産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 「栄養成分表示」義務化を(2−1)

 糖尿病を減らすには、予備軍の段階からと常にいわれるが、その予備軍に歯止めをかけるにも、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策が有効であることに間違いはない。内臓脂肪が蓄積すると、余分な分泌物質(サイトカイン)や炎症物質が糖の働きを悪くして、やっかいな「インスリン抵抗性」という病態が体全体に起こってくるからだ。生活習慣の改善が基本だが、この高脂肪食と運動不足の時代、どんな防止策があるのか。糖尿病・動脈硬化の専門家である滋賀医科大学内科学講座の柏木厚典教授は、「国の栄養指導・治療を抜本的に考え直す時期。まずは食品の『栄養成分表示』をきちんと義務化することなど、健康に即した十分な社会環境の整備を」と提言する。(大串英明)

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 □滋賀医科大学・柏木厚典教授に聞く

 ■糖尿病予防とともに、基盤整備必要

 −−メタボリックシンドロームが注目されるゆえんは?

 厚生労働省が健診に訪れた人を対象に、10年掛かりで「健診結果と医療費の関係」を調べた分析結果があるが、高血圧・高脂血・(糖尿病予備軍の)耐糖能異常・肥満のリスクのある人は、約45万円なのに対し、全項目異常なしの人は、約14万円だった。その差は、3・2倍。国民の総医療費低減の意味からも、メタボリックシンドロームの抑制が重要とわかる。それには、危険性の高いグループを抽出して集中的に改善指導・治療する必要がある。糖尿病は合併症などいろいろな問題をかかえているので、確かに予備軍対策が一番肝心なことだが、糖尿病を発症してしまうとかなり管理(血糖コントロール)が難しい。だから、そのもっと前の予防を考えると、いわゆるメタボリックシンドロームの段階から介入していった方がよさそうだとわかってきたのです。

 −−食生活も随分変わってきた

 日本では、ここ十数年、総カロリーの摂取はさほど変化してないのに、肉類を代表とする脂肪エネルギーの割合は増える一方なのです。例えば、脂肪の摂取量は終戦直後、全体のエネルギーの5%だったが、今では5倍以上25・6%に。それと統計上あまり出てきてはいないが、砂糖などの単純糖質の量が増え、食物繊維の摂取が少なくなっています。

 もう1つは、体を動かさなくなったこと。内臓脂肪1キログラムをカロリー換算すると7000キロカロリーになるが、例えば、1日20キロカロリー、つまりお茶碗(ちゃわん)のご飯8分の1ほど1年間、毎日増やし続けたら内臓脂肪が1キロたまる。しかし日々動いていれば、すぐに消費できる値なのに、どんどん摂取エネルギーがたまることになる。

 −−エネルギーはどこにたまるのか

 脂肪エネルギーは肝臓・脂肪組織・筋肉組織(骨格筋)に蓄積される。健康診断で「脂肪肝」を指摘される人は、余剰カロリーがたまっているのです。肝臓はすぐに飽和状態になるので、次に脂肪組織に移る。女性が皮下にためやすいのに対し、男性は特に内臓脂肪にたまります。骨格筋では筋肉線維の間にたまり、いわゆる霜降り状態になる。

 −−そういう脂肪の蓄積が、どんな悪影響を及ぼすのか

 特に内臓脂肪がたまると、全身に「インスリン抵抗性」が高まってくる。インスリン抵抗性というのは、インスリンの効き具合を意味しますが、同じ血糖を下げるにも余分なインスリンが必要となってくる。「インスリン感受性」が悪くなるとも表現します。インスリンは、糖の利用を効率よく調節し、血糖値をいつも狭い範囲内に保つ働きをしている。ところが、脂肪がたまると、脂肪組織から放出されてくる遊離脂肪酸が元凶となって、インスリンの働きを鈍らせるのです。それと、インスリン抵抗性が高くなると肝臓から糖が盛んに放出され、筋肉では、糖の取り込みが減ることになり、高血糖になる。その状態が長く続くと糖尿病になるのです。

 −−いろいろなサイトカイン(生理活性物質)も放出される

 内臓の脂肪組織からは、細胞毒性のある腫瘍(しゅよう)壊死因子の「TNF−α」や「レジチン」などのサイトカインがたくさん出てきて、これらが大概局所の炎症状態を引き起こすのです。風邪をひいて炎症したら、血糖が上がるのと似たメカニズムでインスリンが効きにくくなる。さらに内臓脂肪がたまればたまるほど、脂肪組織の善玉サイトカイン(アディポネクチン)が減少してインスリン感受性は低下します。

