産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】第3部(5)運動できる環境づくりを

渡邊昌 国立健康・栄養研究所理事長に聞く

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策で、もっとも大切なのは食事制限や運動量増加を続ける本人の自覚と意志だ。国立健康・栄養研究所の渡邊昌理事長は「自転車道の整備など運動できる環境づくりが必要」と提言した。

 −−予防にはまず何が必要ですか

 私の息子は保険会社勤務のサラリーマンだが、40代で体重は80キロぐらい。息子は太っていると思っていたら、5月の連休に家にきた息子の同僚全員が100キロは超えているだろうという体形だった。みんな痛風や高血圧症などの生活習慣病があって、高血圧の薬を飲んでいる人もいた。「太っているのは体によくないんですよね」とはいうが、焼き肉をさんざん食べた後、クリームがたっぷりのったケーキをペロリ。肥満解消には何もしていない。まず肥満を解消しないと、どんな薬も効果がないのだが。

 −−内臓脂肪を減らすための食事療法や運動療法は

 体脂肪を1キログラム減らすには7000キロカロリー消費する必要がある。だから1キログラムを1カ月で減らすには、1日当たり240キロカロリーずつ減らせばいい。食事と運動の両方で減らす場合、それぞれで120キロカロリーずつ減らせばよい。120キロカロリーは、ご飯なら茶碗(ちやわん)1杯半。運動では30分間一生懸命歩くエネルギー消費に相当する。つまり、これまでよりご飯を茶碗1杯半がまんし、30分間余分に歩くことだ。

 −−ご飯の量は今までどおりで、歩く時間を1時間に増やすというのは

 理論的にはそうだが、実際のところはよく分かっていない。食事と運動の組み合わせを変えることでカロリーの消費が実際にどう変わるのか、今年から本格的に研究している。

 −−飽食社会の中で食欲を抑えるのはなかなか難しい

 食欲は、性欲や睡眠などと同じ人間の根源的な本能。ただ、野生のトラやライオンは獲物がいっぱいいても、自分の腹がいっぱいになったら食べるのをやめる。現代人は腹がいっぱいになってもつめこむ。満腹になったことを知らせる仕組みが壊れてきている。

 −−歩くなど運動する機会が減っていますが

 運動ができる環境づくりも必要だ。今、環境意識の高まりから世界中で移動に自転車を使う人が増えています。デンマークやニュージーランドでは自転車で走るための道が整備されている。日本は自転車で走りたくてもいい自転車道がない。車道を1キロつくるお金で自転車道が40キロぐらいつくれるのだから、ぜひ自転車道の整備をお願いしたい。

 放置自転車を活用できるようにしたらどうだろう。今、駅前の放置自転車に困っているが、発想を転換して、引き取り手がない放置自転車を「貸しがさ」のようにだれでも乗っていい自転車に造り変える。そうすれば、電車ではなく自転車を使って移動する人が増えるのではないだろうか。

 −−糖尿病の体験があるようですが

 当時はメタボリックシンドロームという言葉がなかったが、まさに同じ状態だった。ただ、メタボリックシンドロームはまだ病気になっていない状態だが、私の場合は完璧(かんぺき)な糖尿病で、高血圧症と高脂血症もあった。それでも薬を使わずに食事と運動だけで正常値までコントロールすることができた。とはいえ、一度糖尿病になると健康体に戻るということは絶対にない。網膜症などの合併症を防ぐには、この先もずっと食事制限と運動を続ける必要がある。まだ病気になっていないメタボリックシンドロームの状態なら健康体に戻れるのだから、とにかく自分の生活を見直して、肥満解消に努めてほしい。(飽食社会取材班)

(2006/07/09)