産経新聞社

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドローム撲滅 特定健診・特定保健指導、来年スタート(2−2)

 ■生活習慣病「未然に防げ!」

 □厚生労働省生活習慣病対策室長 矢島鉄也氏

 ≪国民医療費の伸び抑制 「無理なく」成果を全国へ≫

 −−全国規模で行われる特定健康診査・特定保健指導の趣旨は

 矢島 メタボリックシンドロームの概念に着目して、40歳から74歳までの人たちに新しい健診、保健指導を導入します。医療制度改革は非常に大事で、今の世界に冠たる国民皆保険制度をこれからも持続可能なものにしなければいけない。これからも医療費が増えていきますが、医療費は国民の税金や、保険料、患者さんの一部負担金で成り立っているので、国民が負担できる範囲にとどめなければいけない。そのためには、メタボリックシンドロームに着目して生活習慣病を減らすことで、医療費を大幅に抑えて、本当に必要な予防できない病気に医療費を回していくことが大事でしょう。

 −−スタートに向けて準備の状況はどうですか

 矢島 ことし4月に、標準的な健診、保健指導プログラムの確定版が出ました。健診の進め方や、保健指導の仕方など全国統一の標準的なマニュアルです。5月から、全国の各都道府県や、各医療保険者の代表約600人を集めて3日間の研修を行い、このリーダーたちが、各都道府県に戻って、具体的なやり方についての研修が、全国に広がっていく予定です。

 また、医療機関だけではなく、医師会、看護協会、栄養士会も地域で保健指導をするための体制整備を進めています。

 −−成功させるためのポイントは

 矢島 基本的に、自治体や医療保険者の方々の協力をいただくのが一番大事です。そのためにつくったプログラムを、医療保険者に理解をしていただき、体制整備が来年4月までに、いかにうまくできるかどうかがポイントです。

 −−そのときに、健診や保健指導にあたる保健師、管理栄養士の確保などうまく達成できるのでしょうか

 矢島 健診の受診率、保健指導の実施率をすぐに上昇させるのではなくて、5年かけて達成すればよいのです。だから、特定健康診査・保健指導等実施計画においては、平成24年度における目標を、健診受診率を70%に、保健指導の実施率を45%としているところです。それから、メタボリックシンドローム該当者・予備群の減少率を10%にしていただきたいとしています。各医療保険者の事情に合わせて徐々に数値を上げるなど、無理がかからないような形で実施していただきます。

 −−非常に緻密(ちみつ)なプログラムだけに、持続するのが難しいですね

 矢島 健診の受診率など成果を5年ごとにチェックして見直すことを標準的なシステムにしました。このシステムの目玉は、北海道から沖縄まで、どの保険者が頑張っているか、指標で比較することが可能なシステムであるところです。うまくいったところ、いかないところにそれぞれどのような原因や理由があるか発表をしてもらい、事業の見直しをしていただくことで、成果を日本中に広めていくことが可能だと思っています。

 −−健診の中で、メタボリックシンドロームかどうかの指標となる「腹囲」の測定についてはどのように取り入れられますか

 矢島 腹囲については、労働安全衛生法に基づく職場健診との整合性をとる必要があるでしょう。腹囲の測定に抵抗感がある人もいますので、例えば、自己測定で自己申告をするとか、明らかにやせているなど一定基準の人は免除する。そのような運用上の仕組みなど国民の方々に受け入れてもらえるようなものを検討しています。

 −−痛風などの原因になる「尿酸値」の測定は、省かれましたが

 矢島 尿酸については、リスクファクター(危険因子)としての議論はありましたが、尿酸値の上昇により、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中などの生活習慣病とどう関係してくるのかというエビデンスが、いまのところ不明確でした。でも、将来いろいろなデータが集まり、関係が明確になれば、そのときにまた基準が見直されると思います。

 −−世界初の大規模な健診に取り組まれますが、海外からの反応は

 矢島 問い合わせが結構きています。実は、厚生労働省のホームページに掲載された武見敬三、石田祝稔両副大臣の「メタボ退治」の記録が「ヘラルド・トリビューン」など海外のメディアに取り上げられたり、健診の概要を国際学会で報告したりして知られはじめ、「こんなことをする国は珍しい」と反響を呼んでいます。日本が世界の肥満対策の情報交換の場になるかもしれません。

