産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康ライフ】STOP! メタボリックシンドローム(2−1)

防衛医科大学校名誉教授・中村治雄氏に聞く
“予防健診”で予備軍啓発 検査項目・数値 求められる基盤整備

 健診の結果が「正常値」だからといって、安心はできない。いつなんどき、リスクが重なって、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に陥るともかぎらないからだ。目指すは、“予防健診”。厚生労働省も新たな概念を基に、制度改革に乗り出しているが、問題点も多い。予備軍への啓発とともに、保健指導の仕組み作りなど基盤整備も急務となってきた。(大串英明)

 −−メタボリックシンドロームの予防に健診の役割が期待されています

 これまでの健診は、糖尿病や高血圧など病気の早期発見に重点が置かれていました。しかし近年、血糖や血圧など個々の値は少し高め程度でも、肥満に重積すると心臓病や脳卒中を起こす危険性が高まるメタボリックシンドロームという病態が明らかになり、予備軍の段階で手を打つことが重要となってきました。

 −−正常値内でも安心できないわけですね

 そうです。そもそも正常値とは、現在は基準値とも言うように、健康な人の平均値を基に設定された基準範囲の値。ですから、例えば加齢とともに上がるコレステロール値は、中高年だけを検査対象とすれば、その基準値も上がります。つまり、基準値は病気にならない値を示す絶対的な指標ではないのです。大事なことは、健診結果から自分の身体が将来どういう方向へ動いているのかをとらえ、病気になる前に生活習慣を是正していくことです。

 −−具体的に健診をどのように活用したらいいのでしょうか

 まず注目すべきは体重です。肥満度の目安となるBMI(体重キログラム÷身長メートルの2乗)が25に近づいたら、減量を心がける。さらに大事な点が2つ。1つは、メタボリックシンドロームに関連する血糖値、血圧値、脂質値、それに腹囲などが正常値のマイナス5%ぐらいになったら気をつけること。例えばウエストサイズなら、メタボリックシンドロームの診断基準値は男性85センチ・女性90センチなので、そのマイナス5%で男性80センチ、女性は85センチ以上であれば要注意となります。

 もう1つは経年的な変化。正常値内であっても、過去2〜3年の値と比べてみて検査値がじわじわ増えてきている人は、体が病気を起こしやすい傾向に傾いていると考え、注意すべきです。

 −−おのおのの検査値について注意すべき点は

 血糖値は、日本の診断基準では空腹時高血糖110mg/dl以上とされていますが、ヨーロッパでは100mg/dlです。予備軍の人に注意を促し、予防に生かしてもらうには日本でも100が必要な値だと思います。

 脂質値のうち、メタボリックシンドロームでは、体脂肪を作る中性脂肪が高めで、血液中の余分なコレステロールを肝臓に戻すHDLコレステロールが少ないと問題になります。ただし、メタボリックシンドロームに限らず脂質値を見れば、動脈硬化を進める一番の危険因子はLDLコレステロールです。メタボリックシンドロームの人が、LDL値も高いと、高LDLだけの人よりも危険が増大します。血圧値は1日の時間帯、動作、精神状態によって常に変動しています。ですから、できればご家庭で、朝でも夕方でもかまわないので毎日同じ時間帯に測りましょう。測る前はトイレに行ったり食事もせず、5分くらい静かに椅子(いす)に腰かけます。家庭用の血圧計は上腕に巻くタイプが最適。3回測って、その平均値を記録すると健康管理に役立ちます。

 その他、肝機能の検査値であるγ−GTPは飲酒すると上昇する値として知られていますが、実は脂肪肝になるときにも上がります。またGPT(ALT)と中性脂肪の両方が高い場合、太っていなくても脂肪肝のリスクが高いのでアルコールだけでなく、脂肪分の多い食事や菓子類なども減らしましょう。

 −−食生活の改善点は

 最近、食事療法で重要視され、効果を上げているのが行動療法です。よく噛(か)んでゆっくり食べる、何かを見ながら、聞きながらはつい食べ過ぎてしまうのでやめる、1口ごとにはしを置くなど、習慣となっている食べ方のパターンを具体的に変える方法です。この方法は何を食べてもいいのですが、自然と食べる量が減り、およそ6〜7割の人は体重が減ります。

