渡邊氏 私どもは3年前から肥満した人を対象に行っているプログラムで、1年間相当密に行動変容をして、体重が5%減った人がやっと51%ぐらい。当初の目的の10%減った人はわずか4分の1です。個人の行動変容を国民運動にするのは相当難しいことで、本人が自分のQOLを死ぬまで高く保つには、どういう生き方をすればいいのか、心から納得していただくのが大事です。それでメタボ撲滅委員会では、トライアルで3カ月間一生懸命やって、かなりの人がうまくやせたそうですので、そういう人たちがリーダーになって、コアをだんだん増やしていくというのが、うまく成功する道ではないかと思っています。
日本人は個人のレベルの話と公共の話とがいつも混在します。たとえば、禁煙というと、たばこは個人の嗜好(しこう)だからほっといてくれという話が出ますが、たばこで実際病気になった人は健康保険を使います。一生懸命に禁煙している人の保険料も使って、自分の疾患を治すことになる。メタボも同様で太っているのは勝手といっても、心筋梗塞になってバイパス手術するときは、必ず保険を使う。私も歩くことなどで17キロやせましたが、いかに身軽に運動できる体が自分にとって快適かということを実感してもらう。肥満からもとに戻って初めて健康の意味が心底わかるようになるので、ぜひそれを広げていただければと思います。
春日氏 この撲滅委員会では、1年目にはメタボという言葉や概念の普及に貢献し、2年目は実際にメタボ予防のために、いろいろ運動を展開してきました。3年目は、最初の意気込みをいかに継続していくかということが課題になるでしょう。
それから、もう一つは、最近のある研究では、人の脂肪細胞の数は幼児期から20歳までの間のみ増えるという報告があります。幼児や小学生のころの肥満を予防することが、メタボをなくすキーポイントかもしれません。実際、幼児期の肥満児童は、75%以上が大人になっても太っているらしい。幼児期に正常体重であれば、成人になって肥満するのは10%以下ということから考えると、幼児期から中学生ぐらいまでの食育を含めた教育が非常に重要だと思います。
また、生活習慣というのは非常に細かいことの積み重ねです。1日ちょっと食べないことを例えば1カ月続けると、計算上はすごく体重が減る。逆だと大変に太ってしまう。メタボを予防できるかは、日々の小さな努力の積み重ねだということを、再認識していただくことも重要かなと思います。
松澤氏 メタボが国のプロジェクトのターゲットになったために、この症状の予防だけですべての動脈硬化を減らすというふうに誤解されている方がまだ多い。やせていても、高血圧などリスクが重なっている人に対しては、ひとつひとつのリスクを治療していく必要があるのです。メタボを診断する目的は、薬よりも生活習慣の改善を優先する人を選び出しているという位置づけを再認識する必要があります。
生活習慣については、社会環境の問題も大きい。運動不足になりやすい環境とか飽食時代の環境に加えて、教育や子供の問題については外で遊べないなど社会的な要因もある。安全な自転車道路や運動できるグラウンドの整備を呼びかける啓発運動も大事でしょう。
さらに、保健指導する人材の育成についても、関連学会が共同で指導して、認定書を出すようなシステムをつくり、特定健診の制度に参加する動機付けを高めていくという考えはいかがなものでしょうか。
関氏 国の研修としては、特定健診・特定保健指導を担う医師、保健師、管理栄養士をはじめ、関係者の方々を対象に、国立保健医療科学院で3日間の研修を今年度も2回行いました。この内容を地元に持ち帰って、自治体主催などの研修会で講師になっていただき、逆に新たな地域での問題点を国や同僚参加者へ還元していただくことにより、関係するプロの皆さま相互のネットワークを密にすることができたらと思っています。
現在行われている取り組みに、さらに認定書といった要件を上乗せするようなことは今のところ考えておらず、まずは研修や情報交換などを通じて実質的な資質向上をいかに図っていけるかと考えています。
また、保健師、管理栄養士の人材確保については、今後、事業規模の広がりに呼応して、専門的資質を備えた人材の充足を図っていく必要があります。専門家サイドの取り組みとして、例えば、日本栄養士会が中心になって、全国47の都道府県の栄養士会が栄養ケア・ステーションを組織し、必要なときに管理栄養士などが支援に行くという仕組みをつくっています。非常に使命感を持って取り組んでおられる感じはしています。
松澤氏 今回の制度は、国際的にも非常に注目されており、何とか成功させていただきたい。種々の批判に対してもきめ細かくきちんと説明して、建設的によい方向に進めていただきたい、と思います。
(2008/07/20)