産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム “ながら運動”でメタボ退治(2−1)

 □中京大学体育学部長・湯浅景元氏に聞く

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に対する運動効果は明らかだが、やたら運動すればいいというものでもない。急性減量は危険が伴うし、食事療法との組み合わせも大切。要は「体脂肪」の減らし方が問題なのだ。「呼吸が苦しくならない」程度のウオーキングが最も効果的、さらに多少の筋トレ、体の筋肉や腱(けん)を伸ばすストレッチ体操を加えれば理想的とのデータもある。なにせ忙しいサラリーマン諸兄、職場や家庭で何かをしながら、歩いたり立ったり…運動療法の専門家、中京大学体育学部長の湯浅景元氏は「普段、不慣れな運動こそ効果が上がる。例えば、立って電話をしながらの“ながら運動”でもいいのではないか」と指摘する。(大串英明)

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 ■ウオーキング+筋トレ+ストレッチが理想的

 −−脂肪がなぜ、悪いのか

 脂肪は栄養素がいろいろ形を変えて蓄積されていく。その貯蔵庫として脂肪細胞がありますが、これがたまり過ぎると、「脂肪酸」という強い酸性の性質の細胞に変化し血管を傷めつけたり、肝臓などの臓器に障害を与えることになるのです。脂肪細胞はほぼ全身にありますが、皮下脂肪よりも内臓脂肪の方が悪者とされるのは、後者は「インスリン耐性」といって、代謝性の病気のリスクを上げる働きを持っているからなのですね。

 −−脂肪にもさまざまな燃焼の仕方がある

 脂肪の分解の過程で、うまく使うかどうかも問題なのです。実は、運動で体が刺激されると、「アドレナリン」という血管に作用する酵素が介在して、脂肪細胞にある脂肪を筋肉に運ぶことになり、脂肪が燃えていきます。

 筋肉にも大きく分けると2種類あり、マラソンのように穏やかに動く「赤筋」と、すばやく動く「白筋」とで、赤筋の方が明らかに脂肪を燃焼させるのです。ですから、運動も赤筋を使う運動をしなければいけないのです。いきなりダッシュして走っても、燃焼効率ははなはだ低いということになります。さらに筋肉では糖分を主に燃やすものと、脂肪を主に燃やすものとがあり、「速筋」といわれる白筋は主に糖分、赤筋は主に脂肪を燃やします。脂肪を落とすという目的には、赤筋という「遅筋」の運動が中心にならざるを得ないわけです。

 −−有酸素運動というのは

 遅筋の運動のことです。ウオーキングだけでなく、ジョギング、自転車、水泳などの運動も入ります。順天堂大学グループが行った研究データですが、サイクリング、ジョギングとウオーキングを比較調査したところ、同じ運動量でも脂肪の減り方が、およそ2倍多かったという報告があります。「内臓脂肪」をいかに減らせるかを目的にした厚生労働省の班研究でも、やはりウオーキングが一番。それも、歩くときの条件が非常に大事だという結論になっています。

 −−というと

 歩くときの「体温」が非常に脂肪燃焼に関係していて、汗をいっぱいかいている状態での運動は、意外と脂肪が減っていないことが明らかになってきたのです。「うっすらと、汗をかいている方がいい」と。およそ筋温37・5度。すなわち、脂肪が燃えるためには、温度が低過ぎてもよくないし、高過ぎても燃えにくくなるということだと思われるのです。

 −−スポーツ選手でも、そうですか

 一概には言えませんが。古橋廣之進さんという有名な元オリンピック選手で水泳連盟の会長も務めた人は、水泳でやせようとして泳いだけれど、少しもやせなかったと聞いています。うまくなることは、エネルギーを使わなくなっていることでもあるのです。毎日、マラソンやジョギングをしている方は、エネルギーを使わない走り方をしているので、それほど減量には結びつきません。逆に、ウオーキングにしても不慣れな方が効果が出るのです。慣れない方がより筋肉を使うし、エネルギーを消費できるのです。減量するにもできるだけ不慣れな運動が良いといわれるのも、そのためなのです。

 もう一つ、大事なことは、汗をいっぱいかいて運動することは、血液中の水分が出て血液が濃くなり、血中の脂肪も多くなるわけですから、血の塊、つまり凝固状態から「血栓」が起きやすいのです。血栓は、血管からあちこち飛んで動脈硬化のもとになりますから、そういう血栓を防ぐ意味からも、特に脂肪が多いと感じられる人は、なるべくうっすらと汗の出る程度の運動にとどめるべきでしょうね。

 −−「息切れ」するほどの運動は良くないと

 脂肪が燃えているときには酸素がたっぷりと使われるので炭酸ガスはほとんど出てきません。炭酸ガスが出てくるようになると、息が苦しくなるわけです。それは脂肪の燃え方が悪くなっているシグナルでもあります。良いウオーキングの目安として、息が苦しくならない程度の早歩きを勧めているのも、そのためです。それと、複数でウオーキングをすると、どちらかのペースに合わせてしまいますから、単独で自分勝手に歩いた方が運動効果が上がると思います。

 −−糖分との関係は

 1分歩いても脂肪が減ることは確かなことですが、歩き始めは99%、「糖分」が燃えています。なぜなら、ほぼ無酸素の状態でエネルギーを出さなければいけないからです。運動には、「クレブス回路」といって酸素が少ない場合には糖分、酸素が多くなると、脂肪をエネルギー源に使う仕組みがあります。従って、運動が長くなるにつれ、糖分から脂肪へと燃焼の仕方が変わってきます。そのちょうど変わり目、一番激しく変化が起こるのが、歩き始めから12〜15分たったころ。ですから、ウオーキングは、できたら最低20〜30分は連続して続けてくださいよとなるわけです。

 −−「その場ウオーキング」という方法もあるそうですね

 私が編み出した方法で、「足踏み」しながら、ウオーキングと同じような効果を生み出せます。例えば、電話をかけるときに移動受話器を使って歩きながら電話したり、腿(もも)を少し高く上げて、その場で3〜5分歩くなど、ただそれだけのことですが、平坦(へいたん)な道をだらだら歩いているよりも運動量は多くなり、体脂肪率が減ることも確認できています。「息切れ」もなしに、相手と話しながらですから、忙しい人には、やりやすい方法だと思われます。

 −−「空腹時、あるいはストレス時は避けよ」というのは

 空腹時に運動をすると、低血糖に陥る可能性があります。血糖値は、自分では見極められませんので、食後に運動した方がよさそうです。それも40〜60分後ぐらい。朝起きがけは、交感神経がまだ十分高まっておらずやめた方がよいでしょう。やるなら午前10時過ぎから、夜も午後8〜9時ぐらいまで。女性は正午ごろ。子宮の状態が一番運動に耐えられる時間帯だからです。もうひとつ、興味深いデータは、ストレスも大いに関係しています。外交に出向く大手会社員の健康管理で理想的な歩数を歩いてもらったところ、65%が健康診断に引っかかってしまいました。調べてみると、「今日は、仕事どうするか?」などとストレスを抱えて歩いていても、ストレスホルモンの影響で運動の効果が出にくいのではないかと思われるのです。ですから、歩く運動も楽しみがないと効果が薄れ、ストレスをためての運動は好ましくないというのが、運動の専門家の大方の意見です。

(2008/03/11)