産経新聞社

メタボリックシンドローム

『歩いて防ごう!メタボリック』IN大阪(2−1)

 □「働き盛りの健康づくり『歩いて防ごう!メタボリック』IN大阪」≪特別セミナー≫

 ■“発症の主役”は内臓脂肪の蓄積

 官界、医学界、メディア、産業界が一体になって対策を進めるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)撲滅委員会のオフィシャルイベント「働き盛りの健康づくり『歩いて防ごう!メタボリック』IN大阪」のひとつとして、医療従事者向けの≪特別セミナー≫が11月4日午後、大阪市中央区の大阪ビジネスパーク円形ホールで開かれ、約300人が訪れた。第1部は、日本肥満学会理事長の松澤佑次・住友病院院長と同学会理事の宮崎滋・東京逓信病院内科部長の特別対談が行われ、メタボリックシンドロームの診断基準をめぐる予防医学のあり方などについて話し合った。第2部は、日立健康管理センターの中川徹・医長が産業医の立場から講演し、心筋梗塞(こうそく)予防の取り組みについて成果を語った。

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 ≪特別対談≫

 住友病院院長      松澤佑次氏

 東京逓信病院内科部長   宮崎滋氏

          司会・吹田明日香

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 ■松澤氏…基準値でも減らせば効果

 −−昨年4月にメタボリックシンドロームの診断基準が策定されてから、国内の状況はどのように変わりましたか

 松澤 今年5月に厚生労働省が医療改革のひとつとしてメタボリックシンドロームを中心に健康対策を行っていくと表明しました。そのさいに国民栄養調査の結果、予備軍を含めれば、男性の2人に1人が、その病態と発表したこともあって反響があり、国民に早く浸透しました。

 ただ、まだまだ誤解があります。まず、メタボリックシンドロームは高コレステロール血症とは独立した動脈硬化のハイリスク病態です。コレステロールが高くない人でも心筋梗塞がしばしば起こります。

 糖尿病、高脂血症、低HDL(善玉)コレステロール血症のいずれかがあり、さらに高血圧が一個人に集積する複合型のリスク症候群であるという定義ですが、このような病気はそれぞれ非常に頻度が高いので偶然重なることもあるものの、それはメタボリックシンドロームとはいわない。発症メカニズムの上流に主役として、過栄養と運動不足による内臓脂肪の蓄積があるというのが基本です。

 内臓脂肪の蓄積についてはCT(コンピューター断層撮影)のデータから、へその高さでの内臓脂肪の面積が100平方センチメートル以上が危険で、男女ともリスクがはね上がる。ただ、一般には、内臓脂肪蓄積の指標として、これに相当するウエストサイズが一番、簡便ということで基準にしたわけです。

 診断基準は、男性が85センチ以上、女性が90センチ以上ですが、女性の方が圧倒的に小さな体格なのに、なぜ女性の方が太くてよいのか論議がありました。これは男性に比べて女性の皮下脂肪は非常に厚いからです。ただ、何も85センチ以上は異常で未満は正常というようなものすごい谷間があるような指標ではない。例えば、男性で100センチの人が2、3センチ減るだけで非常によくなるという認識を持っていただきたい。

 −−肥満者から見たメタボリックシンドロームの病態はどのようなものですか

 宮崎 肥満の判定にはBMI(体格指数、体重を身長の2乗で割った値)を使い、25を超せば肥満症です。男性は全・年齢で体重増ですが、女性は40歳以下がやせています。BMIが20から25の間だと、死亡率が一番低いわけです。

 肥満症の中でも糖尿病、高血圧、高脂血症を起こす人には共通性があり、内臓脂肪の蓄積があって、皮下脂肪はわずかです。症例を紹介しますと、ある男性は45歳のときの健康診断で身長170センチ、体重75キロでBMIは26。ウエスト周囲径は88センチです。血圧も142〜88でちょっと高い。血糖値、空腹時血糖、中性脂肪が少し高い。

 これまでは、このような人は多少太り過ぎで、血圧などが少し高いので、気をつけなさいと済ましていたが、よく見ると内臓脂肪型の肥満でした。

 この人は48歳になったときに動悸(どうき)、息切れを感じた。中性脂肪は大変高くなっていて、HDLコレステロールも下がっている。さらに、BMIがどんどん増えています。

 そのため、薬が処方されたが、さらに3年後には胸痛を感じて、また薬が追加されました。しかし、53歳の時点でついに心筋梗塞を起こしてしまった。このような病態がメタボリックシンドロームの自然経過で、特に体重の増加が全く抑えられなかったために、非常に軽度な異常が8年後には心筋梗塞に結びついてしまった。

 つまり、脂肪細胞が肥大し、増殖することによってアディポサイトカインという物質が異常に分泌されることになり、動脈硬化に結びつくという危険な状態、これがメタボリックシンドロームです。

 治療としては、内臓脂肪軽減が大変重要で、身長、体重、ウエストを測り、患者の食行動、運動行動、嗜好(しこう)をよく把握して、現状よりも5%の体重減少。それを3カ月ないし半年間で達成するということです。1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後に薬ということでしょう。

 −−厚生労働省だけではなくて、文部科学省、それから農林水産省も巻き込んで、この動きがかなり広がってきていますね

 松澤 今回は医学界が提案をして、厚労省が一緒になり予防医学として進めていくことで、まずは非常にいいスタートを切っています。食育の面では農水省なども関係しますし、学術としては日本学術会議にも生活習慣病対策分科会という分野を横断する委員会ができました。

 ただ、それだけでは十分でなくて、国民一人一人が知識を得て、長期的に取り組み、みんなが健康寿命を延ばせることを期待しているわけです。

 厚労省が平成20年から健診でウエストを測り、メタボリックシンドロームの診断がついた人には保健指導がスタートします。全国民が一緒になって初めて、元気な老人、成人の社会が実現するでしょう。

 ■宮崎氏…小児肥満の基準策定へ

 −−現状では、小児肥満や、肥満などが原因の2型糖尿病の患者予備軍が急増しています。どのような取り組みをしたらいいのでしょうか

 宮崎 小児の場合も、小、中学校の時点から肥満児で、中性脂肪、血圧、血糖が高いというケースが増えています。

 特に、これまでは肥満児というのが大体児童生徒の約2%といわれていたのが、5%を超えるぐらいに増えてきています。もし小児のときからメタボリックシンドロームであれば、大人と同じように20年で心臓発作を起こすと考えれば、30歳代、40歳代で病気になる可能性が高いのではないか。

 その一つの事例が沖縄県で、40歳、50歳代の人の肥満が大変多いため、これまでは長寿県だったのが、全国で中等度になってしまった。その原因は、どうも戦後、ファストフードをよく食べるようになり、自動車にも乗ることが多くなったためで、80歳、90歳代は長生きしているのに、その手前の世代は太っているためにどんどん亡くなってしまう。

 運動についても、肥満者はやせた人より、1日160分も長く座っている。小児のときからテレビゲームに励む時代であれば、その時点から既にメタボリックシンドロームの芽が育ってきていることになります。

 肥満学会でも、小児メタボリックシンドロームの診断基準などをつくり、予防教育を進める予定ですので、ご協力をお願いします。

(2006/11/26)