産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 増える急性心筋梗塞(2−1)

 ■「メタボ」で高まる危険

 日本人の間でも、ある日突然心筋梗塞(こうそく)になってしまうタイプの人が増えてきた。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が、動脈内に不安定な「ソフトプラーク(不安定粥=じゅく=腫)」を作りやすくし、それが破けて急性心筋梗塞の原因となる。一方、悪玉のLDLコレステロールを下げれば下げるほど、プラークの退縮につながることも最近の海外の研究でわかってきた。動脈硬化・心筋梗塞をいかに防ぐか。本気で食事・運動療法に取り組めば驚くほどの効果が上がることは確かだが、日本人の体質も様変わり。順天堂大学医学部の代田浩之教授は「小児のときから生活習慣の改善に介入していく必要がある」と訴える。(大串英明)

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 □順天堂大学医学部代田浩之教授に聞く

 ■血管内に「ソフトプラーク」 

 ■薄い皮膜破れ 血栓閉塞を引き起こす

 −−肥満が世界中で問題になっている

 米国では、「心筋梗塞」がナンバーワンキラーですが、コレステロールがその最も重要な危険因子であるとして予防・治療をしてきたわけです。確かにそれと並行して心臓病の死亡率も下がってきています。ところがコレステロールを下げても糖尿病の人たちの死亡率は下がらず、徐々に、そうした病気の手前には肥満があり、肥満と糖尿病を結ぶ間にメタボリックシンドロームというものが存在する、つまり、肥満自体が問題で、糖尿病を介さなくても、内臓脂肪をベースにした病態が動脈硬化の非常に大きなリスクとなることがわかってきたのです。

 欧米の先進諸国だけでなく、世界中が過食と運動不足に起因した肥満と、それに基づく糖尿病の蔓延(まんえん)を経験し始め、いわゆるコレステロールだけではなく、心血管系(動脈硬化に起因する心筋梗塞・脳梗塞など)のリスクを予防していかなければいけないという認識で一致してきたのですね。

 −−日本においては

 特に働き盛りの男性や中年、閉経以降の女性に肥満が増えてきている。その世代での心血管系のコレステロールも増加傾向にあると考えられていますが、内臓脂肪を中心としたメタボリックシンドロームというとらえ方に大きく転換しています。こうした転換の背景には、以前、大阪大学のグループが旧労働省の委託を受けて行った、働き盛りの人たちに対する調査研究の成果があり、「肥満と、それに伴う複数のリスクを持っている人たちに心筋梗塞の発症が極めて高い」という臨床結果が得られたことから端を発しています。その後の基礎研究や臨床、疫学も心筋梗塞の重要なリスクが肥満を中心とした病態であるということで一致して、予防も急を要することとなり、メタボリックシンドローム対策につながっていくのです。

 −−メタボリックシンドロームと動脈硬化・冠動脈疾患の関連は

 内臓脂肪がこれまで考えられてきたようなカロリーの蓄積だけでなく、脂肪細胞からたくさんの化学物質が出ており、内臓脂肪がたまるとさまざまな作用を及ぼしていることがわかってきたのです。大きく分けて3つの経路があります。1つ目は、TNF−αやレプチン、脂肪酸、PAI−1などの動脈硬化になりやすい「アディポサイトカイン」と呼ばれる生理活性物質の分泌を増やし、これらが高中性脂肪血症や低HDLコレステロール血症、さらに「スモール・デンス・LDL」という、悪玉LDLコレステロールよりさらに動脈硬化に悪いタイプのLDLを作るような脂質代謝異常を起こす。2つ目は、こういうアディポサイトカインがインスリン抵抗性(効く具合)の働きを悪くし、糖代謝異常を引き起こす。これが糖尿病の発症につながっていく。3つ目は、アンジオテンシンノーゲンという血圧を上昇させる因子も脂肪細胞から産生され血圧を高める一方、インスリン抵抗性が強くなると交感神経の緊張度も高め、高血圧につながっていく。これら脂質異常・血圧・糖代謝異常が結果的にメタボリックシンドロームの診断基準にもなっているわけですが、そうした3つの病態は今まで独立した危険因子と考えられてきたのが、もともとの病態は一緒であり、3つの経路を通して動脈硬化や心筋梗塞の発症につながっていることがわかってきたのです。また、脂肪細胞からは、血管の保護に効く「アディポネクチン」という物質が放出されるが、内臓脂肪がたまると逆にこの物質の分泌が低下し、動脈硬化をさらに悪化させると考えられています。

