産経新聞社

メタボリックシンドローム

【メタボリックシンドローム撲滅運動】「特定健診・保健指導」(3−2)

 メタボリックシンドローム撲滅委員会は2月29日、東京のホテルで開かれた。委員長の松澤佑次・住友病院院長、委員の北徹・京都大学副学長、春日雅人・神戸大学医学部教授、中尾一和・京都大学大学院教授、松岡博昭・獨協医科大学副学長、渡邊昌・国立健康・栄養研究所理事長とオブザーバーの関英一・厚生労働省健康局生活習慣病対策室長が参加。特定健診・保健指導の課題を中心に話し合った。(坂口至徳)

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 □第4回撲滅委員会

 ■国民の正しい理解へ体制整備 継続できる指導が大切

 ■糖尿病、高血圧、高脂血症予防の“砦”に

 松澤氏 4月から新しい試みとして特定健診・特定保健指導という非常に壮大な予防医学がスタートします。メタボリックシンドローム撲滅委員会はそのような政策が決まる以前から、国民への生活習慣病の最も効率のいい対策としてのメタボリックシンドロームを想定した予防を啓発する目的で行ってきたことが、今まさに一つの制度としてスタートするということです。われわれは、最も効率のよい予防医学として一つの基準を決めたと思っています。メタボを診断する目的が、がんの診断のようなものではなくて、すでに生活習慣病を重ね持っている人の中で、医療費がかからない生活習慣の改善とセルフコントロールで治せる群を選んで、薬を使う医療と分けて考えようという政策が今回スタートするわけです。

 ただ、朗報は、言葉だけでなく内容についても国民の認識が非常に上がり、すでに効果を実感している人も多いということです。予防医学は、トップダウンで言われてもなかなか実現しないことが多いからです。

 −−健診事業を進めるうえでの課題は

 関氏 特定健診・特定保健指導を立ち上げて円滑にスタートするには、短期的課題と中長期的課題があります。短期的には、実施主体となる医療保険者らが取り組み体制を整備するとともに、国民の方々の正しい理解を深めていくことでしょう。立ち上げ当初のさまざまな問題については、一つ一つ丁寧に克服していけるよう国や都道府県でも支援していきたい。中長期的には、個々人が自らのリスクを継続して自発的に解消していく努力への支援であり、そのための情報提供や運動の場などの環境作りです。また、実施団体、都道府県、医学界など関係者相互の円滑な連携も大切です。

 −−各学会の専門領域からみて、期待することは

 北氏 動脈硬化学会で非常に注目しているのは、一つが「沖縄26ショック」で、沖縄の男性の方々の平均余命がいきなり26番目に下がり、昨年は27番目に下がった。その背景が重要で、おそらく第二次大戦後の約60年の間、欧米の食文化が急速に導入されていること。さらに車社会であること。まさに食生活と運動不足ということです。

 また、フィンランドは、もともと非常に動物性の脂、タンパクをたくさんとる国民で、心筋梗塞(こうそく)患者が非常に多いけれども、第二次大戦中、その直後からかなり減った、ということが疫学的にわかっています。そういう観点から、この問題を大きくとらえ、長いスパンで取り組まなければいけないと思っています。生活習慣の改善により複数の危険因子がどれだけよくなるかということについて、福岡大学体育学部の田中宏暁教授を中心に行った研究があります。食事療法と運動療法、その併用と分けて調べたもので、食事療法がもっとも効果があり、運動療法や併用は必ずしもよくならない場合があるとの結果が出ました。運動療法はやはり多めに食べてしまうことがある。重要な点は、本人が継続するような保健指導が大切であるということです。

 春日氏 今までの健康診断は、検査された人に対して、ただ検査値を返すだけでしたが、今回からはそれに指導がつくということで、画期的だと思っています。糖尿病学会としては、一つは、保健師、管理栄養士らコメディカルの方もかなり学会に加入していて、すでに今までの年次学術集会などで今回の問題を取り上げるなど円滑に実施されるよう努力してきました。もう一つは、例えば糖尿病や高血圧などすでに病気になっていることがわかった人には、いかに正しい治療をしてもらうかというのは、非常に大きな問題だと思います。その意味で日本糖尿病学会は、日本医師会と糖尿病協会、日本歯科医師会などで日本糖尿病対策推進会議をつくっています。そこでの活動目標が、医療機関を受診されても、自覚症状がないので治療を中断する人を少なくしようというものです。糖尿病と診断された方は、早期に確実に治療して、合併症に発展するのを防ぐことに尽力したいと思います。

 松岡氏 日本の高血圧人口は三千数百万人で非常に多く、メタボリックシンドロームの中で高血圧が占める要因は一番高い。日本高血圧学会では、家で測る血圧は正常でも病院では高血圧を示す「白衣高血圧」などにも配慮して指導してはどうか、と提言しています。また、一般的には140〜90mmHg以上が高血圧ですので、それ以上だと受診勧奨の対象になりますが、それ以外に全くリスクがない人は、生活習慣の修正にまず取り組んでいただく。

 それでも高血圧が続けば、軽症であっても、薬物治療を開始するというような提言をさせていただいています。

 一番大事なのは、高血圧、あるいは糖尿病、高脂血症は、ほとんど症状がなく脳卒中や心筋梗塞を起こすということです。だから、いかに一般の方々がそういう症状のない病気について深い関心を持つかということが重要です。2年前から高血圧協会を立ち上げて一般の方々への啓発活動を行っています。

 中尾氏 多種類のホルモンが、肥満症、糖尿病、高血圧などの成因に関連しており、ホルモンの研究は、急速に焦点をメタボリックシンドロームや生活習慣病の領域に絞り込んできています。ホルモン研究から新しい診断法が開発され、新しい治療法の開発ににつながる糸口になる成果が得られますので、今後、日本内分泌学会としては、そんな成果を出していきたいと考えています。特定健診との関連ですが、日本の肥満度については、グローバルな比較では低い段階であり、この低い肥満度で肥満の重要性が認識されたことは注目すべき点であると思います。すべての病気には、早期と進行した段階があるわけですが、肥満度が低い軽症で早期の段階にこの対策が行われるということの意義は極めて大きく、軽症で早期の方がより予防効果が大きいことは当然予想されるところです。

 渡邊氏 国立健康・栄養研究所は、国の「新健康フロンティア戦略」で糖尿病の1次予防の司令塔と位置づけられ、日本を医療費破滅から救うためには糖尿病患者を減らす必要があると、環境づくりも含めて日々考えています。実は私自身、メタボリックシンドロームから糖尿病を発症して15年になりますが、「1に運動、2に食事」でコントロールして、これで国民全体がどこまでいけるだろうかというのが、非常に大きな関心と課題と思っています。幸い、日本栄養士会、病態栄養学会など関連学会の方々と一緒に、どのように食事療法や運動療法を取り入れていけばいいかということを集中して考えています。

 本当のところ、国民一人一人のQOL(生活の質)をいかに高く保てるかということだと思います。現実に私の場合、15年間、糖尿病のインスリン療法をずっとやっていると、医療費だけで大体2000万円から3000万円かかっていたはずです。健康保険を使って3分の1自己負担でも、数百万から1000万ぐらい負担しないといけなかったかもしれないということで、まして動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞につながると、QOLはずたずたになってきます。

 たばこが健康に悪いというのは、とにかく医療関係者の間では常識になってきました。幸い社会環境も、喫煙をコントロールすべきだという方向に動いています。メタボリックシンドロームは、成人では随分、何とかすべきだという認知度が高まってきましたが、小児肥満の問題や食育の問題を取り上げていけばよい、と考えています。

(2008/04/02)