産経新聞社

メタボリックシンドローム

お父さんスーツに細身革命 業界「ダイエット手伝います」

 「ゆとり」削減−といっても、教育や家計の話ではない。スーツだ。「背広」と呼ばれ、長年“お父さんのユニホーム”として親しまれてきた定番スーツのデザインが、徐々に細身へと変化を始めている。若者に流行中の細身スタイルの影響だが、中高年の体形は「メタボリックシンドローム」が流行語になるように太めが増えているのが実情。トレンドと体形が反比例するなか、細身を実現するための助けとなるサービスを仕掛けるなど、紳士服業界も工夫を凝らしている。(津川綾子)

                   ◇

 ■若者からの波

 「もっとスマートなスーツにしたら?」

 こんなひと言を夫に放つ妻の姿が、紳士服売り場に目立つらしい。

 「女性は男性より流行に敏感。この1年で、奥さんがご主人に細身のスーツを勧める光景が急に増えました」と、紳士服専門店「AOKI」を展開するAOKIホールディングス(横浜)商品構成部の中塚昇部長。

 妻の願いをかなえるように、同社の中高年向けスーツのうち細身タイプのものは前年比でその種類が倍増しているという。

 昨年秋(2006年秋冬シーズン)には、40代以上向けに新ブランド「ジャン・レノ」を投入。背中に吸い付くフィット感が特徴で、身につければ体をほっそり、シャープに見せる。「これまでのアダルト向けスーツのシルエットとは大きく異なる」と中塚部長。この“細身”を際だたせるため、他よりウエストが3センチ細い、新たなマネキンも用意した。

 スタイリッシュな新商品だけでなく、定番スーツも細身にシフトしている。毎年の型紙見直しによる「数ミリの微妙な変化」(中塚さん)が積もり、同社広報によると、3年前と比べ、平均で上着のウエスト回りが約2センチ、パンツのもも回りが約3センチ細くなり、股上(またがみ)も1・5センチほど浅くなっているという。

 とはいえ「ヤング向けと違い、上着の中にこぶし1個分の余裕をもたせている」ので、窮屈ではない。ただしこの余裕も数年前よりはこぶし半分ほど減っている。

 いわゆる細身ファッションの流行が“聖域”である中高年向け背広にも押し寄せた形だ。

 ■歩いて割引

 だがトレンドに逆らうように、中高年に肥満が確実に増えている。

 厚生労働省の平成16年国民健康・栄養調査によると、中高年(40、50代)肥満者の比率は30%を超え、10年前に比べ6ポイント増えている。そんなおなか回りはやはり気になるようで、キリンお酒と生活文化研究所(東京)が昨年5月に実施した「ダイエットに関する男性の意識調査」では、ダイエットに興味がある40代の男性は78・9%にのぼった。

 トレンドに乗るには、シェイプアップが欠かせない。紳士服専門店「洋服の青山」を展開する青山商事の子会社、青山キャピタル(広島)は、顧客を対象に歩数計を無料配布し、健康管理サイト「クリエイティブヘルス三健人」で歩数データを管理。歩数に応じてスーツを割り引くサービスを昨年10月から開始した。

 「やせることがよりおしゃれ意識の喚起にもつながる」と執行役員の安芸憲治さん(36)。「細身のスーツがほしくても、試着すると苦しくて断念する。こういった男性が歩数計を使って歩き続けることで体がしまり、『ポイントもたまったからいいスーツを買おう』と考える。そんな期待もある」と話す。

 青山商事では現在、中高年向けブランドの型紙を見直している。もも回り、上着ともより細身になる予定という。

                   ◇

 ■美しく…下着もスリム化

 中高年の男性向けの下着もスリム化が進む。

 「グンゼ」(大阪)は平成15年以降、40代向けブランド「ボディナビ」「クラックス」を発売。昨年春夏シーズンには伸縮性のあるパワーネットを使っておなかとお尻を美しく見せるボクサーブリーフも売り出した。「年とともに体形は崩れる。今の中高年が望むのは、体にフィットしてスマートに見える下着です」と商品開発部の桧原充治さん。これらブランドのMサイズは若者向けブランドではLサイズに相当。サイズ展開にも配慮がある。

(2007/01/28)