産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 歯周病(2−1)

 ■糖尿病など全身疾患と関係?

 「歯周病」というのは、歯茎周辺の病気というだけではない。糖尿病が進むと歯周病が余計ひどくなり、逆に歯周病を治療すると、糖尿病が改善することがあるなど、全身疾患との意外な関係が、最近の疫学研究で次々と明らかになりつつある。歯周病に巣くう炎症性の細菌やサイトカイン(生理活性物質)が血液を介して全身に影響を及ぼすらしい。一方、メタボリックシンドロームで内臓肥満になればなるほど歯周病のリスクが高まることも報告されている。もはや「口の中だけ」と侮れない事態に、歯科医療界も内科医科と連携して対策に取り組もうとしている。(大串英明)

                   ◇

 □日本歯周病学会・野口俊英理事長に聞く

 ■悪玉細菌、血管を介して

 −−以前は、「歯槽膿漏(のうろう)」と呼ばれていましたね

 それは、戦前のドイツ医学でいう「アルビオ・ラル・ピオレ(歯槽膿漏)」の名残で、戦後、英語の「ペリオドンタル・ディジーズ」に変わり、その直訳が「歯周病」というわけです。つまり、歯の周囲の組織の病気です。歯を支える組織は大きくわけて図表のように、「歯肉(歯茎)」「歯槽骨」「歯根膜」「セメント質」の4つで成り立っています。目で見ることができるのは歯肉だけで、歯肉の中に隠された組織があるわけです。歯の根を取り囲んでいるのが歯槽骨。そして骨と歯根の間にあって双方を結びつける役割の線維組織が歯根膜です。

 −−「虫歯」との違いは?

 大まかにいって、歯周病も虫歯と同じように、原因は歯の表面にべったりとついた生きた細菌の集団です。虫歯で歯が痛くなるのは、虫歯に付着する細菌によって歯そのものが溶かされ、神経まで行き着くと痛くなるのですね。ところが歯周病は、歯を支える土台である4つの組織全部が壊されてしまう。虫歯が歯そのものの病気なのに対し、歯周病は、歯を支える組織全体の病気なのです。

 こびりつく細菌の集団をプラーク(歯垢(しこう))といいますが、これを歯磨きなどで完璧(かんぺき)に取るのはなかなか難しい。うがいや簡単な歯ブラシでは決してとれません。しかも口の中は、こうした細菌にとって大変好都合な環境なので、あっという間に繁殖するのです。配管に付く湯垢(ゆあか)みたいなもので、フィルム状にもなっているので、現在は「バイオ・フィルム」とも呼ばれています。こうした生きた細菌の集団が、歯周組織に相当なダメージを与えることになるのです。

 −−歯根膜が大事だというのは

 力を込めて物をぎゅっとつかんだときに、1本の奥歯に加わる力は、自分の体重と同じくらいの力が加わります。そういうとき歯根膜は、その力が直接骨に伝わらないように、クッションの役割をしています。強靭(きょうじん)な線維質でできており、端の方は、セメント質や骨の中にも少し入り込んでいます。天然の歯というのは、物をかむのに、実に巧妙にできているのです。

 −−歯周病とは?と改めて聞きたい

 歯周病は、まず歯肉から始まります。病気の過程には2段階あって、身に覚えがあると思いますが、初期症状は、リンゴをかむとよく血が出るような状況で、生きた細菌によって歯肉に炎症が起きる「歯肉炎」です。歯肉炎だけだと、きちんとプラークを取りさえすれば歯茎のはれも引いて元の状態に戻すことができます。しかし放っておくと、徐々に進行し、40代を過ぎると一気に悪くなり、いわゆる慢性疾患の状態になります。それでも歯肉炎のときならば、きれいに治すこともできるのですが、この段階で治療に来る人は極めて少ないのが現状です。

