産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康】「健康の鍵」 アディポネクチンって何?

 ■糖尿病や高血圧など予防/がん細胞を「縮小させる」/内臓脂肪増加で分泌抑制

 最近、「アディポネクチン」という言葉を耳にしたことがないだろうか。メタボリックシンドロームの鍵を握るホルモンで、平成8年に大阪大学で発見され、現在、東大などで本格的に研究が進められている。糖尿病や動脈硬化症の予防効果があるほか、がん予防にもつながるとされ、その有効性は極めて高い。肥満や糖尿病の専門医、岡部正医師にアディポネクチンの重要性を聞いた。(渋沢和彦)

 アディポネクチンは、体の中で脂肪細胞から分泌される生理活性物質。「簡単にいうと超善玉ホルモンです」と岡部医師は言う。

 良い効果を列挙してもらうと−。

 (1)インスリンの働きを良くするので、血糖値が下がりやすくなる。そのため糖尿病の予防に役立つ。

 (2)筋肉や肝臓などの脂肪の代謝をよくする作用があり、中性脂肪を下げることにつながる。

 (3)血管を広げる作用があるため血圧を下げる効果があり、また傷んだ血管を直接修復するので、動脈硬化を改善し、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の予防と改善につながる。

 すなわち糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化という、生活習慣がもたらす危険な病気を未然に防ぎ、健康を維持してくれる作用があるのだ。

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 そればかりか、最近では抗がん剤と同じような作用があるとして注目されているともいう。

 「人の胃がん細胞を移植したマウスにアディポネクチンを注射すると、がん細胞が著しく縮小したという報告があります。そのためアディポネクチンががんを予防しているのではないかとみられています」

 また大腸がん、前立腺がん、子宮体がん、乳がん、胃がんはアディポネクチンの低い人ほど発生率が高い。「実際、大腸がんや乳がんなどの患者の血液を調べると、アディポネクチンの量が非常に少ない。このホルモンで100%予防できるとはいいませんが、ある程度は予防効果があると考えられます」

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 これほどに健康維持に大きくかかわるアディポネクチンだが、弱点があるという。

 「実は、太って内臓脂肪が増えると、分泌が抑制されてしまうのです」

 内臓脂肪から他の生理活性物質が分泌され、アディポネクチンを抑えるためなのだという。岡部医師は、メタボ患者には必ずアディポネクチンの検査を行っており、すでに1000人以上に対して実施している。

 アディポネクチンを増やすには、食物では大豆や、青魚に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)が挙げられているが、何といっても効果的なのは、運動を継続して行うことだという。「激しい運動では続きませんから、毎日10分の速歩を勧めています。体重を3キロから5キロ減らせばアディポネクチンも上がってきます」。たとえば通勤なら、1駅手前で電車を降りて歩くのがいいそうだ。

 岡部医師は肥満を減らし、アディポネクチンの量を増やして健康になることを提唱するとともに、「患者の個性に合った治療が大切」と、オーダーメード治療に取り組んでいる。

 「長生きしている人はアディポネクチンが多い。長寿のためには体重を減らして、このホルモンを増やすことです」。アディポネクチンを「長寿ホルモン」と呼ぶ人もいるそうだ。

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【プロフィル】岡部正氏

 おかべ・ただし 昭和28年、東京生まれ。慶応大学医学部卒。59年、カナダ・カルガリー大学に留学。帰国後、亀田総合病院副院長をへて、東京・銀座に岡部クリニックを開設。患者の個性に合ったオーダーメード医療を続けている。専門は肥満、糖尿病、内分泌学。本紙で「サラリ君」を連載している漫画家、西村宗さんと、肥満やアディポネクチンなどについて語った対談集『あなたの体は霜降り肉になっている』(産経新聞出版)が昨年末に出版された。ほか著書に『最新医学からみた生活習慣病』など。

(2008/01/17)