産経新聞社

メタボリックシンドローム

【健康らいふ】メタボリックシンドローム 健康は筋肉の維持から(2−1)

 □京都大学大学院人間・環境学研究科准教授・林達也氏に聞く

 ■腕立て、腹筋、スクワット 工夫で運動不足解消

 年を取ると、ちょっとつまずいても、大ケガをしたりする。筋力や体の柔軟性、バランス感覚が衰えてきて、とっさの対応ができなくなるからである。ただ長生きすればいいというものでもない。運動なしのダイエットでやせることは可能だが、筋肉は歴然と落ちてくる。「運動不足の長生き時代」。元気な生活を続けるためには、せめて車いすの人を介助できるような体を維持して、普段から、それなりの運動をしておくことが必要ではあるまいか。京都大学大学院人間・環境学研究科の林達也准教授は、「日本人は運動不足で肥満してきたことは明らか。きつい運動でなくても運動不足にならないことが肝心」と指摘する。(大串英明)

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 −−寿命は延びている

 医療技術や予防医学の進歩で、今後も寿命は維持されるでしょう。さまざまな新薬も登場して、それほど、つらい食事療法や運動に励まなくても、血糖値や肥満をコントロールできるようになり、早期発見や治療技術の発展で、とりあえず命だけは長引くということになるはずです。運動不足でも長生きできる世の中というわけですね。しかし、元気なく永らえる生活となった場合、果たして人間は幸せなのか。生きているというだけでなく、張りのある生活をするためにも、高齢になってもそれなりの体力を維持していくことが大事だと思います。

 −−なぜ、衰えていくのか

 ひとつ根本的には、加齢とともに「サルコペニア(筋減少症)」という現象で、50代、60代になると、筋肉が減少し細くなってきます。一種の老化ですが、せっかく病気をせずに長生きしても、意識して筋肉を維持していなければ、結局は動けなくなってくるのです。

 それともう1つ、柔軟性が落ちてくる。体が硬くなる。関節が動きにくく、回せなくなる。そうすると、悪循環になって、筋肉も落ちてきて、さらに柔軟性がなくなり、バランス感覚も落ちてくる。それと俊敏性というか、とっさに反応できる力も弱まってきます。こうなると、ちょっとしたところでつまずいても大ケガにつながります。

 それと、筋肉は、実はやせるときにも減っていくのです。例えば、中年太りで脂肪がついたからといって、それを運動しないで、ダイエットで頑張って体重を減らしたとすると、脂肪は減ってくるけれども、筋肉も一緒に減ってしまうのです。メタボ解消でやせたはいいが、筋肉を持ち合わせていないと、弱々しく元気のないまま長生きを続けることになってしまうでしょう。

 −−最近、よく歩け、歩けといわれるが

 ウオーキングは、有酸素運動の代表種目で、心肺機能の維持を筆頭に、糖尿病や肥満、動脈硬化症の予防などさまざまな医学的な効果があります。ウオーキングは生活習慣全般の基本的対策としてはとてもいいと思います。1日のうち30分以上は、こま切れでもよいので、速足で歩く時間をつくってほしいところです。ただ、歩くことだけで筋肉が保てるかというと、実は、保てないのです。筋肉の維持や柔軟性のためには、やはり筋トレやストレッチングなどそれ専用のトレーニングをしたほうが効果的です。

 −−筋肉の減少はどこから

 筋肉は全身で一様に減少するわけではありません。早稲田大学の福永哲夫教授が超音波を使い、20歳代の平均値を100%として、部位別の変化を調べた研究報告があります。それによると、最も加齢の影響を受けやすいのは、男女とも太もも前(大腿(だいたい)前)と腹筋(腹部)とわかっています。40代、50代から急激に下がり、70、80歳になると、20歳代の60%ぐらいにまで筋力が落ちてきます。実はこの大腿前の筋肉、腹筋はウオーキングではほとんど使いません。こうした大腿部や腹筋を鍛える運動をしておくことが大事なのです。

 −−無理なく、筋肉を維持できる運動というと

 「腹筋」と「腕立て」と「スクワット」をそれぞれ10回から20回くらいやると、体の主要な筋肉が維持されることになります。腹筋は、背筋とともに体のコアを支える基本となるもので、腹筋が緩むと腰痛の誘因にもなります。あおむけに寝て、ひざを曲げて、頭を少し上げるだけでもずいぶん効果があります。腕立ては、肩から上半身すべてに力が入り、伸ばす、引く、上半身の力が鍛えられます。高齢者では、立ちながら壁を利用してだんだん身を離し、「斜め腕立て」をするとよいでしょう。ひざをついての腕立てでも十分な効果があります。スクワットは、ひざの屈伸を主体とした運動ですが、大腿前部を鍛える効果は抜群です。はじめはいすなどにつかまってやってもいいし、慣れてくれば手を頭の後ろにして屈伸すると負荷が強くなります。

 −−女優の森光子さんは、スクワットを朝晩、何十回と

 普段、鍛えておられるから大丈夫でしょうが、普段しない人が急激に運動を始めたら、ウオーキングもそうですが、どこかを痛めることになります。昨年のお盆に三重

県伊勢市で起きた市職員の、ジョギング中の突然死は、ちょっと頑張りすぎですよと、保健師にもいさめられていたようで、メタボ改善のための運動がもろ刃のやいばになってしまった残念なケースでした。運動というのは、身体にストレスを与えるという側面がありますので、体調を顧みながら行うことが大事です。

(2008/03/23)