産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】第5部(3)アジアの肥満とメタボリックシンドローム

 ■診断基準、人種差を考慮

 韓国・ソウル市で開かれた「アジアオセアニア肥満学会議」には、多くの欧米の学者が訪れ、講演や若手研究者の指導を行った。経済の急成長により、欧米に続いて肥満が急増するアジアの状況は興味深いテーマで、参加者らは研究の進展状況や各国の肥満対策に耳をそばだてた。

 今回の学会でも、日本で肥満対策の柱になっているメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が取り上げられた。この症状は内臓の周囲に脂肪が蓄積したことが原因で高血糖、高血圧などのデータがわずかに上昇しても重複すれば、動脈硬化を起こす。これに関連して内臓脂肪が蓄積すれば減少する善玉ホルモンのアディポネクチンなど、科学的なメカニズムについても激しい論議が展開された。

 「病気はすべてさまざまな要素が複合して発症します。これまでは肥満、血圧、コレステロール値など、それぞれの検査値に対応する個別の病気が取り扱われていました。しかし今後は、肥満があれば同時に高血圧も生じるという総合的な視点から肥満の症状が扱えるメタボリックシンドロームを対策に取り入れる必要があると思います」

 オランダのジャープ・C・サイデル健康科学研究所教授はそう断言した。

 サイデル教授は、WHO(世界保健機関)の国際肥満対策研究班の中心メンバーとして報告書をまとめ、その中で腹部の肥満がチェックできるウエスト周囲径を重視した。この報告書は、その後のメタボリックシンドローム診断基準の作成する際に貴重な資料となった。

 アジア各国の診断基準について、サイデル教授は「人種による明らかな違いを調整して設定することが重要です。例えばシンガポールには中華系、マレー系、インド系という3種類の人種が住んでいて、インド人は腹部の脂肪が多いなどの違いがある」と話す。

 一方、デンマークのアーン・V・アストラップ・コペンハーゲン大教授は「デンマークでも肥満が増えている」としながらも、「肥満率が約18%で、30%を超える米国より低い水準を保っています」と説明。その理由について「デンマークでは野山を歩いたり、自転車の使用が伝統的に普及したりしているのがよい効果になっているのでしょう」と分析する。

 同国ではまた、具体的な肥満に関連した政策として、3年前から食用油などのトランス脂肪酸含有量は2%以下と罰則付きで規制している。

 「この脂肪酸は主に揚げ物用の油などに含まれていますが、体内で一種のホルモンのような作用をして、心臓病、糖尿病、高血圧を生じさせる原因になります。法律のおかげで、肥満に関連した病気の原因が一つ取り除かれたことになります」

 このほかにも原因とみられる要素は多い。アストラップ教授は「不眠症など不規則な眠りが原因になるという報告もあります。これらを解消するにはまず、国が総体的に環境を整え、そのあと国民が自分に適した正しい療法を選択をできるようにすることが最も受け入れられやすいと思います」と話す。

 「例えば、歩行者や自転車のための環境づくり。デンマークでは20年前から、自動車は都市の中心街では乗れないという法律を作っている。でもアジアの中には自動車が道路を占領して、自転車が自由に走れなくなっている国もあります」

 アジアの肥満対策は始まったばかりだが、多くの課題が提出された。肥満先進国の日本では、本格的な対策に乗り出している。

 (飽食社会取材班)

(2007/02/26)