 −−第2段階は

 放っておいたら、生きた細菌がたまり続けて、どんどん歯肉炎がひどくなります。そうなると、次第に歯肉とセメント質との間の溝(歯肉溝)がはがれて、だんだんとその溝が深くなっていきます。それを「歯周ポケット」と呼んで、重症度を測る指標ともなるのです。その段階になると、生きた細菌から放出される低分子の毒性物と、片や生体を守る側の白血球・リンパ球などとの戦いが始まります。守る側が負けると今度は、逆に自ら壊れていってしまい、そうなると、炎症性のサイトカイン(生理活性物質)が産出されます。

 それらが何をしでかすかというと、体の防御機構を超えて、歯を支える骨や歯根膜という歯周組織全体を壊し始めます。これが第2段階の「歯周炎」という状態。やがて炎症による痛みも出て歯がぐらぐらして最終的には抜くしかなくなる。この2つの段階を総称して歯周病といいます。

 −−怖い病気ですね。口腔(こうこう)内ですごい戦いが起きている

 ある意味で「サイレント・ディジーズ」です。歯と歯の間にすき間(ポケット)ができるようになると怖いことになる。戦った同士の細菌類の膿(うみ)が出始めて、それを毎日飲み込んでいる状況なわけです。自分の体の先端の骨が溶けてなくなる病気などというのは、聞いたことがない。歯肉溝は、空気が入らないので、症状が悪化すると、悪質な嫌気性菌が増え、破壊力が増すことになる。さらに怖いのは、歯周病の影響が全身に及んでくることです。糖尿病などで抵抗力のない人、免疫力の弱い人などは、病状が進行しやすいのです。

 −−ということは

 「口の病気」とはいいますが、口腔も全身の一部であって、本当は全身疾患でもあるのです。歯周病がまさにそれに当たります。実は、前述の歯肉にたまる悪玉の細菌やサイトカインが、逆に全身に回っていくという可能性もあるのです。歯肉自体、血管に富んでいるので、そうした血管からの血流を介して「歯周病菌」が全身をめぐって、糖尿病などの全身疾患と関係があるのではないかという見解が高まりつつあるのです。今その研究が走り出したところで、歯科医師も歯科学にとどまらず、メディカル・ドクター、内科医師らとも共同で検証していかねばと思っているのです。

 −−米国では、かなり疫学研究が進んでいる

 すでに米国では、1980年代からノースカロライナ大学などを中心に「ペリオドンタル・メディシン(歯周内科)」という考え方のもとに研究が進められていて、歯周病と全身疾患との関係を詳細に調べる研究チームも立ち上がっている。最初に、産婦人科医と共同で妊婦を対象に歯周組織の炎症度などを調査したところ、歯周病の程度によって明らかに有意差があった。つまり、歯周病が悪化していると、「低体重児早産」のリスクが高いことが報告されたのです。それをきっかけに、糖尿病、心臓疾患、骨粗鬆(そしょう)症、肥満などとの関連性が究明され始めました。

 −−糖尿病との関係は

 米国で糖尿病の確率が非常に高い種族の「ピマ・インディアン」を対象に、糖尿病者で歯周病のある人とない人とでどう変化するか、2年間追跡調査したところ、歯周病の糖尿病者は、糖尿病の指標となる「ヘモグロビンA1c」が9%(正常4・7〜5・7%)を超える人が約40%に達し、そうでない人は、18%に過ぎませんでした。その差は2・6倍。すなわち歯周病によって糖尿病者も影響を受け、血糖コントロールが悪化していることが推測されました。すなわち、糖尿病は歯周病の発症、進行の一つの原因になるのではないかということが報告されたのです。

 その逆に、歯周病を治すと血糖値が改善されるという介入試験の結果が、まだ数少ないものの日本でも報告されています。つまりこれは、逆も真なり、病気の双方向性があり得るということで、糖尿病を治せば歯周病もよくなる可能性があると思われます。

(2007/02/12)