□日本生活習慣病予防協会・池田義雄理事長に聞く
■基礎代謝の衰え、欠かせぬ毎日の運動
「恰幅(かっぷく)がいい」といわれる人ほど、気をつけたほうがいい。それこそ、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の表現形としての肥満。運動不足と過栄養が重なって、ほうっておけば内臓脂肪がたまって、動脈硬化へと突き進むことになる。加齢とともに身体の基礎代謝が衰えて、ちょっとでも摂取エネルギーを取り過ぎると、太ってくるのだから、毎日の運動は欠かせない。それも、筋肉トレーニングが一番だという。さて、あなたの覚悟の程は?(大串英明)
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−−確かに、恰幅がいい、というと、ほめことばでしたね
恰幅の良さが権力や経済力の象徴みたいにとらえられていた時代、十分な栄養を取って太っている人は限られていたし、自家用車も少なかった。そういう時代にはメタボリックシンドロームは成立し得なかった。しかし今や日本人の大半が、飽食と運動不足の下に置かれている。この中から生じてきた身体の複合的な異常、その表現形がメタボリックシンドロームを誘導する肥満なのです。最近は、小児肥満も増えてきている。
−−かつて、生活習慣病も成人病といわれていました
メタボリックシンドロームを背景に派生してくる疾患がこの30年の間に50倍にもなった糖尿病をはじめ、高血圧、高脂血症の3大生活習慣病。それを年をとればかかっても仕方ないという成人病のとらえ方をしている限り、保険でカバーしなければならないが、医療費はすでに破綻(はたん)をきたしている。応分の負担を求めなければならないとすると、成人病は不適切な用語となる。かんぐってみると、自己負担を求める根拠として生活習慣の是正、生活習慣が悪かったことによって、慢性疾患が起こっているし、悪化の道をたどっているという意味で、病気に対する自己責任を求める用語として、生活習慣病という言葉が生まれたとも言える。
−−というと
今、日本人の3分の1ががんで、あと3分の1が動脈硬化による心血管病で亡くなっている。すなわち、生活習慣病は、動脈硬化に結びつく疾患と悪性腫瘍(しゅよう)に行く道に分けられる。メタボリックシンドロームの対策は、がん対策とも共通していて、食生活、運動、ストレスの回避、過度の飲酒や喫煙をしないなどに尽きる。動脈硬化予防、イコールがん予防でもある。人は遺伝的背景も持っているが、この遺伝的な背景で起こる疾患が生活習慣で加速される。その際生じてきた病態が生活習慣病としてとらえられる。そのメジャーな部分がメタボリックシンドロームであり、前がん病変なのです。
−−肥満と一口にいうけれども
かつて肥満というのは、今の体重に対してその人の適正体重(標準体重)を算定して、身長−100×0・9=肥満度(%)だった。(20代前半くらいの体重がほぼその人の標準体重とみていい)20%を超えると生活習慣病の予備軍ととらえられていたのだけれど、肥満の本体というのは、ただ体重が多いだけではない。体脂肪が過剰になった状態を指すことになり、体脂肪量を正確に量るようになったが、それでは体脂肪が多ければ病気になりやすいかと。必ずしもそうではなく、今度は体脂肪の付き方が問題となり、体組成の分析方法が進歩してきたのです。
−−その典型的例として、CTスキャンという優れた臓器分析の技術がありますね
このCTだと、人体が輪切りにできて、おなかの中心部を分析してみると、外側から皮下脂肪、筋肉、腹腔(ふくくう)内に入って臓器と一緒に存在する腹腔内の脂肪組織が見えた。これを定量化してみると、体脂肪が皮下についている脂肪と、腹腔内に蓄積されている脂肪の比率が検討できるようになった。これは非常に画期的なことで、腹腔内の脂肪に注目して体脂肪の分布を見たということが、学術的にすぐれた情報をもたらすことになった。
