筑波大学人間総合科学研究科スポーツ医学専攻 田中喜代次教授に聞く
厚生労働省が一に運動、二に食事…と唱えるまでもなく、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に対する運動効果は明らか。最近の研究では、体重とともに、内臓脂肪やリスクそのものを大幅に減らすことがわかってきた。それも「ややきつめ」の運動を食事療法と組み合わせて“習慣化”していくことが何よりも重要で、レクリエーションのように、運動をエンジョイすることが長続きする秘訣(ひけつ)だという。健康長寿を願うのであれば、忙しいとはいえ、どこかで運動の時間をひねり出し、内臓脂肪を減らす工夫が必定なのではあるまいか。(大串英明)
≪「ややきつめの運動」習慣化≫
−−多忙な中、運動にどう取り組んだらいいのか
いきなり運動を始めても、仕事への影響が出たり、おなかが空いてつい食べ過ぎてしまうなどのジレンマに陥ります。最初は禁煙・節酒・食事制限の中で、自分で優先順位を決めて、実行可能なものから改善していくというアプローチが必要です。食事は1日に3食で週21回、運動は週に3日やりましょうというけれど、回数にして7倍の開きがある。食事は1回で300キロカロリー減らせるが、1時間ウオーキングしても250キロカロリーぐらいなので、まずは食事制限からスタートして、体重を5〜10%減らした上で徐々に運動量を増やし、ややきつめにまで持っていく。運動を多めにすることで、おいしいものを食べても体重を維持し、メタボリックシンドロームの進行を食い止めることになるわけです。
−−どういうふうに運動量を増やしていったらいいのか
運動の量というのは、「強さ」と「時間」と「回数」を掛けたものなのです。歩く速さなど、徐々に強さは上がっていくもので、頑張ると2倍になる。時間も慣れていくにつれ2倍にすると、合わせて4倍。しかし回数を4倍にするのは容易ではないので、運動にかける時間か強さで運動量を増していくほかありません。肥満の人の多くは、著しい運動不足のため、低い強さから出発して時間を十分に掛けましょう。それにより、食べる量も調整できる。一般に皆さんが感じている以上に、負荷や時間を増やすような戦略が必要になってくるのです。
▼40代は待ったなし
−−ところで、年々、生活習慣病の患者が増えている
一般の人のエネルギー消費量を2000キロカロリーとしますね。摂取量もそのくらいの数値だと、体重も変わらないままだが、年々、運動量が減り、摂取量が増えていく傾向にあります。さらに、基礎代謝も年とともに減っていくので、食事量が同じだと当然太ってきます。私たちの調査では、20歳のときと比べ、40代半ばで平均8キログラム体重が増える。やれ宴会だ、パーティーだとかで、日によっては2500〜3000キロカロリーにもなり、どんどんバランスが乱れてくる。早い人だと、1年で7、8キロ増えてしまう。今や肥満が恒常化しているといっていい。ストレスで過食や飲酒に走ることもあり、しかも仕事に追われて運動する時間がない。働き盛り、40代の男たちは、メタボリックシンドロームのまさに予備軍で、もう待ったなし。女性たちは家庭でもこまめに働いていますが、男たちは、いたって活動量が少ない。消費税と同じくらい、約5〜10%エネルギー消費量が女性より少ないのです。
−−内臓脂肪と運動との関係は
食事を減らすことでも内臓脂肪は減りますし、運動だけでも減りますが、両方合わせるともっと効果的です。短期間で考えれば、食事療法が一番手っ取り早いが、食事だけでやせたら体力がつかないし、筋肉、骨、基礎代謝の保持など運動の持つ大きなプラス効果が得られません。実際に私どもが16年前から始めたダイエット調査では、運動と食事療法の組み合わせで、男女とも内臓脂肪が30〜35%減るという結果が出ています。
特に最近の6年間のデータによると、女性群は顕著で、内臓脂肪面積からみてメタボリックシンドロームに罹(かか)っている人(100平方センチメートル以上)が最初42%だったのが、17%に、中性脂肪の基準値を超えていた人が16%から5%に、血圧は40%から20%にという具合に減りました。つまり、リスクが半減したことにもなるわけです。