 −−インスリン自体、分泌が下がることも

 糖尿病には2つ要因があって、インスリン抵抗性が急激に上がるか、インスリン分泌が下がるかのどちらか。内臓脂肪が蓄積され、体内で糖がうまく調節できないようなときには、(膵臓(すいぞう)の)β細胞からさらにインスリンを分泌して何とか血糖を下げようとする。しかし、糖尿病の人や遺伝的にインスリンの分泌が悪い人は、必要に応じインスリンの分泌度を上げることができないため、糖尿病になる確率が高くなるのです。

 欧米人とリスクの集積で比較したら、日本人の方が圧倒的に糖尿病になりやすい。それはもう日本人の特質といっていい。福岡県・久山町研究では高BMI・高中性脂肪・低HDL・高血圧・高血糖の5つのリスクがそろったら、糖尿病になる確率は130倍にも増加します。一方、メタボリックシンドロームの場合も、リスクの個数に対応して、倍々ゲームで心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患が増加します。

 −−臨床現場では

 糖尿病の人を診ると、(リスクが)集積した人がいっぱいいるわけです。外来で通院している糖尿病患者さんの34%、3人に1人がメタボリックシンドロームなのです。昔は、中年以降に糖尿病が多かったが、現代はライフスタイルの変化で脂肪摂取量なども増え、肥満になる確率も高くなり、若くして糖尿病になることが多くなってきている。

 −−近ごろ、「食後高血糖」の危険性がいわれている

 食事をすると糖質がブドウ糖に分解されて血液中に入り、身体活動のエネルギー源となります。従って空腹時で血糖は上がらず、ご飯を食べたときに食後の血糖値が上昇するのは当然なことなのです。しかし、そこに落とし穴があって、内臓肥満などでインスリンの働きが低下してくると、空腹時血糖が正常の範囲内でも、食後2時間の血糖値が、糖負荷試験で測ってみると、200ミリグラム/dlを超える場合がよくあります。それが一応「食後高血糖」と定義されていますが、心筋梗塞などへの影響が疫学的にも指摘されているのです。

 −−そのメカニズムは

 通常、食後の血糖が上昇すると、生体の血糖を下げるシステムが働き、インスリン分泌を上昇させて血糖を下げる反応を自動的に起こすことになります。ご飯を食べたら、すぐにインスリンが上昇してくれればいいのですが、しかし分泌能力が低下していると、食後も高血糖がだらだら続きます。タイミングよくインスリンが分泌してこないと血糖は下がらないので、インスリンは分泌し続けることになる。その繰り返しを長年している間に、β細胞は、「もう堪忍してほしい」とインスリン自体を分泌しなくなるのです。それが典型的に2型糖尿病などになるコースの1つで、食後高血糖が怖いといわれるゆえんなのです。

 −−メタボリックシンドロームとの関係は

 食後高血糖も、大きく分けて、インスリンの分泌しにくい型と分泌しやすい型の2通りあり、実はよく分泌するタイプがメタボリックシンドロームになりやすい。インスリンがずっと分泌し続けたら、糖尿病にはならないわけですが、よく分泌するタイプの日本人でも、欧米人ほどの分泌力はないので、糖尿病になるケースが多い。だから糖尿病でメタボリックシンドロームという人が、日本人には多いのです。

 −−中性脂肪とのかかわりは

 中性脂肪は体内の脂肪細胞に蓄えられる脂肪の1つです。脂質は血液に溶けないので、リポタンパクという形で血液中を流れていますが、食後高血糖の人は、糖が上がれば上がるほど肝臓で脂肪がどんどん合成され、肝臓からもリポタンパクとして脂肪が放出されて、「高中性脂肪血症」が起こる。だから糖と脂肪を一緒に食べると、中性脂肪が急激に上がってくるが、中性脂肪が増えると、善玉のHDLコレステロールが減って血管内に血栓ができやすくなる。インスリン抵抗性があると、さらに中性脂肪が長時間血液中にたまり、高中性脂肪血症を促進することになります。

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【用語解説】難消化性デキストリン

 ジャガイモやトウモロコシのでんぷんを原料として加熱・酵素処理し、消化されにくいでんぷん分解質を精製・分離した水溶性食物繊維のことをいう。「難消化性デキストリン」は、食事に含まれる糖(炭水化物)の吸収を遅らせ、血糖上昇を緩やかにする働きなどが確認されており、特定保健用食品として販売されている。

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【プロフィル】柏木厚典

 かしわぎ・あつのり 大阪大学医学部卒業。博士号取得後、米国NIHフェニックス臨床研究所研究員としてピマインディアンの糖尿病発症研究。滋賀医科大学第3内科助教授などを経て、平成13年教授。専門は内分泌・代謝学。日本動脈硬化学会・日本病態栄養学会理事など多数。

(2007/01/19)