一見、健康そうに見えても、いくつかの軽いリスクが重なると動脈硬化が加速するメタボリックシンドローム。問題はライフスタイル。不摂生な生活を改善しようとしなければ、取り返しのつかないことになる。一方、ライフスタイルが欧米化した日系米人には上半身肥満がよく見られ、動脈硬化度も日本人より20年早いというが、近年、中性脂肪やコレステロール値が日本人と急接近してきたことがわかってきた。長寿ニッポンの座も危うくなりつつある。臨床現場から報告する。(大串英明)
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≪江草玄士クリニック江草玄士院長に聞く≫
■心筋・脳梗塞じわじわ増える
−−サラリーマンの患者さんが多いそうですね
私を含め糖尿病の専門医は血糖管理を一生懸命やるのですが、その分、動脈硬化の危険因子の管理が不十分な気がします。一般的に欧米人に比べると、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患は少ないだろうとみられていたが、最近の日本の糖尿病研究(「JDCS」)では、糖尿病に限ってみると、いまや心筋梗塞の発症数の方が脳卒中を追い抜いているのです。英国人との比較では、心筋梗塞を起こす割合が、すでに英国人の半分までになっている。糖尿病というのは、心血管病のパターンが欧米化しているといえますね。
−−メタボリックシンドロームとの関連は
糖尿病の患者さんは、内臓肥満・脂質代謝異常・インスリン抵抗性・高血圧など動脈硬化を起こす危険因子をたくさん持っている人が多く、かなりの部分メタボリックシンドロームと重なることは確かなのです。しかし、すべての危険因子が内臓肥満によるものではない。LDLコレステロール高値を含め動脈硬化に関連した代謝異常を全部包括的に危険因子としてとらえる必要がある。そういう意味で、米国糖尿病協会などでは、最近「カルディオ(心臓)・メタボリック・リスク」という言葉を使い始めている。最終的には動脈硬化を制圧するわけで、メタボリックシンドロームにとらわれ過ぎて、ほかの危険因子を見逃さないようにしなければならない。
−−検診の現場では
血糖値が正常域をちょっと過ぎている▽少し肥満傾向がある▽中性脂肪が増加の半面、HDLコレステロールの低下が目立つという人が多い。メタボリックシンドロームも、実はもっとひそかに早くからスタートしていて、動脈硬化も、糖尿病の気(け)が出るはるか前にスタートしているわけです。一見、健康に見える人たちの中に潜むメタボリックシンドロームを洗い出し、早くから動脈硬化予防に取り組むためにも、一般の啓蒙(けいもう)活動を強力に進めていく必要があります。メタボリックシンドロームの元凶とされる内臓肥満を簡単に測ろうという意味で、腹部の周囲径が診断基準に採用されてもいるのですね。
−−特に男性の肥満が問題になっている
男性は若い世代から中高年まで、年々、肥満に向かって進んでいることがわかる。女性は、閉経後、ホルモンの関係などで男性化してからですね。基本的には、運動不足と飽食の結果です。ご存じのように、沖縄県の男性長寿が、トップから一挙に26位に下がったのは、記憶に新しい。
−−最終的に、動脈硬化を防ぐには
動脈硬化に至るには、「3つの出来事」がある。1つは動脈の壁にコレステロールがたまって小さな盛り上がりができる。プラーク(粥(じゅく)腫)といわれるものだ。第2に何らかの刺激でそこに亀裂が生じる。第3のステップは、傷を修復するために血栓が出現し、血管の内腔(ないくう)をふさいで血流を遮断することから、動脈硬化症が起こる。つまり、プラークは、大きくなくても心筋梗塞や脳梗塞が起こり得るということが重要。動脈硬化の発症予防の鉄則は、「(コレステロールを)ためない」「破らない」「詰まらせない」の3つを守ることなのです。
■若年から過栄養、内臓脂肪に着目
−−血管壁に傷をつける原因にたばこがある
たばこを吸うと血管壁が傷ついて、そこからコレステロールが侵入する。最近の研究では、内臓脂肪から出てくるホルモンが直接、悪影響を及ぼすことも明らかになっている。プラークが破れるのは、血圧が一番のストレスだと思うが、炎症作用も関与しているといわれている。血液が凝固しても小さなものであれば影響が少ないが、大きな塊に変化する代表的な病気が糖尿病ですね。たばこも血栓ができやすく、中性脂肪は血液をねばねばにして固まりやすい状況を作る。そうした背景には、内臓脂肪の蓄積によるさまざまな作用が働いていて、動脈硬化の要因になっていることがはっきりしてきた。しかし、おなかに脂肪がたまっていなくても、コレステロールや中性脂肪が高く、糖尿病になる人もいるので、実際の検診にあたっては、あまりメタボリックシンドロームにシフトし過ぎても考えものなのですね。