 −−世界では、日本の診断基準と違うところがある

 日本やIDF(世界糖尿病連合)は、内臓肥満を必須項目にウエストサイズを用い、足並みがそろっています。米国では、肥満・中性脂肪・HDL・血圧・糖代謝の5項目のうち3項目あればという基準にしています。アジアと欧米では、肥満の程度が違うのでウエスト周囲径は、それぞれの国で決めましょうとなっているが、日本だけが男性85センチ・女性90センチと逆になっています。日本の場合、その数値はきちんと両者の内臓脂肪をCT(コンピューター断層撮影法)で診断した疫学研究に基づいています。それぞれ内臓脂肪の面積が100平方センチ以上になったとき初めてリスクが1つから複数に上がっていくという、その境目に当たる数値で、ウエスト周囲径との相関関係も測って決めたことなのです。世界では、唯一日本だけが科学的な根拠があるわけですね。日本発の、新しい概念のもとに生まれた診断基準でもあるので、これから、疫学調査も本格的にスタートしたともいえるわけです。

 −−診断基準になぜLDLコレステロールが含まれないか

 もちろん食べ過ぎの人たちのLDLコレステロールが上がることはありますが、内臓脂肪を中心としたメタボリックシンドロームの代謝異常は、脂肪から放出されるアディポサイトカインの働きが中心で、この中にはLDLが上昇する代謝異常の経路が入っていないのです。その意味でも、LDLとメタボリックシンドロームとは、独立した危険因子と考えるべきです。ではメタボリックシンドロームの人たちは、LDLコレステロールの管理が必要ないかというと、そうではなくて、動脈硬化は、LDLが変性して血管壁にたまっていく病態であるわけで、LDLコレステロールが高ければ当然治療をしていかなければいけない。ある程度メタボリックシンドロームの人でもLDLを下げていくことが予防にもつながることを理解しておかないといけない。

 例えば、米国では、LDLコレステロールに対する治療は積極的で、冠動脈疾患を持ちながら、メタボリックシンドロームや糖尿病を抱えている人たちには、これまでよりはるかに低い値にまでLDLを下げていくべきだろうというのが最近の考え方なのです。「The lower the better」という言い方をされています。

 −−メタボリックシンドロームというのは、急性心筋梗塞や狭心症になりやすい

 そういう報告も確かにあります。つまり、メタボリックシンドロームは、心筋梗塞になりやすい「ソフトプラーク」を血管内に作りやすいのですね。プラーク(粥腫)の中には、不安定なものと安定型がありますが、ソフトプラークは不安定な、柔らかい粥腫。薄い皮膜の中に脂の成分がたくさんあって、破れやすい。破れると皮膜の下の成分と血液が接触して血栓閉塞が起こり、急性心筋梗塞の危険性が非常に高くなるわけです。最近は、プラークのボリュームや脂質の状態を血管内超音波(IVUS)という医療器具で診ることもできるのです。

 −−ある日突然、心筋梗塞になるタイプが増えている

 米国では、突然心筋梗塞で倒れてAED(心室細動の蘇生(そせい)器具)を使ったり、救急車が駆けつけるということが日常茶飯事。日本ではまだまだそういうレベルに達してはいないが、最近は、30代でも心筋梗塞で担ぎ込まれる人もいます。私が研修医のころの二十数年前は本当にまれだったが、そのころと比べて高齢者も増えてきてすそ野がはるかに広がってきたことを実感します。今、10人集まったら、その家族の中に心筋梗塞やカテーテルをした人が必ずいる時代になっています。ただ、実際日本人の心筋梗塞がどのくらい増えているか、リアルタイムで抽出できず確たるデータがないのが残念です。しかし、欧米の食文化の影響を一番受けた沖縄県の男性の寿命の延びが鈍って一挙に26位に落ちたりしているのを見ても、日本人の体質も確実に変わってきているのではないかと推測されます。

(2007/03/11)