ある中年の女性は、1200〜1400キロカロリーの食事コントロールと週3〜6回の運動で3カ月後に体重は15キログラム減、内臓脂肪面積は110平方センチから37平方センチに下がり、ウエストは18センチ減少した。
◆◇◆
■エンジョイするのが長続きの秘訣
−−見事なものですね
内臓脂肪とともに皮下脂肪も同程度に減る。ということは、体重もウエストも減ってくる。内臓脂肪を30%減らすと、体重は、8キロぐらい。ウエストサイズは、1・2倍(約10センチ)ダウンする。私たちのデータでは、体重4キロ減程度では、リバウンドする可能性が高く、ほぼ8キロ減を目指しておけば、仮に2キロ戻ってもまだマイナス6キロにとどめられるので、そういう意味でも、運動を長期に持続して習慣化することが大事なのです。大体ウエストが1センチ減っていれば、1キログラム体重を落とせていると考えていいでしょう。体重を減らせば、血液流動性などのさまざまな健康指標が改善され、人の“活力年齢”も5〜7歳若くなります。私たちが行っているスマートダイエットでは、8キロ、8センチ、8歳の若返りの見積もりを出し、わかりやすく、8・8・8運動としるしているのです。
▼8歳若返りの効果
−−なおかつ、メタボリックシンドロームが顕著に改善する
8歳若返ることによって、少なくとも病気になる時期が8年から10年遅れるでしょう。それで入院といった闘病生活が短くなれば、大きなプラス効果。まさに医療費にも影響してきます。住民や企業の従業員に対して、日ごろ、私が心がけているのは、その人の脳のスイッチをオンにすること。薬に頼らずに、健康をもっと手に入れようという気持ちをしっかり持たせるアドバイスをすることです。運動によって今までにない、さまざまな発見をする。汗をかいたらすごく気持ちがいい。ストレスも忘れる。運動が楽しくなってくると、1時間ではやめられないんです。それが本当の習慣化。
−−「自覚的運動強度」という言葉があるそうですね
自分で感じる運動の強さです。「楽」、「きつい」の間に、「ややきつい」がありますが、体調がいいときは、少しきつさを感じるぐらいの方がいいでしょう。きつさを感じないのと、少しきつさを感じるのとでは、同じ1時間の運動でも、エネルギー消費量に100キロカロリーぐらいの違いが出るかもしれません。1回で100キロカロリーでも習慣化していけば大きな違いになってきます。少し強度を上げてもリスクは増えません。ただ、そういうときは、水分補給がとても大切になってきますし、サプリメントを利用するのも良いでしょう。脂肪の燃焼を促進して糖の利用を温存させる「V.A.A.M.(ヴァーム)」のような機能性飲料も、お勧めですね。ヴァームと組み合わせた減量教室では、実際、皮下脂肪より内臓脂肪が特に減り方が大きかったという結果も出ています。
▼レクリエーション効果も
−−運動の仕方として、例えば、10分3回と30分1回では、どちらの方がいいのか
同じ強さでやるのでしたら、30分1回の方が明らかにいい。車に例えればアイドリング不足で、小刻みの運動では1回当たりのエネルギー消費が少なめになる。実際、毎日3回できるかとなると、難しい。失敗に終わる可能性が高い。どうせなら、1回で長めの運動を勧めます。同じ強度なら時間の長い方がEPOC効果(運動後も脂肪が燃焼し続けること)も高くなります。
−−黙々と、一人ジョギングを続けるのもつらいものがある
確かに。ひたすら走るのも悪くはありませんが、やはり週に1回でも、レクリエーションすることによって仲間と触れ合い、コミュニケーションをはかり、お互い知識を共有しあったりする、そういう交流や社会参加の場がすごく大事ですね。それと、2、3週間で運動の効果は確実に出てきます。するとさらに運動の量を増やしてみたくなる。自分に満足するというか、自分をほめてあげるというか、そういう“自己効力感”が、本人の食行動にも社会生活にもいい影響を与えることになるのですね。
◇
【プロフィル】田中喜代次
たなか・きよじ 筑波大学体育科学研究科修了後、大阪市立大学保健体育科講師などを経て、現在、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻(教育学博士)。日本体力医学会理事など。民間での健康運動指導のほか、健康寿命の指標である「活力年齢」なる概念を提唱。
(2006/06/16)