−−以前から、上半身肥満、下半身肥満という言い方がありました
上半身で太っているタイプは、糖尿病との関係が密接などとの説が1940年代には唱えられ、人の体形と病気との関係は、脂肪の付き具合で違ってくるということが注目されてきたが、その脂肪分布が実際的に数量でとらえなおしできることになったので、腹腔内に脂肪が過剰に蓄積していると、とても怖いことだと明らかになったのです。男女差があるということが一番大きなポイントで、女性はどうも閉経までは内臓脂肪がたまってこない。男性は、20代過ぎて体重が増えれば、脂肪の多くが内臓に蓄積される。だから、昔の上半身肥満は男性型肥満、下半身肥満は、女性型肥満とも呼ばれた。女性は妊娠・出産に際して体脂肪が重要なエネルギー源で、しっかり皮下脂肪で備蓄しておく必要があるのです。女性型肥満は、皮下脂肪が多くても内臓脂肪は少ない。逆に男性型肥満は内臓脂肪が多いことがわかってきた。
いずれにしても、体脂肪が過剰に蓄積するのは、男女とも摂取エネルギーが多いからで、その結果、余ったエネルギーが脂肪に合成されるが、その蓄積場所が男女で異なる。両性のホルモンの影響だが、女性は、生殖能力とも深く関係している。女性でメタボリックシンドロームというのは、閉経後から問題になる。診断基準では、女性の腹囲径を男性(85センチ)より多い90センチにしているが、体脂肪のつき具合から違うのだから、内臓脂肪を推定するためには、少し太めにしておいてよいのではないか。
−−インスリンというホルモンと肥満とは、どう関係してくるのか
脂肪が合成されるのに必要な条件が2つあって、エネルギーが過剰にある、と同時にその余ったエネルギーを脂肪に合成するためのインスリンが大量に供給される。従って太っている人は、インスリンがたくさん分泌されており、やがてインスリンが効きにくくなる。それは、太って脂肪細胞が大きくなると、そこからインスリンの働きを抑えるような成分が分泌される、あるいは、インスリンの働きを良くする成分が極端に減ってしまうからということが最近の研究でわかってきた。
そうしたインスリン抵抗性が肥満とともに強く存在すると、太りが加速される。インスリンというのは、増殖作用のあるホルモンなので、不必要に大量に血中にインスリンがあると、血管内の動脈硬化をも促進させるように働く。と同時に、太っている状態の脂肪組織からは、動脈硬化を抑える物質が減り、これを促進する成分が増えてくる。こういうことが起きている人を調べてみると、糖尿病、血圧、高脂血症など、それぞれの気(け)があり、その気の段階でそれらが集合されてきている場合は、確かに動脈硬化が進みやすいということがわかってきた。
−−それを解消する方法はあるのか
根本的には、社会の仕組みが太らせない方向へいくことが必要です。飽食を許さない、運動不足を許さない。今、駅でもエスカレーターやエレベーターができて、これはハンディキャップのある人たちには必要であるが、電車一つ乗るにしても省エネになっている。そういう社会が加速される中で、健康体重が維持できる環境を社会全体で行うことは難しい。そうなると、自己責任下でセルフコントロールすることになるわけだが、ともかく安易な生活習慣が定着し、生まれたときから飽食という状況の時代。やはり、健康の増強という意味では、危機的であることは間違いない。
ただ、非常に生活環境がいいので、長生きできる素地はあるし、個人のレベルで健康体重を保持するには、摂取エネルギーのコントロールと、消費するエネルギーを可能な限り盛んにしておくことが必須条件となる。
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【プロフィル】池田義雄
いけだ・よしお 東京慈恵会医科大学卒業。同大学健康医学センター健康医学科教授などを経て、現在、日本生活習慣病予防協会理事長。専門は内科学および健康医学。糖尿病・肥満の研究、生活習慣病予防活動などで多くの業績がある。
(2006/11/01)