−−血糖コントロールも難しいですね
糖ばかりに気を取られていると、コレステロールや血圧が上昇し、たんぱく尿が出て、動脈硬化のリスクがどんどん増えてくるのを見逃してしまうことになる。本来、メタボリックシンドロームの概念というのは、軽いリスクが重なると危ないですよというメッセージです。数値に振り回されずに、患者さんもかかりつけの医師なども、ともに認識し合って治療する必要があると思うのです。
−−超音波エコーで頚(けい)動脈の肥厚度(IMT)を測定すると、動脈硬化の度合いを測れるとか
私は、頚動脈の超音波エコーを常時行っています。これを用いると頚動脈にどれくらいコレステロールがこびりついているか歴然とわかります。そうした状況から、心臓や脳の血管の動脈硬化病変の予測がつきますので、臨床現場では有用なツールとなっています。患者さんによっては、まだそれほどの年齢でもないのに血管内にプラークができているのがわかり、非常に驚いて、懸命に生活習慣に取り組み改善した例が数多くあります。3000人ぐらい検査しましたが、日本人の血管にもこんなことが起こっているのだなとわかって驚きます。
−−実例を挙げると
43歳の単身赴任の営業マン。もともと飲酒量が多く肥満で、中性脂肪が386mg/dlもありましたが、超音波エコー検査で、プラークが血管内に大きく盛り上がった状態で、本人はびっくり。脳の奥や冠動脈にも同じ病変のある可能性が高いわけです。通常、43歳の日本人には、想像できない状況です。
−−どんな指導をされたのか
まず、「禁酒」というと難しい。今の悪(あ)しき生活習慣を全部半分にしなさいというところからスタートしたわけです。食事量やアルコール、カロリーオフも半分。奥さんに栄養指導をすることもあります。しかし、私の持論としては、食べ物よりは、まず運動ですね。地方都市では、東京などとは逆に運動不足なので、私は運動を強く勧める。食べたら歩く習慣ですね。最低限1日2回、15分2回歩くというと、案外軽く感じる。それに「あ」のつくものは避けましょうと。「アルコール」「甘いもの」、とにかく男性は「油もの」のおかずが好きですから。肉も焼くなどして油を落とす。「揚げ物」は控える。心筋梗塞を起こしてもたばこをやめられない人がいますが、この際スパッとやめてみたらどうかと。
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≪栄養摂取・日米比較≫
■食の欧米化で動脈硬化進む
米国に渡った日系米人の生活習慣が、メタボリックシンドロームなどにどう影響を及ぼすのか。長年、比較調査に携わった江草玄士院長に聞いた。
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江草クリニックのある広島は、昔から移民が多く、ハワイ、ロサンゼルスでも県人会が組織され、1970年(昭和45年)代から広島大学第2内科がタイアップして比較研究を続けている。その狙いは「日本人の遺伝的体質を持ちながら、米国の生活環境に置かれた者(日系米人)が、日本人と健康状態がどう違ってくるのか」というもの。江草院長も1988〜98年(昭和63〜平成10年)調査に参加している。
その結果、わかったことは−。まず日系米人は、動物性脂肪と単純糖(砂糖、蔗(しょ)糖)を日本人の約2倍摂取し、その分でんぷん類の炭水化物の量が減っている。「ちょうど白人と日本人の中間。日本人の食事の将来像を見ているような感じですね」と江草院長。
1日当たりの身体活動(運動)量は、日本人が明らかに多いが、日本で生まれた日系米人1世は、同2世と比べると、運動量も多く、BMI(肥満指数)も少なくなっている。しかし体形的には、日本人と比べ1世、2世とも上半身肥満で、「男女とも内臓脂肪の蓄積による腹部肥満に傾いている可能性が高い」(江草院長)。
インスリンの分泌能力は、日本人に比べ白人の方が強く、日系米人が白人と同じような食事をしていたら、早く膵臓(すいぞう)が疲弊して糖尿病になりやすくなると想定できるが、事実、日系米人は、広島の日本人と比べると、2〜3倍、糖尿病の頻度が多い。80年(昭和55年)代のデータでは、日本人と比べ圧倒的に日系米人の方が、コレステロールや中性脂肪値、それにインスリン値も高かった。
