さが一番問題なのかもしれない

 ただ、メタボリックシンドロームの診断基準ができたことで、医師たちも非常にこれらのリスクに注意するようになった。そういう意味では、皆の見る目が格段に変わってくる可能性が高い。私自身、今までと随分変わりました。第一に患者さんに対する診療の仕方。メタボリックシンドロームの診断基準を取り入れてからは、そういう危ない人たちに対して積極的に動脈硬化の検査をやり始めている。それから患者さんへの生活指導も、スタッフと一緒に行っています。まずは、医療者自身が変わっていかねばと思いますよ。

 −−腹囲を測るときは、どうですか

 実際の現場では、基準値に達しているのは、圧倒的に男性が多い。達していない女性も別の危険因子を複数持っていたりして、多少の違和感を覚えます。ただ、おもしろいのは、患者さんは、腹囲を測るとものすごく照れるのですね。測りながらメタボリックシンドロームのことを説明する。そのちょっとした時間が患者とコミュニケーションを取る上で非常にいい。今までは、血圧測定が医師と患者のコミュニケーションだった。時代が変わって、血圧は家庭での自動血圧計に。今度からは聴診器の代わりに、メジャーが新たなコミュニケーションのツールとなりそうです。

 −−生活習慣病との違いをどう説明するか

 生活習慣病というのは、範囲が広い。心筋梗塞(こうそく)を起こしかねない、リスクが際立っている状態などと説明するが、表現としてあいまいさが残る。メタボリックシンドロームは、数字的にも臨床的にもエビデンス(科学的証拠)がしっかりしている。患者さんには「中性脂肪が高いように見えても、これはもう糖尿病に近いような状況でもあるのですよ」などと説明するわけです。専門医にとっても、これからは血糖値だけを下げたらいいのだ、などという偏った考え方から、広く総合的に診療する姿勢が重要ですね。

 −−従来、コレステロール値が高いと動脈硬化を起こすといわれてきたが

 それが覆ったわけではない。実際、冠動脈造影を行っていても、コレステロールが高い患者で心筋梗塞寸前だったりするケースも経験している。コレステロールは、動脈硬化を非常に起こしやすい、独立した危険因子として認識されているわけです。台の上に寝て行う心臓のカテーテル検査で、時としておなかがつかえる男性がいる。普通、肥満の人は横にはみ出すと考えるが、上がつかえる。それが内臓脂肪蓄積の人だったわけです。メタボリックシンドロームが過栄養や食習慣の変化に伴って出てくる病態とすれば、コレステロールが高くなることよりも、複合リスクが主な原因としてクローズアップされてくる。そういう意味でも、ごく普通の人たちのリスクを診療によって拾い上げていくのが、より重要なことになりますね。

 −−ことに男性の四十代が危ない

 京都の複数の病院で心筋梗塞、狭心症の統計を取ったところ、この十年間で明らかに四十代の患者さんが増えている。年齢もどんどん若くなり、最近は二十代もいます。昔は二十代というと家族性高コレステロール血症だったが、最近は、肥満をベースにリスクの集積したメタボリックシンドロームばかり。診断基準と見事に合致しています。

 −−診療の際、指標としているものは

 メタボリックシンドロームの基準に応じてコレステロールなど計十項目以内の血液検査をしています。しかし、大事だからといって、コレステロール関連の検査をすべて行うと、医療費も持ち出しになるので、患者さんによって検査の組み合わせを変えたりする。その意味でも臨床現場では、この診断基準はかなりの影響力が出てきている。

 −−MRI(磁気スペクロスコピー)を使っているとか

 CTスキャンと同じに、人体の輪切りを投撮できる。皮下脂肪も内臓脂肪も面積だけでなく体積も表せられる。もうひとつ、メタボリックシンドロームは、交感神経活動が亢進(こうしん)している。その表れが心拍数で、臨床経験でも心拍数が高いことが指標となることを実感している。

 −−メタボリックシンドローム対策では、生活習慣指導が大きな柱になっている

 治療法はさまざまあるが、生活習慣指導となると、運動・食事、それと一般的な生活のリズム、例えば、ストレスや夜更かしなどの生活指導、この三つを大きな柱にしています。中でも食生活の指導は難しいが、ただ体重を減らしましょうだけではだめで、その人の生活習慣に合わせた方法をやっていきたい。長い目で見ないと。半年、一年かけても良くなればそれでいいわけです。

 それと医療の予防治療のシステムや日本糖尿病療法指導士、健康運動療法士などコメディカル・スタッフの働く基盤が確立していないことなども併せて、当局は早急に考えてほしい。最後に、メタボリックシンドロームを実効あるものにするには、広く啓蒙(けいもう)することがもっとも大事です。国民全般が考えていく問題でもあるのですね。

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【プロフィル】桝田出

 ますだ・いづる 東京慈恵会医科大学卒業。国立循環器病センター、京都大学第二内科、旧JT京都専売病院副院長などを経て、現職。日本糖尿病学会・日本循環器学会専門医、京都大学医学部臨床教授など。

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【用語解説】ブドウ糖負荷試験

 通常、75グラムのブドウ糖を用いて、糖の代謝異常を血糖の経時変化で評価する糖尿病診断法。前夜から食物を取らず、翌朝、ブドウ糖を経口摂取させ、負荷前後二時間までの血糖の推移を計測する。

(2006/05/19)