何事においても具体的でわかりやすい努力目標があれば、強い動機づけになり、達成しやすい。
4月から始まった厚生労働省の特定健診・保健指導は「健康のためやせる」という個人的な課題に加えて、医療費という国家予算を大幅に減らすことができる。逆に、成果が上がらなければ、健康保険組合などにペナルティーが科せられ、直接、間接に自分の生活に跳ね返ってくる。日々精進に励まざるを得ないだろう。
こうした周到なまでの仕掛けの中で40歳から74歳までの男女5600万人を対象に行う。「画期的」と海外の公衆衛生関係者らがうらやみ、論議するのも無理はない。根幹にあるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防の概念は、日本独自の先進的な発想、医療環境によるからだ。
昭和60年ごろ、大阪大の研究グループは、メタボの元凶を内臓の周囲にべったり蓄積する脂肪とみていた。当時、欧米でも、肥満、高血圧、高血糖など複数のリスクが重なると心筋梗塞(こうそく)などの危険性が高まると言われ始めていた。しかし、白人と比べて格段にやせ形の日本人にもこの症状があてはまる原因は、腹部がぽこりと突き出た内臓肥満しかなく、メタボとの関連を証明する必要があった。
「内臓脂肪を精密に計測できないだろうか」
そこで引っ張りだされたのは、X線により体を輪切りにした断面画像を表示する装置、CT(コンピューター断層撮影)スキャンである。1台数億円と高価で、もっぱら脳卒中やがんなど急を要する病気の診断に使われていたが、機械の空き時間を狙って敢行した。結果は予想以上でくっきりと内臓脂肪層をとらえていた。
その後も測定を重ね、断面積が100平方センチ以上あれば要注意という基準を導き出すことに成功した。一方で、力士のCTを撮り、皮下脂肪に比べ内臓脂肪が少ないことから、激しい運動で消費されることも確かめた。
このような研究が進んだ背景には、日本がCTなど画像診断機器大国という状況がある。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本のCT設置数は、100万人当たり92・6台(平成14年)とダントツの1位で米国の3倍近くある。加盟国平均が22・6台だから、欧米をはるかにしのいでいる。このため、CTによる検査料も1枚数千円と欧米の10分の1程度ですむ。こんな事情で、メタボ研究へのCTの本格導入は日本以外ではほとんど行われていない。
もともとCTは、英国EMI社が音楽部門でザ・ビートルズにより得た膨大な収益をつぎ込んで発明、1972年に発売された。日本には、3年後に導入されたが、国内メーカーは技術力を発揮し、低線量で短時間に広範囲を細部まで表示できるなど主要な開発を成し遂げ、世界をリードしている。
メタボ健診では、日本流の使い方をするところもある。日立健康管理センターの中川徹主任医長はCT画像の内臓脂肪部分を赤色で塗りつぶしたところ、受診者の反応がことのほか強かった。
「腹を割って話そうと呼びかけています」
先端技術は、メタボ予防が自分のあるべき姿を見つめなおす営みでもあることを教えてくれる。(さかぐち・よしのり)
(2008/04/12)