産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】第3部(3)春日雅人・日本糖尿病学会理事長に聞く

「へべれけ共同体」なくせ

 国民病といわれる糖尿病の中で、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が原因とみられる症状の仕組みが明らかになってきた。日本糖尿病学会理事長の春日雅人・神戸大学医学部付属病院長は「脂肪細胞から出る悪玉の生理活性物質が炎症を起こし、これが引き金になる」と説明した。

 −−内臓脂肪の蓄積と糖尿病の関係は

 肥満とは脂肪細胞に過剰に脂(中性脂肪)がたまること。この状態を何らかの仕組みで脂肪細胞が感知して、アディポサイトカインと総称されるさまざまな生理活性物質を分泌する。アディポサイトカインには善玉(アディポネクチンなど)と悪玉がある。脂肪が脂肪細胞に多くたまると善玉は減り、逆に悪玉が増えて、血糖値を下げるインスリンというホルモンの作用を抑える「インスリン抵抗性」という症状を起こす。

 はじめは膵臓(すいぞう)のβ細胞からインスリンをたくさん分泌することで血糖値を下げようとするが、その状態が何年か続くと、遺伝的にβ細胞が弱い人は糖尿病を発症する。また、肥満した人の脂肪組織では慢性炎症が生じており、これにアディポサイトカインが関与している。このように、アディポサイトカインはメタボリックシンドロームによる糖尿病発症の仲介役として大きな役割を果たしている。

 −−悪玉のアディポサイトカインにはどのようなものがありますか

 マウス実験では、TNF−α(腫瘍(しゅよう)壊死(えし)因子)などが悪玉と分かった。最近、悪玉と考えられるようになったMCP−1(単球走化性因子)について、血中の値とインスリン抵抗性の程度の相関を見ると、糖尿病の患者さんではMCP−1の血中濃度が高ければ高いほどインスリン抵抗性が強いことがわかった。血中MCP−1値は内臓脂肪の蓄積の程度と相関するが皮下脂肪の量とは相関しない。このことは、内臓脂肪が原因のメタボリックシンドロームとMCP−1との関連をうかがわせる。

 −−炎症については、どのようなデータが出ているのですか

 肥満者の血中では、炎症の程度を見る指標として使われるCRP(C反応性タンパク)値が上がっている。動脈硬化の人でも高く、慢性炎症が脂肪組織や、動脈が硬化した部分で生じているのではないかと推定される。

 昔の記録にサリチル酸を服用すると糖尿病がよくなるという記述がある。サリチル酸には抗炎症作用があり、脂肪組織の炎症を止めてインスリンの機能を回復することで血糖値を下げるのではないか。

 −−日本人の場合、血糖値の目安は

 空腹時の血糖値が126mg/dl以上を糖尿病と診断する。臨床的な経験では、血糖値が200を超えるような肥満の人でも、やせればかなりよくなり、投薬量も少なくてすむ。個人差があり、数値による線引きはむずかしいが、少なくとも標準体重まで戻せば、膵臓のβ細胞は過剰に働かなくてすむだろう。動脈硬化の発症・進展を考えれば、空腹時血糖値110mg/dl以下、平均的な血糖の状態を示す「HbA1c」が5・8%以下を目指すべきだ。

 −−現代の日本人は糖尿病になりやすいのでしょうか

 運動不足、高カロリー食が蔓延(まんえん)しており、かなりの人が肥満に伴う糖尿病やメタボリックシンドロームになる危険がある。一番の問題は肥満が増えている熟年男性だ。私見では、仕事の一環としての食事と飲酒があるという日本人特有の「へべれけ共同体」をなくさないと改善は難しい。土、日はせめて仕事を忘れて、体を動かして運動するなど生活パターンを変えていくことが必要だ。

(2006/07/07)