メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の知識を普及し、生活習慣病の予防につながる国民運動を展開する第3回メタボリックシンドローム撲滅委員会と、具体的な方策について協議する第2回実行委員会が10月、9月に東京で開かれた。厚生労働省の特定健診・保健指導のスタートが来年4月に迫っていることもあり、食事療法や運動療法など実施段階での改善点など実績を踏まえた論議が展開された。
≪第3回撲滅委員会 10月18日 成功へのポイントなど論議≫
■世界に誇れる健康国へ 食事と運動指導を徹底、環境づくりも
■特定健診、来年スタート 画期的な国家プロジェクト
メタボリックシンドローム撲滅委員会は10月18日、東京のホテルで開かれた。今回の委員会には、委員長の松澤佑次・住友病院長、新委員の中尾一和・京都大学教授、春日雅人・神戸大学大学院教授、渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長とオブザーバーの関英一・厚生労働省健康局生活習慣病対策室長が参加。松澤委員長、関室長、中尾教授があいさつしたあと、健診・保健指導を成功させるためのポイント、食育、運動のための環境作りなど実施段階での論議が展開された。
◇
春日氏 メタボリックシンドローム撲滅関連の中で最大の事業が、来年4月から始まる特定健診・保健指導です。世界でもまれな大規模の試みは、成功すれば、メタボの該当者がかなり少なくなると非常に期待しています。
その中で糖尿病学会の重要な役割は、特定健診で要注意とされた人が保健指導でよくならない場合に、その後を引き受けることでしょう。その点、日本糖尿病学会が関係する日本糖尿病対策推進会議は、各都道府県に、医師会、糖尿病協会、糖尿病学会の3者で構成する組織ができています。例えば、糖尿病と診断された人に推進会議を通じて受療を促進するといったことに力を入れていきたい。
渡邊氏 国立健康・栄養研究所は、日本人の健康づくりのために、食と運動を通じて貢献するというのが主な業務であり、厚生労働省の生活習慣病対策室と二人三脚でいろいろな対策を考えています。
ここ数年の大きな政策の変換は、1つには「ポピュレーション・ストラテジー(集団戦略)」で、個人の対策よりも集団への対策を重視し、一次予防につなげます。もう1つは、導入した対策とともに、アウトカム(結果)もきちんと評価することです。例えば、禁煙対策では個人の禁煙と、集団の喫煙率を減らして疾患を減らすという話とは、次元が違うのです
メタボに関して言えば、大概、肥満者は「ぐあいの悪いところはありません」といいますが、検査をすると、6割の人の血圧が高く、すでにメタボの人も、半分ぐらい。この点、撲滅委員会が作ったタクシーに張るステッカー、「メタボは他人事?」というのはうってつけだと思います。さらに、もう1点は、いきなり「歩け」といえば、がんばりすぎてひざなどを壊すことがあります。プールの中にステップをつくって上下したりする方が、時に効果的です。そのためには1年間使えるようなプールを整備するなど環境づくりがとても大事です。
食育は、妊産婦から高齢者まで、全生涯にかかわる話です。その辺も考えて食品表示の問題とか、運動しやすい環境とか、関係業界の方と一緒に取り組めたらと思っています。
それから、女性では「やせ」の人が、30代、40代では増えている。BMI(体格指数、体重を身長の2乗で割った値)が20以下になっています。18を切ると月経不順や不妊症などいろいろな症状が起きるので、適正な体重を維持するために、厚生労働省の「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後が薬」を国民全体のコンセンサスにできればいいですね。
松澤氏 女性のやせの問題は、日本と韓国が非常によく似ていて、韓国も、女性が50代ぐらいまでものすごくやせています。だから、あまり女性にやせ志向を出させないという意味でも、今のメタボの診断基準はある程度合理的ですし、ずっと検討していきたいと思います。
また、春日先生が話されたように保健指導と医療との連携は、密接に行う必要があります。病気の人に医者へ行くように勧めれば、医療費が増えるという意見がありますが、それなら、例えば、心筋梗塞(こうそく)を起こしてしまってから治療すべきなのかということになります。
ただ、メタボの診断基準をベースにした対策は、医師がただちに薬を出すというやり方ではないという指導もしていただく必要がある。生活習慣の改善で、内臓脂肪をまず減らすことにより、医師がかかわる段階でもよくなる可能性が非常に強いということがこれからのメッセージとして非常に重要です。
渡邊氏 沖縄県は長寿県で知られていましたが、数年前に、男性の死亡率が全国中位まで悪化しました。調べてみると、沖縄県は心筋梗塞、脳卒中と循環器疾患の死亡が非常に多い。全国1位の長寿県を保っている長野県、福井県などと比較すると、外来の受診率が低く、入院の受診率が非常に高い。つまり、初期の状態を我慢して、いきなりひどくなって病院にかかっているというパターンです。
医療費全体を考えると、初期から予防医療を行った方が効率的です。例えば、糖尿病学会のガイドラインどおりに、最初の3カ月は食事と運動で指導するということを徹底していただければ、より効率がいいことになるのではないかと思います。
関氏 今回のデータの電子化も、非常に多くのデータが集まることで、予防医療に結びつけて、さらによい形で取り組めるというサイクルをつくっていければと思います。医療費を使わない予防医療の部分と実際の医療の連携という観点も踏まえて、よりよいやり方を模索していくことを心していかねばならないでしょう。
春日氏 いかにしてこのような健康づくりの国民運動を日本に根づかせるかということが非常に重要だと思います。その意味で、このメタボリックシンドローム撲滅委員会は、大きな力になっていると実感しています。昨年度はメタボという名前を皆さんに知っていただく年で、ことしは実行の年。さらに、来年は特定健診と呼応して、産業界も巻き込んでより大きな国民運動をはじめる年です。いろいろな形でのご協力もあると思いますが、まずは自分の会社で健診・指導をきちんとしていただくと、随分変わるのではないかと思います。
松澤氏 このような総合的な予防医学を国家プロジェクトとしてできる国は、おそらく日本しかないでしょう。米国のように、BMI30以上が、全国民の30%以上、それがまだまだ増え続けている国では、こんな運動はほとんど不可能に近い。これが成功すれば、おそらく、日本は、健康立国として世界に誇れる。すでに長寿国ですが、特に男性の心筋梗塞などがかなり減ると、男女ともに世界一の長寿を保てる。
内臓脂肪がたまっていると非常に健康に悪いことは紛れもない事実で、それを減らすことができれば、確実にいろいろな症状が改善することは間違いない。ぜひ、特定健診・保健指導を成功させて、世界に誇れる健康国だということを示していただきたい。
(2007/11/17)