 −−日常の食生活に特定保健用食品を利用する人も増えています

 特定保健用食品は厚生労働省で有効性と安全性が認められた食品で、その保健の用途と効果の表示が認められています。表示を参考に、目的に合わせて食生活に取り入れるといいでしょう。私も生活習慣病の患者さんに紹介することがあります。例えば、コンブに含まれているアルギン酸ナトリウムという水溶性食物繊維はコレステロールを下げるのに非常に有効で、その成分を飲みやすく配合した「コレスケア」のような特定保健用食品も登場しています。その他、糖尿病や肥満症の人向けのカロリーゼロの甘味料や、高血圧の人向けには、塩分半分の食用塩などの調味料も上手に利用するとよいでしょう。

 −−運動の方法は

 以前は1万歩もしくは1時間、しかも心拍数が上がるぐらいスピードつけて歩くよう勧めていましたが、最近では1日約30〜40分、歩数でいうと6000〜7000歩を目安にゆっくりでもいいから歩くと良いことがわかってきました。できれば暖かくて明るい日中のうちがいいでしょう。食後に運動すると食後の血糖値上昇を抑えられ、減量にも効果的です。

 −−健診の問題点は

 1つは、正しい健診の受け方を知らない人が多いことです。検査値は食事の影響を受けやすいため、一般には健診の前日は夜9時までに食事を済ませ、当日は朝食を抜くことになっています。しかし、会社勤めの人などは深夜まで飲食して健診を受けることがあり、それでは体の状態が正しく把握できません。また、激しい運動は尿酸値や尿タンパク値を上げるので健診前は控えましょう。

 2つ目は健診を実施する側の問題ですが、正常値内の人でも、家族歴や生活習慣を考慮して異常値に入りそうな予備軍を見つけ、適切に保健指導することが大切です。

 さらに重要な点は、健診を本当に役立つものとするには、近い将来に起こりうる疾患を的確に予測できる検査項目を入れる必要があるということです。その1つがCRPという血中にあるタンパク質です。近年の多くの疫学調査で、CRP値が高いほど心筋梗塞(こうそく)の危険率が高いこと、CRP値も高い人にメタボリックシンドロームや高コレステロールが重なると、かなり早い時期に心臓病や脳卒中を起こすことが明らかになっています。

 米国心臓病協会でも、動脈硬化性疾患の初発予防のためには、CRPは最も有用な指標としています。日本ではまだ、健診でCRPを測定するところは少ないのが現状です。心臓病や脳卒中を超早期に予測できるCRPを導入すれば、危機意識が高まり、生活習慣を見直すきっかけ作りに役立つはずです。

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【プロフィル】中村治雄

 なかむら・はるお 慶應義塾大学医学部卒業後、同大医学部大学院修了。東京慈恵会医科大学内科助教授、防衛医科大学校第1内科教授を経て名誉教授に。三越厚生事業団常務理事。専門は循環器、脂質代謝。

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 産経新聞社では、「メタボリックシンドローム撲滅のためのキャンペーン」に取り組んでいます。詳しくは、メタボリックシンドローム撲滅委員会専用ホームページ(www.metabolic-sankei.jp/)に掲載されています。

 【主催】メタボリックシンドローム撲滅委員会、産経新聞社、フジテレビジョン、ニッポン放送、フジサンケイ ビジネスアイ

 【後援】厚生労働省、日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本肥満学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本心臓病学会、日本血栓止血学会、日本臨床内科医会、日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本歯周病学会、日本抗加齢医学会、健康・体力づくり事業財団、日本糖尿病財団、日本心臓財団、 日本栄養士会、日本製薬工業協会、サンケイリビング新聞社、扶桑社

 【メタボリックシンドローム撲滅委員会】◇委員長 松澤佑次・住友病院院長(日本肥満学会理事長)◇委員 春日雅人・神戸大学医学部付属病院長(日本糖尿病学会理事長)、藤田敏郎・東京大学大学院教授(日本高血圧学会理事長)、北徹・京都大学理事・副学長(日本動脈硬化学会理事長)、齋藤康・千葉大学医学部付属病院長(日本肥満学会副理事長 日本動脈硬化学会副理事長)、渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長

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 ご意見・お問い合わせ・情報等は、郵便もしくはFAXで。《〒100−8079 産経新聞メタボリックシンドローム撲滅実行委員会事務局》(FAX03・3243・1800)まで。

(2006/06/23)