                   ◇

【プロフィル】矢島鉄也

 やじま・てつや 千葉大学医学部卒業。医学博士(公衆衛生学)。鹿児島県保健福祉部長、厚生労働省保険局医療課企画官、同社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課長を経て、平成17年から現職。

                   ◇

 ■治療から予防 国民皆保険制度の存続を狙い

 特定健診・保健指導は、医療制度改革の大きな柱で、生活習慣病有病者・予備群を減らすことにより、国民医療費の伸びを抑え、破綻(はたん)する恐れのある国民皆保険制度を存続させるのがねらい。病気の治療からまず予防へと大きく方針を転換した。それを実現させたのがメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念であった。

 メタボリックシンドロームは、内臓の周囲に脂肪が蓄積することにより、高血糖、高血圧、高脂血などが起こる病態。これらが重複すれば動脈硬化になるリスクが高くなり、やがて脳卒中、心筋梗塞など生活習慣病を発症する。このため、予備群の段階で食事と運動を中心に生活習慣を改善することにより、元凶である内臓脂肪を減らせば、さまざまな生活習慣病の発症を抑えることができる。

 このように原因から結果までの過程が明確で血糖値などのデータが指標になるのであれば、自分の病態がどの段階まできているか理解しやすく、改善の意欲がわいてくる。なにしろ、最初の兆候はいつでも自分で測定できる腹囲(男性85センチ以上)に表れるのだ。保健指導する側も、データを手がかりにリスクの高い人から順番に指導できる。

 また、スタートから7年で生活習慣病有病者・予備群の25%を削減すると達成目標を宣言し、必ず結果を出すという成果主義を表明した。このため、健診、保健指導プログラムという全国統一の詳細なマニュアルをつくり、データの評価を標準化した。保健指導のばらつきが少なくなる一方で、結果の解析により、どの医療保険者ががんばっているか、一目でわかる勤務評定にもなる。病態の改善率などの成果により、国が支出する75歳以上の後期高齢者医療制度支援金が10%の範囲で増減するというから、手をこまねいていられない。

 健診・保健指導の大まかな流れを紹介しよう。まず、健診を受け、判定されたあと保健指導に移る。腹囲が基準値未満であれば、「情報提供」として改善のための学習をする。腹囲が基準値以上であり、高血糖、高血圧などどれかひとつに該当すれば「動機づけ支援」、2つ以上であれば「積極的支援」が行われる。自分で改善の目標を立てて計画をつくり、対面や電話、メールなどで生活習慣が変わるまで医師、保健師、管理栄養士などがサポートするのだ。

 生活改善で病気を予防するムードを盛り上げようと、政府は「健やか生活習慣国民運動(仮称)」を企画している。企業、学校などを巻き込んでいく予定で、今回の健診・保健指導の実績に大きく影響するだろう。(坂口至徳)

                   ◇

 産経新聞社では、「メタボリックシンドローム撲滅のためのキャンペーン」に取り組んでいます。詳しくは、メタボリックシンドローム撲滅委員会専用ホームページ(http://www.metabolic−syndrome.net/)に掲載されています。

 【主催】メタボリックシンドローム撲滅委員会、産経新聞社、フジテレビジョン、ニッポン放送、フジサンケイ ビジネスアイ

 【後援】厚生労働省/日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本心臓病学会、日本血栓止血学会、日本歯科医学会、日本歯周病学会、日本抗加齢医学会、日本CT検診学会、日本人間ドック学会、日本総合健診医学会、日本医師会、日本臨床内科医会、日本歯科医師会、日本栄養士会、日本薬剤師会、健康・体力づくり事業財団、日本健康運動指導士会、日本フィットネス産業協会、日本生活習慣病予防協会、全国保健センター連合会、全国保健師長会、日本糖尿病財団、日本心臓財団、日本製薬工業協会/サンケイリビング新聞社、扶桑社

 【協力団体】高尿酸血症・メタボリックシンドロームリサーチフォーラム

 【メタボリックシンドローム撲滅委員会】◇委員長 松澤佑次・住友病院院長(日本肥満学会理事長)◇委員 春日雅人・神戸大学医学部付属病院長(日本糖尿病学会理事長)、松岡博昭・獨協医科大学副学長(日本高血圧学会理事長)、北徹・京都大学理事・副学長(日本動脈硬化学会理事長)、齋藤康・千葉大学理事・副学長(日本肥満学会副理事長、日本動脈硬化学会副理事長)、渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長

(2007/06/16)