内臓脂肪をターゲットに 合併症になる前に対応を
生活習慣病につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を防ぐため、国、学界、企業、メディアが歩調を合わせて取り組む第2回メタボリックシンドローム撲滅委員会(委員長、松澤佑次・住友病院長)が8日、東京・経団連会館で開かれた。特別座談会で松澤委員長は「内臓に脂肪が蓄積する肥満にターゲットをしぼり、効率よい予防医療を進めたい」と学界の方針を説明。厚生労働省は都道府県と一体になって健診・保健指導するプログラムのたたき台を明らかにした。その内容の概略を報告する。
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【特別座談会出席者】
メタボリックシンドローム撲滅委員会委員長 松澤佑次・住友病院長
同委員 渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長
厚生労働省 矢島鉄也・生活習慣病対策室長
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−−撲滅委員会の今までの取り組みについての総評を
松澤 がんと並んでわが国の死因のトップを占める心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などの動脈硬化性疾患は、無症状で進行し、ある日突然発症するため、その予防対策は極めて重要な課題となっております。動脈硬化などの背景としてコレステロールが重視され、その対策に重点を置いていましたが、それだけでは十分ではなく、飽食と運動不足のライフスタイルに伴って肥満、とくに内臓脂肪型肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧などが重なった状態が強いリスクになっていることがわかりました。このような世界的なコンセンサスができてきた中で、昨年四月に日本の内科系八学会が一緒になってメタボリックシンドロームの診断基準を作りました。
この症状の大本である内臓脂肪の蓄積は、腹囲という非常にわかりやすい指標を基準とし、それを必須項目として高血圧などほかのいくつかの病態が重なるというパターンです。これで内臓脂肪を減らすことに重点を置く予防医学がスタートしました。
ただ厚生労働省としても、生活習慣病一つ一つを治療していくだけでは十分な対策を行えないと早くから気づかれ、生活習慣病対策室で何らかのメッセージを出そうとしていたところ、偶然にも学会の動きと一緒になってこういう問題点の重要さを認識しました。
学会の方は、今まで糖尿病や高脂血症などとわかれば、それぞれに治療薬を出していたものを、もう少し上流に原因をさかのぼった医療にシフトし、医療の効率を良くしようという立場です。診断基準は、腹囲というマーカーを使って自己コントロールし予防医学につなげる。メディアには、この撲滅委員会を通じて、この基準が単に肥満度を測るというものではなく、内臓脂肪がたまった人にリスクが高まるということを国民に知らせるための大きな手段として協力してもらいました。ぜひこの運動を成功させて、日本で心筋梗塞、脳梗塞を減らしたい。
−−公衆衛生の立場からどのように国民運動を盛り上げればよいでしょうか
渡邊 私は長年、喫煙対策にもかかわってきたのですが、肥満対策と同じですね。たばこは吸っている年数と本数に応じて必ず健康が悪くなっていくのですが、働き盛りの人は、ほとんど意に介さない。それと一緒で、内臓肥満が本当に高血圧のような病気を起こす。実例をマスコミが積み上げて知らしめると、自分が最初に入り口で健康をチェックされた時点で「あっ、これはまずい」と思う。重篤な合併症になる前に少なくとも医療機関にかかわれるチャンスがあるというようになっていくのが望ましいでしょう。
公衆衛生の面から見れば、このまま放っておくと、日本は医療費で沈没ですね。糖尿病でインスリンを使い始めると、年間のインスリン費用だけで三百万円ぐらいかかるそうです。三割負担としても約百万円。だけど、高額医療で頭打ちになるので、残り分は国が持たないといけない。国全体としての活力が著しく損なわれることになると思います。
戦前は、企業でも大体平均して四割ぐらいの社員が結核を病んでいたり、脚気(かっけ)だったりして休んでいた。ところが、栄養学の創始者の佐伯矩(ただす)元国立健康・栄養研究所長が門下生を企業に送り込んで食事の指導をしたところ95%にも出勤率が高まったという話があります。長い目でみれば、健康を維持することが大事なこととわかっていただけると思います。
メタボリックシンドローム対策を機に国民一人一人が自分の健康を考えて、どうやれば百歳まで自分のことがきちんとできて、しかも三途(さんず)の川をぽんと飛び越せる。「ぴんぴんジャンプ」をできるだけの体力を保てるのかというところに研究所を挙げてチャレンジしてみたいと思っています。
−−厚生労働省はどのように取り組もうと考えていますか
矢島 厚生労働省では「健康日本二十一」という健康づくりの計画を策定しています。二〇一〇年を目標にしており、肥満の人(BMI=体重÷身長の二乗のデータが25以上)を、男性では15%に減らそう、女性も20%に減らそうとしていますが、男性は29・5%に増え、女性は25%のままで減らないという現実があります。食事を見ても野菜の摂取量はなかなか増えないし、朝食を欠食する人が増えています。運動では歩数が減っていて、不健康な生活習慣になっています。糖尿病については、平成九年と平成十四年に実態調査を行いましたが、着実に有病者・予備軍が増えています。医療費は国民全体で三十一兆円ですが、そのうちの約三分の一、十兆円が生活習慣病関連ですし、死亡する人の三分の二が実はこの生活習慣病です。生活習慣病対策が大変難しいのは、年を取ってから発症するということです。自覚症状がない若い時に対策を取っても成果がすぐに見えてこないという問題があります。メタボリックシンドロームの概念を導入することによって、大変わかりやすい健康づくりの成果を出すことができます。つまり、成果を見ることができる指標が開発されたので、その意味では健康づくりがやりやすくなってくると思っています。
今回の医療制度改革では、ポイントを二つに絞りました。一つは、日本は先進国の中で入院日数が非常に長い。もう一つは、糖尿病、高血圧、高脂血症やこれらの予備軍が増えている。そういう意味で、私どもは、生活習慣病の予防は、まさに医療制度改革の一丁目一番地だと考えています。
日本内科学会等八学会が作成した診断基準を参考に、平成十六年度に行った国民健康・栄養調査の結果を見ると、四十歳以上、七十四歳以下で約二千万人がメタボリックシンドロームの有病者・予備軍であることがわかりました。
(2006/05/27)