産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 陰の悪役「中性脂肪」(2−1)

 ■食事・運動療法で「まず3キロ減量」

 コレステロールの中でも、超悪玉「スモール・デンス・LDL」の存在が大きくクローズアップされている。動脈硬化にかかわる悪玉のLDLコレステロールはよく知られているが、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が進んで、「中性脂肪」が増えると、LDLを小型化し、さらにたちの悪いスモール・デンス・LDLを生み出すことが明らかになってきた。この小型LDLはサイズが小さいので血管に入り込みやすく、酸化されやすいため、動脈硬化や心筋梗塞(こうそく)を一層強く促進する。中性脂肪は、いわば陰の悪役なのだ。リスクを解消するには、適切なカロリーの食事と運動療法に尽きる。「まず、3キログラムの減量を」と昭和大学医学部の平野勉教授は提唱する。(大串英明)

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 □昭和大医学部 平野勉教授に聞く

 ■LDL(超悪玉コレステロール)小型化、動脈硬化など促進

 −−メタボリックシンドロームの中でも、特に中性脂肪が注目される

 1980年代、私が医学部に入学したころは、コレステロールの初めての薬であるスタチンの治験が終わるころで、コレステロールの注目度は非常に高かった。中性脂肪については、まったくわかってなくて、善玉といわれるHDLコレステロールが低下するのは悪いが、中性脂肪そのものは害がないといわれ続けていたのです。確かにコレステロールを下げると心臓病は少なくなり、解剖所見でもコレステロールがたまっているだけで、中性脂肪の影も形もなかったわけです。しかし、カナダに留学した当時、圧倒的に心筋梗塞などの心臓病が多いと同時に、多くが糖尿病患者でしたが、コレステロールは高くない。なのに、どうして心筋梗塞を起こすのか。実は昔から糖尿病では、中性脂肪が高いことがよく知られており、そうした関係の研究がされ始めたのです。

 −−なるほど

 HDLが下がると、中性脂肪が上がってきます。その後米国の有名なフラミンガム研究などから、コレステロールとは完全に独立した形で、中性脂肪が高くても糖尿病に悪影響を及ぼすことがわかった。中性脂肪は動脈硬化層には存在していないのです。一方、HDLは、血管からコレステロールを引き抜く作用があるが、中性脂肪が多くなると、HDLは逆に産生されなくなったりしてコレステロールを引き抜く機会が少なくなってきます。中性脂肪はHDLが減ると、いったんたまったコレステロールを血管に戻して、それを肝臓に引っ張り込むようなことをします。これをコレステロールの「逆転送」といいます。

 −−LDLとの関係は

 悪玉であるLDLは、コレステロールの運搬役ですが、中性脂肪が高くなると、LDLは小型化します。小型化したLDL、つまりスモール・デンス・LDLは、驚くことに、コレステロールが少なくなっているのです。普通、LDLはコレステロールをたっぷり持って血管壁に入るから悪いのだと、固く信じられてきましたが、そうではなくて、実はLDLは小型化して、もっと血管壁に入りやすくなっているのです。LDLはもともと血管壁に入らなければ毒性はないわけで、入りやすいかどうかは、非常に大きな問題なのです。

 −−小型のLDLは、酸化されやすいとも

 非常に酸化されやすく、血管内で酸化LDLに変化します。どうしてかというと、抗酸化作用のあるビタミンをLDLは豊富に持っているが、スモール・デンス・LDLは、そのビタミンも少ないので、酸化されやすいことが、さまざまな研究からわかってきたのです。大型のLDLを持っている人と小型LDLを持っている人とで心臓病の程度がどう違うか調べた、1990年代初頭のデータがあります。それは驚いたことに、コレステロール量が同じだったら、小型のLDLを持っている人が3倍も心筋梗塞が多いという結果が出ているのです。一般的に中性脂肪が高くなると、LDLは小型化しますが、それこそ中性脂肪の重要な役割でして、動脈硬化はあくまでLDLコレステロールが直接悪影響を及ぼすのですが、実は中性脂肪がそれを後ろで操っている、つまり陰の悪役ともいわれているのですね。

 −−「スモール・デンス・LDL」という言葉は

 デンスというのは、密度という意味で、小さいけれど比重が大きいのです。普通のLDLですと、コレステロールに大きなタンパク(アポタンパクB)が1個入っている構造で、タンパクは水より重くコレステロールは脂ですので、水より軽いことになる。ところがスモール・デンス・LDLはコレステロールが少ないので、比重が重くなります。日本語では、正確には「小型高密度LDL」となるわけですが、その悪さの仕方から「超悪玉LDL」ともいわれているのです。

