■内臓脂肪が病気の元凶
「世界中で肥満者が急増する中で、アメリカやカナダ、欧州、日本など経済的に豊かな国の政府は早期に多角的な具体策を立てるべき時期にきています」
肥満と糖尿病の研究で知られるカナダ・ラバル大学のジャン・ピエール・デュプレ教授は、飽食社会の深刻な状況を危惧(きぐ)する。世界でもっとも肥満率が高いのは米国で30%を超えるが、隣接するカナダも生活文化が似ていることから20%を上回った。
このため、カナダ政府は母乳を勧めるなど食事の改善や、学校の体育の授業時間を大幅に増やすなど運動を推進するプログラムを立てている。
「私が肥満の研究を始めた25年前には考えられなかったことですが、今では小児や青年期に、肥満などが原因の2型糖尿病の症状が出ています。また、歩きやすいように道路を整備するなど国レベルの対策まで必要になるとも思わなかった」と予想以上の肥満社会の進展にデュプレ教授は率直な感想を述べる。
実際、肥満者の世界的な広がりは「蔓延(まんえん)」という言葉が使われるほど止まらない。
WHO(世界保健機関)が提案し、2004年に採択された「世界肥満防止戦略」では食生活改善と運動不足の解消を軸にした取り組みを求めている。肥満率が20%以上と高い英国は今年、肥満予防を担当する大臣「フィットネス相」を新設し、対策に本腰を入れる構えだ。
オーストラリア・シドニーで開かれた第10回国際肥満学会に世界各国から3000人を超える学者、研究者らが集まったのも、事態に呼応して研究が盛んになっていることを示す。医学・生物学だけでなく、健康的な街づくりを進める都市計画の学者らも講演した。
「学会がスタートした70年代半ばは、肥満の研究といっても脂肪細胞そのものや食生活のエネルギーバランスといった小規模な範囲で議論していました。いまは、糖尿病や心臓病などの研究者が積極的に参加し、多角的な視野での研究が広がっています。その中で急速に病気との関係が詳細に明らかになってきたのが、腸など内臓の周囲に脂肪がたまる内臓肥満なのです」
デュプレ教授によると、肥満による「余分な脂肪」の蓄積が、どのように影響するか調べようと、大阪大グループの論文を参考にして脂肪組織をCT(コンピューター断層撮影法)で撮影したところ、蓄積する脂肪の分布状況がつきとめられた。これまでは体内の脂肪の全体量の多さと病気との関連を調べていた。しかし、それよりも「分布状況」が重要で、体内のどの位置にあればどれほど糖尿病や心臓病の発症リスクが高まるか、分析できるようにもなった。
その結果、腸の周囲など内臓にたまる脂肪(内臓脂肪)が一番の悪玉で、血液中の脂肪や糖の代謝、血糖値を下げるホルモンであるインシュリンの分泌量などに影響を与え、動脈硬化など病気の発症につながることが明らかになってきた、という。内臓脂肪を減らすことの重要性が海外でも検証されたことになる。
オーストラリア政府の肥満・糖尿病対策のリーダーであるイアン・ケイターソン・シドニー大教授も「政府関係者や医療関係者は内臓脂肪による肥満には注目しています。実際、医療関係者からも、内臓肥満の人に糖尿病や心臓病、高血圧症を併発するケースが多いという報告を受けており、内臓脂肪を減らすことが、肥満対策の主要なテーマになっていくでしょう」と断言する。
内臓肥満の考え方が海外で浸透するのに伴い、病気を水際で防止するメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準についても注目が集まった。(飽食社会取材班)
(2006/10/03)