産経新聞社

メタボリックシンドローム

【元気で長生きするための食生活】アラキドン酸で脳が若返る!?

 ■バランス考えて必要摂取量を

 団塊の世代が定年を迎え始める2007年を前に、脳を活性化し、認知症を防止することが大きな課題となっています。認知症は脳が老化することによって起こりますが、残念ながら、脳機能の低下を長期にわたり防げる薬は現在のところありません。そこで、食事や睡眠など日々の生活の基本を改善することにより、防ぐことが期待されています。

 最近になって、必須脂肪酸の1つである「アラキドン酸」に、脳の老化を改善する働きがあることが分かりました。必須脂肪酸とは、体内ではほとんど合成されず、食事として外部から摂取する必要がある栄養素であり、以前から脳機能の改善に有効なことが知られているDHAも必須脂肪酸の1つです。脳は、神経細胞とそれを支える細胞から構成されていますが、アラキドン酸はそれらの細胞の膜を作る主要な成分です。

 ラットによる実験では、年をとると脳に含まれるアラキドン酸が減少し、それが記憶力を低下させる原因の1つであることが分かっていて、アラキドン酸の不足分を餌としてとらせると、記憶能力が改善されることが証明されています。そこで、私どもの研究グループは、アラキドン酸が人でも脳の働きの改善効果があるのではないかと考え、研究を行いました。

 この研究では、60歳から70歳までの男性20人に、アラキドン酸を1カ月間摂取してもらい、摂取期間の前後で脳の働きを比較しました。方法としては、高さの異なる2種類の音を聞き分ける作業をしてもらい、そのときの脳の活動を脳波で測定し、その結果をコンピューターで解析するというものです。

 解析すると、脳波には「P300」という大きな波が出現します。この波が速く出現すれば、脳の働きが活性化されたということになります。分かりやすく言えば、頭の回転が速くなるということです。アラキドン酸を摂取すると、摂取前に比べ、およそ8ミリ秒もP300が速く出現しました。年齢が増すにつれ、P300は1年間に1・2ミリ秒遅くなっていくことが分かっているので、8ミリ秒速くなったということは、6ないし7年間分、脳の働きが若返ったということになります。

 このように、アラキドン酸は人でも脳の働きを活性化することが証明されました。アラキドン酸は肉類や卵に多く含まれますが、高齢者では小食になるばかりでなく、さっぱりとした食事になりがちなため、これらの食品は敬遠され、アラキドン酸摂取量が必要量を下回る傾向があります。

 また、メタボリックシンドロームの予防や治療のために、それらの食品を制限しなければならない人もいます。アラキドン酸の必要量がどうしても不足する場合には、補助食品として摂取することも考慮したほうがよいでしょう。

 アラキドン酸に限らず、高齢になればさまざまな栄養素が不足する可能性があります。それらをバランスよくとることにより、脳の健康、すなわち「ブレインヘルス」を心がけることは、脳ばかりでなく、体全体を健康に保つことに大きな意味があります。

 (杏林大学医学部精神神経科主任教授・古賀良彦)

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【プロフィル】古賀良彦

 こが・よしひこ 慶應義塾大学医学部卒。NPO法人「日本ブレインヘルス協会」理事長。専門分野は脳波解析による精神障害の研究。

(2006/10/08)