■「糖尿病」30代男性の1割 小児肥満が倍増
■小学校中心に教育キャンペーン準備
アジアに肥満予防の波が広がっている。経済発展に伴う肥満の増加とともに、生活習慣病につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)になりやすい内臓肥満の多いことがわかってきたからだ。なかでも、経済の急成長をとげた韓国は、糖尿病患者の急増に加えて、小児肥満が倍増するなど先行きの不安が高まる。国や医学界が実態把握を行い、教育キャンペーンの準備を進めるなど抜本的な対策が迫られている。(坂口至徳)
ウェルビーイング(健康な生き方)の国をアピールしている韓国は、食の面では野菜をよく食べ、健康に満ちている。キムチのほか、副食に十数種類の野菜料理が出てきたり、焼き肉も野菜で包んだり。日本では韓国式ダイエットなども人気を呼んでいる。
また、ソウル市の中心部を流れる清渓川は高速道路を取り払い、自然をよみがえらせたことで世界的に注目された。ヒートアイランド化する都市を冷まし、空気を浄化するだけでなく、多くの散歩者が訪れ、はしゃいでいた。まさに健康づくりの環境設計のモデルともいえる。
こうした健康イメージが強い韓国でも洋風の脂肪分の多い食事や、パソコン、テレビの長時間使用による運動不足など太りやすい生活環境への変化は依然として続いている。
今年7月、大阪で開かれた日本動脈硬化学会のシンポジウムで、パク・ジョンユイ成均館大教授は、2005年に韓国全域で行われた国民健康栄養調査の結果を分析し、メタボリックシンドロームの状況について発表した。同国独自の診断規準(腹囲が男性90センチ以上、女性85センチ以上など)に照らしてみると、20歳以上の男性27%、女性20・5%がメタボリックシンドロームの有病者に該当する。特徴的なのは、男性は50歳代の43%をピークに、それ以上の年代は減っているが、一方で女性は更年期の50歳代になって38%と跳ね上がり、高齢化するとともに急増した。
さらに、糖尿病が30歳代の男性の1割を占め、小児の肥満が2001年で15〜16%と3年間で2倍以上に増えたという深刻な状況がある。何しろ脂肪の摂取量が10年間で1・5倍に増えていたのだ。
日本とは診断基準(腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上など)が異なるので単純に韓国との比較はできないが、日本は2006年の調査で、40歳〜74歳のメタボリックシンドローム有病者は男性25・7%(予備群26%)、女性10%(同9・6%)と男性については、ほぼ同様のデータが出ている。このシンポジウムでは、他のアジアの国の状況も示され、診断規準は異なるが、インドネシア(ジャカルタ25・5%)▽フィリピン(11・9〜18・6%)と、決して少なくないことがわかった。
「メタボリックシンドロームは、内臓肥満から動脈硬化や心血管の病気につながる中間段階の症状という認識が医学界に広まり、関心が集まっています。そこで、韓国の肥満学会、循環器学会などで韓国人の診断基準をまとめようとしています」とパク教授は研究の現状を話す。
パク教授の分析データから、韓国社会の肥満に対する意識に男女の違いがあることもわかった。都市部に住み、高学歴の人の場合、女性に肥満が少なく、逆に男性は多かった。
「女性は健康や美容に関心が強いので肥満を減らそうとする意識が高く、男性は、社会的地位が高いほど、会食など交流の機会が多くなり、つい過食になるからでしょう。このデータからも生活改善には、適切な診断と教育が重要であることがわかります」と解説する。
肥満を病気と関連付けて研究する韓国肥満学会は約15年前に発足した。同会学術委員会ディレクターのキム・ヨン・ソン・仁荷大学教授は「糖尿病などの研究者が参加しましたが、当時は肥満の人口が少なかったため、10年くらいは活動が停滞しました。4、5年前から会員数が増えて1000人にふくらんでいます。これからの活動で重要なのは、肥満の治療を病気の治療と見なして保険が適用されることです」と強調する。
韓国には、日本の健康保険と同様の公的な医療保険制度が設けられている。肥満治療では、食事や運動療法を行っても減量の効果や意思が続かない場合、医師が慎重に判断したうえで投薬することがある。外科治療も盛んになりつつある。
同学会会長のチェ・ウン・ファン漢陽大教授は、「肥満に関連した病気の治療研究が、メタボリックシンドロームなどの有病者の増加に追いついていけない現状では限界があり、いまは予防こそもっとも重要な手段だと思います。このため、国の保健福祉部と学会が一緒になり、小学校を中心に食事や運動療法の基準を設け、全国の学校の教諭、看護師らに教育できるようパンフレットなど準備をしている段階です」と説明する。さらに、個人的な見解と前置きして「今後、人種が同じアジアを中心にした研究やキャンペーン活動を盛んにしていくべきでしょう」と期待した。
肥満研究を懸け橋にした日韓の学術交流は進んでおり、両国の肥満学会は毎年合同シンポジウムを開いている。日本肥満学会国際委員長の吉松博信大分大教授は「肥満研究の面では日韓は体形が同じだけにデータを共有し、効率的に活用することでアジアの肥満予防に大きく貢献できるでしょう」と話している。
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【用語解説】メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)
内臓の周囲に脂肪が過剰に蓄積し、高血圧、高脂血など2つ以上のリスクが軽度でも重なれば、動脈硬化を起こし、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中など生活習慣病発症の可能性が高まる。食事療法や運動療法により内臓脂肪を減らすことで改善することができる。
(2007/09/16)