産経新聞社

メタボリックシンドローム

【飽食社会への警告】第5部(5)アジアの肥満とメタボリックシンドローム

 ■バブル期急増「太る子供」

 「次世代を担う小児の肥満が増加している。将来、比較的若い時期にメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)になり生活習慣病を発症するのではないか」

 このような不安が世界中に広がっている。特に経済が急成長している中国、韓国などアジアでは小児の肥満が確実に増えている。学校で体育の授業を増やしたり、砂糖を多く含む飲料を減らすように指導したり、対症療法のような施策を行っているが焼け石に水だ。

 一方で日本の研究は早かった。昭和49年ごろから小児肥満の実態調査を始め、生活習慣病の兆候があることをすでに突き止めている。そして今、世界初の小児期メタボリックシンドローム診断基準を策定している。これまでの研究からは、小児の肥満傾向に変化が出始めていることも明らかになってきた。

 「いつから、小学生児童(7〜12歳)のときに肥満になる子供が増えたのだろう」

 鹿児島医療センター小児科の吉永正夫医長が疑問に思った。というのも、小児科医の常識では子供がふっくら太る時期は人種などに関係なく、胎児期、幼児期後半(4〜6歳)、思春期(13〜15歳)とされていた。吉永医長は文部科学省発行の学校保健統計調査報告書を使って、昭和54年から平成17年までの5〜17歳について肥満の推移を調査してみた。

 その結果、男子では昭和60年から平成3年までの6年間に肥満が急増し、肥満の子供は全体の8〜9%を占めるまでに至った。この時期はちょうどバブル経済の最盛期と重なる。

 吉永医長は「バブル期には成人の肥満も増えており、子供にも当然影響はあったと思う。食事だけでなく、自動車の増加、ゲーム機の普及、子供が外で遊ばなくなったなど運動不足の環境に変わったことが関係しているのではないか」と分析する。

 ただ、バブルが過ぎ去った後も子供の肥満が減っていない。特にバブル期後半に幼児期を過ごした昭和60〜63年生まれの男子では、それ以前に生まれた男子に比べて年齢を経るほど肥満の傾向が強まっていった。

 吉永医長の別の調査では、肥満児童のほとんどが内臓脂肪を蓄積しており、血糖値を下げるインスリンが効かなくなる高インスリン血症(インスリン抵抗性)の頻度が高い傾向にあることを突き止めている。この状態が20〜30年続けば、心筋梗塞(こうそく)や脳血管障害、糖尿病になる可能性が高い。

 吉永医長は「通常は高校入学のころに肥満傾向が減ってくるが、この世代は太ったままで推移している。30代、40代の壮年期で、糖尿病など生活習慣病が爆発的に増える可能性もある」と警鐘を鳴らす一方で、「いま、小学生の肥満に歯止めをかけるべきだ。とくに男子にその傾向が強く、小学校時代に性差を考えた生活習慣病教育をする必要がある」と提案する。

 アジア各国は現在、日本のバブル期と同様の状況にあるだけに早期の対策が迫られるだろう。

 小児肥満は身体の健康だけでなく、精神面に影響を与える。小児期の診断基準を策定した大関武彦浜松医大教授は「肥満のために不登校になり、学校に行けないからますます太るという悪循環に陥る子も少なくない。とくに重度肥満になれば、精神面への影響は大きく、早めの対処が必要」と指摘している。(飽食社会取材班)

(2007/02/28)