産経新聞社

メタボリックシンドローム

【亡食の時代】第5部 医食“不”同源(1)むしばまれる子供

 ■調味料・献立…加速する肥満

 「医食同源」という言葉がある。不老長寿の道を突きつめた中国の“薬食同源”の思想を発展させた造語らしいが、その意は「食事は医療に匹敵するほど大切である」という戒めだ。しかし飽食の時代の今、食で心身の健康を損なう人々がいる。現代の食を問う企画「亡食の時代」、第5部のテーマは「医食“不”同源」。1回目は子供たちに広がる肥満と忍び寄る影の実態を報告する。

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 小・中学生の10人に1人が「肥満」−。平成16年の国民健康・栄養調査が突きつけた数字だ。小児の肥満(標準体重の120%以上)は推定で30年前の約3倍に拡大したといわれ、その数が増加を続けるとともに、健康状態を危ぶむ声も大きくなっている。

 「肥満で(受診に)来る子供たちに、血中の脂質異常が多く見られます」。そう指摘したのは静岡県浜松市で肥満治療を行う「間宮内科クリニック」を開く間宮康喜(やすよし)院長。

 脂質異常、いわゆる「高脂血症」で、動脈硬化症などを引き起こす。来院する肥満の子供の実に約2割が該当するという。間宮院長はこうも続けた。「痛風予備軍の子供が年間3、4人。糖尿病は2人ほど。脂肪肝も15%」。まるで中高年のカルテを見ているような錯覚さえ覚える。

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)。この言葉も子供たちとは決して無縁ではなくなってきているらしい。

 獨協医科大学の有阪治教授(小児内分泌疾患)が昨年、栃木県内の小中学生220人の血液検査を実施したところ、7%の児童・生徒から、ある粒子が見つかった。現在、メタボリックシンドロームとの関連が注目を集めている「小型高密度低比重リポ蛋白(たんぱく)粒子」。悪玉コレステロールとして働き、動脈硬化や心筋梗塞(こうそく)を引き起こすという指摘がある。

 「生活習慣病の典型といわれる2型糖尿病にかかる子供も増えている。中には糖尿病を認識せずに、糖分の多いペットボトルのがぶ飲みを続けたあげくに血糖値が急上昇して意識障害で救急車で運ばれてきた中学生もいます」。そう話す有阪教授は「子供たちが将来、健康に暮らせるのかとても心配すべき状況だ」と語り、声色に深い懸念をにじませた。

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 来院する肥満の子供たちの食生活の実態が綴(つづ)られた「食事日記」。間宮医師は読み進めるうちに、三文字のキーワードにたどり着いた。「調味料」だ。

 「糖や油をたっぷり使った口当たりのいい調味料をかけて食べることが多いのです。焼き肉に濃厚なタレをかけて食べたり、ハンバーグもトマトケチャップをべっとり、焼きそばにはマヨネーズをかけたり…」

 デパートやスーパーの持ち帰り総菜を頻繁に利用している親が少なくない、とも感じたという。そして、その濃い味付けに慣れるほど、好みの調味料の乱用を招くという悪循環に陥っている。「子供が好むものを(好む味で)、好きなだけ食べさせているのでしょう」。飽食の時代ゆえの幸せだが、子供にとって実は不幸であることに気付いていない親…。間宮医師からは静かな嘆息が漏れ聞こえた。

 こんな指摘もある。

「『焼き肉とハンバーグ』『空揚げと焼き鳥と焼き魚』…。夕餉(ゆうげ)に並ぶ料理の組み合わせがおかしいんです」

 こどもの城(東京・渋谷)で開かれている肥満児対象の健康スポーツ教室「太りすぎクラス」。月に2回、親から提出される「食事日記」に、主菜に主菜を重ねる奇妙な組み合わせが目立つと、管理栄養士の太田百合子さんは困惑する。

 「子供が食べないサラダは無駄だから買わない・出さない。そんな傾向がみられます」。果たして、これを「もったいない」と言うのだろうか。

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 減る兆候がない肥満の子供たち。やむを得ない事情もあるという。日本全体で食卓の洋風化が進んでいるのだ。獨協医科大の有阪教授は近年の肥満増大の要因の1つにそれを挙げ、脂肪エネルギー摂取量を問題視する。

 例えば朝食。「魚の干物、おひたし、みそ汁、ご飯」といった典型的な和食朝食の総カロリーに占める脂肪エネルギーの割合は11%だが、「牛乳にハムエッグ、食パン、アスパラとトマトのサラダ」といった洋風朝食の場合は47%に達する。平成16年の調査では、日本人の実に約半数(46%)が適正量(総カロリーの25%)を超える脂肪エネルギーを日々摂取しており、厚生労働省は健康寿命の延伸を実現するための「健康日本21」の中で、脂肪エネルギー比率の削減を目標として掲げた。

 「肉を中心とした脂肪エネルギーの摂取量を減らし、その分、野菜を増やしましょう」と呼びかける管理栄養士の太田さん。だが、その口からは、こんな“証言”も聞かれた。

 「餃子(ギョーザ)や春巻きを野菜料理だと思っているお母さんがいるんですよ」

(「食」問題取材班)

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 《メモ》JA全農が昨年5月、小学5、6年生477人に「好きなおかず」を聞いたところ、肉料理が上位を独占し、全体の5割強を占めた。さらに、調査からはラーメンや炭酸飲料、スナック菓子を好む様子もうかがえた。また、神奈川県平塚市が市内の5歳児(幼稚園・保育園児)の保護者1908人を対象に昨年実施した生活実態調査によると、よく食べる食材は「肉類」が「魚類」や「野菜類」などの約3倍の回答数となり、幼児の段階から肉食を好む傾向が浮かび上がった。

(2006/10/30)