一方、日系米人を対象に、血管内の動脈硬化度(コレステロールのたまり具合)を簡便に測定できる頚動脈エコーで測定したところ、異常かどうかという分岐の1・1ミリの厚みに到達する時点は、広島の日本人よりも20年早かった。「やはり食事内容などが長年、欧米化したことの反映とみていいのだろう」(江草院長)
ところが、血清脂質レベルの20年間にわたる変化を調査してみると、近年、日本人と日系米人との間では、特にコレステロールや中性脂肪値が急接近していることがわかったのである。98年(平成10年)からその傾向が顕著で、日本人はじわじわと脂質が上がってきているのに対し、日系米人は逆に下がってきており、もうほとんど差がない状態だ。その理由として、江草院長は「米国では、とにかく、コレステロールを下げることを重要課題として取り組んだ結果であろう」と語る。米国での心臓病、冠動脈疾患の死亡率が近年、減ってきているのも事実だ。
動脈硬化の発症は、過去にどれだけの期間、身体が高脂血症などの疾患にさらされたかにもよる。従って、最近数値が近似してきたからといって動脈硬化の程度がすぐに日系米人並みになるとはいえない。しかし今、日本が長寿国を誇れるのは、「若いころ、あまり栄養を取っていないが、年取ってからだんだん栄養を取った人たちが寿命を引っ張っている」(江草院長)からでもある。今後どうなるか。若年から過栄養にさらされた日本人の前に、メタボリックシンドロームや高コレステロール血症が立ちはだかってくる。
「脳卒中はすごく減ったけれど、心筋梗塞がじわじわと増えていることはいやな予兆。長寿世界一も危うい座になるかもしれない」と江草院長は警告する。
日系米人には「帰米」といって、日系1世が子供たちをいったん日本に戻して育て上げ、また米国へ帰らせるという習慣があった。帰米経験のある日系米人は、ずっと米国にいた日系米人よりも肥満度が少なく、糖尿病になる危険性も低い。ということは、「年取って環境が欧米化しても、ずっとその環境にいるひとたちよりはメタボリックシンドロームや糖尿病に予防が効いている。子供のころからきっちり、良い食習慣などをたたき込んでおくことが、“転ばぬ先のつえ”といえるのではないか」(江草院長)。
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【プロフィル】江草玄士
えぐさ・げんし 昭和25年生まれ。広島大学医学部卒業。医学博士。平成12年、糖尿病を専門とする「江草玄士クリニック」を開設。動脈硬化などの予防、啓蒙に尽力している。
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■「撲滅運動キャンペーン」に取り組んでいます。
産経新聞社では、「メタボリックシンドローム撲滅のためのキャンペーン」に取り組んでいます。詳しくは、メタボリックシンドローム撲滅委員会専用ホームページ(http://www.metabolic−syndrome.net/)に掲載されています。
【主催】メタボリックシンドローム撲滅委員会、産経新聞社、フジテレビジョン、ニッポン放送、フジサンケイ ビジネスアイ
【後援】厚生労働省、日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血栓止血学会、日本心臓病学会、日本医師会、日本臨床内科医会、日本歯科医学会、日本歯科医師会、日本歯周病学会、日本抗加齢医学会、日本CT検診学会、日本健康運動士会、健康・体力づくり事業財団、日本糖尿病財団、日本心臓財団、日本栄養士会、日本薬剤師会、日本フィットネス産業協会、日本製薬工業協会、サンケイリビング新聞社、扶桑社
【メタボリックシンドローム撲滅委員会】◇委員長 松澤佑次・住友病院院長(日本肥満学会理事長)◇委員 春日雅人・神戸大学医学部付属病院長(日本糖尿病学会理事長)、藤田敏郎・東京大学大学院教授(日本高血圧学会理事長)、北徹・京都大学理事・副学長(日本動脈硬化学会理事長)、齋藤康・千葉大学医学部付属病院長(日本肥満学会副理事長、日本動脈硬化学会副理事長)、渡辺昌・国立健康・栄養研究所理事長
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ご意見・お問い合わせ・情報等は、郵便もしくはFAXで。《〒100−8079 産経新聞メタボリックシンドローム撲滅実行委員会事務局》(FAX03・3243・1800)まで。
(2006/10/08)