 −−インスリン抵抗性(効き具合)との関係は

 インスリンの効きが悪い状態になっても、LDLは小型化しやすいのです。実は中性脂肪の代謝はインスリンによっても強く制御されていて、インスリンの効きが悪くなると、中性脂肪をたくさん含んだLDLの前駆体(前の段階の物質)、つまり「VLDL」が作られやすくなってきます。VLDLはインスリンが足りないとさらに大型化して、その過程で小型のLDLができてくるのです

 −−スモール・デンス・LDLの注意点は

 メタボリックシンドロームの人は、ほとんどの場合、LDLが小型化しています。従って、診断したとしてもLDLコレステロール値は高くならず、スモール・デンス・LDLが増えてきてもコレステロールが少ないのでキャッチされないわけです。メタボリックシンドロームの診断では、LDLコレステロールは正常で、なおかつ大型のLDLは減っているといわれても、スモール・デンス・LDLは増えているかもしれないと注意しておかなければいけない。メタボリックシンドロームの概念にLDLコレステロールが入らず、独立した危険因子としてとらえられてはいるが、中性脂肪の高い人にスモール・デンス・LDLが多いだけに、要注意だと思いますね。

 −−スモール・デンス・LDLが動脈硬化を起こしやすい理由とは

 3つ理由があります。1つは、サイズが小さいので血管壁に入り込みやすい。2つ目は、血中の滞在時間が非常に長く、普通の粒子の2・5倍。長いといわれる悪玉のLDLにしても作られてから消失するまで2日なのに、スモール・デンス・LDLはおよそ5日かかります。血中に長くいると、直接動脈に接する時間が長くなる。そして3つ目は、小さいので酸化されやすい。以上の3要素からスモール・デンス・LDLが動脈硬化を起こしやすいのです。

 −−LDLが質的に変化すると、怖いことになる

 そうしたメカニズムを改善するには、中性脂肪を下げるという方法があります。中性脂肪とは、体脂肪のこと。簡単にいうと、体脂肪が血中に飛び込んだものと考えられます。だから、太っている人は、中性脂肪が高いわけです。ただ、若いときには「リポタンパク・リパーゼ」という、中性脂肪を分解する酵素の働きが非常に活発なので、肥満でもそんなに中性脂肪は高くないのですが、年齢とともにリパーゼの機能は落ちてきます。だから、中年になって太ってくる人ほど中性脂肪が高いという現象が出てきます。

 リポタンパク・リパーゼは血管壁に存在していて、VLDLがLDLになるときに中性脂肪が、このリパーゼによって分解されます。このリパーゼが弱ってくると、中性脂肪はいつまでも分解されず、VLDLが血中で長くとどまります。だから太ってメタボリックシンドロームの人は、中性脂肪が高いのですね。

 −−糖尿病を合併している高脂血症の患者さんが気をつけることは

 糖尿病の人でコレステロールは高くないが、心臓病が多いという事例では、何が一番関係しているかというと、中性脂肪の高さです。日本人の糖尿病に関する大規模臨床試験(JDCS)でも中性脂肪が挙げられています。糖尿病の人は、スモール・デンス・LDLが非常にできやすいがLDLは高くなりにくい。おなかの中の脂肪、つまり中性脂肪が増えれば増えるほどLDLが減って、スモール・デンス・LDLが増えてきます。高脂血症の患者さんは、LDLサイズの低下にも注意してなおかつ厳格な脂質管理が重要ですね。

 −−中性脂肪が上がれば、善玉であるHDLが下がるという、両者はシーソーみたいな関係にある。これを解消するには

 運動です。運動するとHDLがすごく上がってきます。リポタンパク・リパーゼはインスリンに非常に依存している酵素ですが、インスリンの効きがいい状態ではリポタンパク・リパーゼの生成が増えます。すると、中性脂肪が分解されやすくなり、HDLが増える。血管壁の毛細血管にあるリポタンパク・リパーゼは、血流がよくなると、インスリンの働きもよくなります。血流と同時にインスリン抵抗性がよくなる状態というのは、運動が一番なのです。だから、マラソンランナーは、中性脂肪が非常に低くて、ものすごくHDLが高いのです。

 −−どんな運動がいいか

 まず食後にやることが重要です。食前にやっても意味がない。食後にはエネルギーがみなぎっていて血中を中性脂肪が流れています。そこで筋肉を使って栄養を燃やす。脂肪酸という中性脂肪の前駆体(前の段階)の原料が燃えてくれるのです。初めは血糖値が下がってきますが、そのうち遊離脂肪酸が下がってきます。食後1時間後くらいには、血糖値が上がり、その後中性脂肪が上がってきます。その時間帯の運動が一番効果的ですね。

 

(2007/03/16)