産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】第5部(1)アジアの肥満とメタボリックシンドローム

 ■中国、10年間で7300万人増

 肥満をめぐる状況がアジアを中心に大きな転換点を迎えている。これまで、欧米と比べて体格が細身といわれていた中国人、韓国人たちの間でも肥満に加えて心臓病、糖尿病が急増しているからだ。そうしたなか、日本は予防・治療の要になるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)をキーワードに肥満対策を展開し、アジア各国から大きな関心を集めている。

 韓国・ソウル市の東部にある高級ホテルで2月中旬、「第4回アジア・オセアニア肥満学会議」(韓国肥満学会主催)が開かれた。この学会は2年に1回開かれ、アジア・オセアニア地域15カ国の肥満学会のメンバーを中心に、学者、医療関係者や政策担当者が集まる。今回の学会には欧米在住の高名な学者も多数が来韓し、講演したり、若手研究者の指導にあたったりした。アジアの肥満の急増は国際的にも注目されているのだ。

 講演会場では質疑が相次ぎ、大いに盛り上がった。ある発展途上国の研究者らはホテルの一室に6人が同宿し、経費を節約してでも参加した。並々ならぬ意欲はそれだけ対策が切羽詰まっていることをうかがわせている。

 日本の学者も招待講演やシンポジウムの座長などを務めた。学会の主催団体であるAOASO(アジア・オセアニア肥満学会)の会長を務める松澤佑次・住友病院長(日本肥満学会理事長)は「会議の参加国が年を追うごとに増えていきます。研究が進んでいる日本がアジアの肥満対策に果たす役割は大きい」と説明する。

 「約10億人の人口を抱え、経済大国に成長した中国の肥満者の状況はどうだろうか」。だれもが関心を寄せたのが中国である。

 発表した上海交通大学の賈偉平教授によると、中国国民栄養健康調査では、1992年に過体重(標準体重より重く肥満に近い)の率が約12・8%だったのに対し、10年後の2002年には17・6%に上昇した。肥満者の割合は3・1%から5・6%に増えた。両者をあわせて7・4%の増加は、日本の人口の6割に相当する約7300万人もの過体重・肥満者が新たに登場したことを示す。

 興味深いのは、好景気にわく都市部の肥満率が貧困にあえぐ地方の2倍近くになったことである。経済状況の格差がそのまま並行して肥満率の差になっていたのだ。

 「現在では肥満者が約6000万人、過体重は2億人になるでしょう。原因は生活の西洋化や、急激なダイエットのリバウンドなどが考えられます。炭水化物が多く、野菜類が少ない食事という事情もあります」と賈教授。成人の8割が運動不足になっているというデータもあり、コンピューターやテレビの前に長時間座るなどの習慣が広まっていることもかかわっていた。

 このような事態を解消するため、中国政府は2003年に過体重が原因の糖尿病患者の治療のガイドラインを設けるとともに、一般向けには予防のためのPRや教育のプログラムを展開している。

 肥満や糖尿病の発症にかかわるメカニズムについての大規模な研究も進んでいる。内臓の周囲に蓄積した脂肪が原因で、高血糖、高血圧など複数の症状が重なると、心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病を起こすメタボリックシンドロームについては、学会の焦点のテーマとして講演やシンポジウムで頻繁に取り上げられた。賈教授は「研究や教育のプログラムに取り入れるよう政府に進言したい」と、乗り気だ。

 アジア各国の肥満対策は大きく動き始めた。(飽食社会取材班)

(2007/02/24)