産経新聞社

メタボリックシンドローム

【ゆうゆうLife】医療 メタボリックシンドローム 定年による活動減少に注意

減量にはきっかけが必要

 定年で活動の機会が減ると、腹部に脂肪がたまり、動脈硬化のリスクが高いメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状態になる人もいます。東京都北区の坂本義明さん(71)は、糖尿病に加えてリタイア後に体重が3キロ増えました。しかも、検査入院で内臓脂肪の過剰な蓄積が判明。食事制限と運動に取り組み、減量しました。生活習慣の改善に成功した坂本さんのケースをリポートします。

 「会社を辞めた後もバンコクの小さな会社を手伝っているのが、いい刺激になっています。趣味のゴルフも続けたいから、そのために足腰を鍛えています。しかし、やる気を起こすにはきっかけが必要です。私の場合は、検査入院でした」

 坂本さんは働き盛りのころ、産業用エンジンの販路を海外に開拓するため、世界各地を飛び回る企業戦士の一人だった。高度経済成長が続いていた1970年代。営業は商社マンの役割だったが、メーカーで設計にかかわった技術者の坂本さんが、技術的な説明を行ったのだ。

 「会社のために一生懸命働き、土曜も日曜もなかった。そのかわり、やりがいがあった。給料は上がるし、多少のミスがあっても好調な業績に隠れて責められることはない。チームが一丸となって取り組み、前へ進む勢いが大きい時代でした」と当時を振り返る。

 高度成長を支えた企業戦士の健康にも、やがて影が差す。40代前半で課長だったころ、欧州出張から戻ってすぐ、体調が悪いと感じた。勤務先の診療所で診てもらうと、血圧が180以上あった。その後、空腹時血糖が130ぐらいで高めと指摘された。約20年前には糖尿病のため、薬を飲むようになった。「遺伝によりインシュリンの出方が悪い」とのことだった。

 関連会社で役員を務めた後、62歳で現役を退いた。その後も、バンコクで小さな会社を経営する中国系の友人に頼まれ、工場運営などのアドバイスをするマネジャーとして、3カ月ごとに現地を訪れた。しかし、現役時代に比べると運動量が減ったため、リタイア時に62キロだった体重が3キロ増えて65キロに。腹部が出て、それまでのズボンがはけなくなってしまった。

 太ったことをあまり気にしなかった坂本さんだが、定期的に通っていた東京都老人医療センター(東京都板橋区)の内分泌科で昨秋、糖尿病合併症の検査入院をしたのをきっかけに、本気で体重を落とさないといけないと思った。

 検査入院では、内臓脂肪の蓄積具合を調べる「腹部CT(コンピューター断層撮影法)」や首の動脈硬化をみる「頸部(けいぶ)エコー」、脳梗塞(こうそく)が起きていないかチェックする「脳MRI(磁気共鳴画像法)」などの検査を2泊3日かけて受けた。

 検査の結果、坂本さんは血管壁が「年相応に厚くなっている」と指摘された。最大の問題は腹囲が91センチもあり、内臓脂肪が過剰に蓄積していたことだ。中性脂肪の数値も高く、腹囲、糖尿病、中性脂肪−と危険因子が重なったメタボリックシンドロームの状態だ。

 メタボリックシンドロームを放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞につながりかねない。危険を遠ざけるには、食事を制限したり、運動の機会を増やすなど生活習慣の改善が必要だ。

 「内臓脂肪が通常の2・4倍もたまっていると分かり、食事療法を勉強し直そうと思いました」。入院中に食べた糖尿病患者のためのメニューは1日1600キロカロリー。量はふだん食べている食事の半分で、日ごろいかに食べ過ぎているか自覚したからだ。

 「成人男性の1日の摂取量を2400キロカロリーとして、病院での1日1600キロカロリーはその約70%だから、食べる量はこれまでの7割を目安にしました。食品の種類は減らさず、野菜を多く取るよう心がけました。晩酌を減らしたのが、一番効いたと思います」

 坂本さんがもう一つ実践したのが毎日、運動すること。室内で腹筋や自転車こぎができる運動器具を購入し、腹筋10〜20回、自転車こぎ10分程度と毎日少しずつ続けた。その結果、4カ月で5キロ体重が減り、いまは60キロ。ウエストも91センチから83センチに減り、血糖値も基準内で落ち着いている。薬は減らすことになりそうだ。

 「自転車を10分こいでも60キロカロリーしか消費できない。しかし毎日、続けることで、腹囲が早く減ったと思います。まず食事の制限、そして運動が必要だと実感しています」と坂本さん。海外渡航やゴルフといった生活スタイルを維持するため、食事の管理や運動はこれからも続けるつもりだ。

 東京都老人医療センターの荒木厚・内分泌科医長は「生活習慣を変えるには、きっかけが必要です。糖尿病は合併症が怖い病気だが、自覚症状のない患者は口頭での説明だけではリスクをなかなか理解できない。しかし症状がなくても、検査で判明した問題点を数値や画像で示せば分かりやすい」と話す。

 生活改善の意識を保つには、きっかけに加え、坂本さんのように目的をもつことも大切のようだ。

(2006/07/28)