■動脈硬化防止、生活習慣変え禁煙を
−−肥満の程度によっては
また、別の統計では、同程度の肥満でも多様なインスリン抵抗性の分布を示すことがわかりました。BMI・22の標準体重レベルの人でも、糖の取り込みが非常に悪い人がいて、その半面、同じような体重レベルで2型糖尿病の人でも、健康な人よりインスリンの取り込みがいい人もいるのです。こういう方たちに共通しているのは、比較的よく運動をしている、運動習慣があるということです。
−−運動をすれば、代謝が改善すると
食事療法もあわせてですが、肥満の人たちに3週間ほど自転車をこいだり病棟内を歩くなどの有酸素運動を積極的にしてもらい、全身骨格筋を中心とした糖の取り込み具合を測定したところ、その指標が運動の前と後とでは、短期間にかかわらず50%も改善したのです。血糖値と同様、血圧・中性脂肪・体重も下がります。以前に名古屋大学の研究でも、歩数計を使い1日何万歩あるいたらその歩数に応じ糖の取り込みが改善するという研究成果がありましたが、歩けば歩くほどインスリンの働きが良くなり、それも食事療法とあわせて行う方が効果が上がることがわかっています。メタボリックでは運動効果がうたわれていますが、私どもの研究でも科学的なデータで裏づけられると思います。大事なことは、運動が単にカロリー消費や減量などの効果が上がるというだけでなく、体質が改善されるということなのです。
−−というと
この試験は、結局、体の中に一定の状態をつくってその人のインスリンがどれくらい血糖値を下げるパワーがあるかみているわけですね。例えば、同じカロリーのものを食べても(お互い同じインスリン分泌力を条件に)、インスリン抵抗性がない人は血糖値がよく下がるが、インスリン抵抗性のある人は、血糖値が正常まで戻らないというようなことになります。肥満の人は、割合インスリン分泌が保たれていますので、食後の血糖値が高いのは結局、インスリンの効く具合、つまりインスリン抵抗性が悪くなっているのです。運動療法によってインスリンの働きを良くすれば、同じカロリーのものを食べても血糖値が下がりやすくなるというわけです。そういう意味で体質改善なのですね。
−−食べた分、運動すれば
診療の現場でもよく聞かれますが、そう簡単ではありません。コーラやカップラーメン1つでも、体重60キログラムの方が1分間70メートルぐらいのスピードで、およそ2時間歩かなければならなくなります。ドラ焼き1個を食べたら、60分といっても、なかなかできるものではありません。優れたインスリン抵抗性改善薬もありますが、こうしたインスリン抵抗性の改善率からいっても、積極的な運動療法の方が、はるかに優れているわけですね。もっとも、スポーツ医学の研究からは、運動を継続して行わないと、2、3カ月後には、運動効果が消滅することが明らかになっています。
−−ところで、メタボ対策の一番の目的は、動脈硬化予防ですね
その通りです。運動をして動脈硬化が良くなったか、実は心筋梗塞などを引き起こす前の動脈硬化を定量評価するために超音波を用いた血管エコーなどを使って患者さんの頸(くび)と足の血管状況を動脈硬化検査外来で調べています。やはり3週間、自転車こぎと平均8000〜9000歩の歩きを併せて行ったグループと食事療法だけのグループとを比較したところ、運動グループの方が血管が軟らかくなっており、運動の前後とでは大いに差異があった。血管の硬さ、軟らかさは動脈硬化の一側面ですが、1カ月程度の運動でも血管に対していい効果を及ぼしており、もう一つ興味深かったのは、この良い効果は、インスリン抵抗性の改善が大きい人により強く見られたことです。このように、血管の硬さや狭窄(きょうさく)の度合いなどを診るのに、超音波検査は代替指標となるわけです。
−−糖尿病が進行すれば動脈硬化になると、なかなかわかってもらえない
確かに。糖尿病や肥満、コレステロールの高い人たちに将来、血管が悪くなって動脈硬化が心配ですよといっても、わからないことが多いのですが、こうした頸の辺りの写真にプラーク(粥腫(じゅくしゅ))ができた血管が写ったものを見せると、わかっていただけることが多いです。患者さんのモチベーションを上げる工夫も必要ですね。
−−一番の問題点は
メタボの予防であれ、糖尿病の治療であれ、まずは食事療法と運動療法になるわけです。皆さん頭では理解してもらっているのですが、実行が伴うかどうかです。病院で注射1本で治るようなものではありませんし、生活習慣を変えていくしかありません。肥満の方は、減量から、それも大きな目標でなくて、小さい目標を達成していくことの成功がリバウンドなくできる方法ではないでしょうか。
それに最後に、禁煙もお忘れなく。最終目標は、動脈硬化をなくすこと。足の動脈に起こる閉塞(へいそく)性動脈硬化症などを診ていると、やはりヘビースモーカーだったりするのですね。
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【プロフィル】絵本正憲
えもと・まさのり 大阪市立大学医学部卒業。同大学院医学研究科などを経て、平成13年、同代謝内分泌病態内科学講師。専門は、糖尿病・代謝学、透析医学。日本糖尿病学会学術評議員、研修指導医など。
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【メタボリックシンドローム撲滅委員会】◇委員長 松澤佑次・住友病院院長(日本肥満学会理事長)◇委員 春日雅人・神戸大学大学院教授(日本糖尿病学会理事長)、松岡博昭・獨協医科大学副学長(日本高血圧学会理事長)、北徹・京都大学理事・副学長(日本動脈硬化学会理事長)、齋藤康・千葉大学理事・副学長(日本肥満学会副理事長、日本動脈硬化学会副理事長)、渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長、中尾一和・京都大学教授(日本内分泌学会理事長)
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過去の関連記事はhttp://www.sankei.co.jp/metabolic/metabolic.htmで掲載しています
(2008/03/12)